283話 ビビりは何人……?
283話 ビビりは何人……?
「すっ……ご」
「あれれ? ゆーしさぁんっ♡ もしかして怖いのかにゃ〜?」
「いや、いやいやいや。この高さが怖い奴いないって。というかお前も脚震えてるぞ」
「ま、まっさかぁ……」
バスから降りてしばらく。俺たちは写真スポットで何枚か写真を撮ってから下の景色を一望していた。
なんでもこのスカイロードは日本でも有数の高さ、長さを兼ね備えた人工橋らしく、まだこれから渡るそこに辿り着いてもいないのに既に足がすくんでいる。
それもそうだろう。写真スポットの後ろにある柵の向こう側はもう完全に落ちたら死亡確定の崖。傾斜という言葉すら使うのに違和感が出るほどの斜面は、もはや転がるという感覚を味わうこともできないだろう。落ちたら何にも触れることなく死を迎えることになる。
まあ当然そんな事故が起こらないよう万全の体制を引いているわけだが。警備員みたいな見張りの人もいるし、悪ふざけで事故が……なんてことはまずまず無いだろう。
さて、それよりも心配なのはこの後だ。
「ふっふっふ。こんなとこでビビってちゃスカイロードは渡れないぜ? な〜、有美っ!」
「へひゃぁっ!? ちょ、薫っ! アンタ高い所平気だからって……っ!!」
ぱしんっ、といきなりお尻を叩かれ、中田さんは飛び上がるように反応すると涙目で寛司の後ろに隠れる。
案の定、というか。もはや容易に想像はついていたが、中田さんも高い所は苦手らしい。
「んで、お前もなんやかんやでやっぱり平気そうなのな。寛司」
「い、いや……どうだろう。多分今の俺の状態はあれだと思う。ほら、ホラー映画で隣の人が自分よりめちゃくちゃ怖がってたら逆に怖く無くなる的な。正直一人だと渡れる自信無いな……」
あの寛司ですら……か。
仕方ないと言えば仕方ないけどな。この高さだ。高所恐怖症とか以前に人間的な本能で充分恐怖は感じられるはず。むしろ怖くない方が異常というか。在原さんはいくらなんでも肝が据わりすぎだろう。
そんなことを考えながら、気づけばぷるぷると震えて腕に巻き付いてきた由那の頭を撫でていると。そういえばもう一人、在原さんと同じようにとはいかなくとも全く臆している様子のない人がいた。
「蘭原さんは? 意外と平気そうだけど」
「あ〜、確かに! 言われてみればひなちゃん全く怖がってないな?」
「えっ!? あ、えと……はい。こういう所初めて来たんですけど、案外平気みたい……です。は、橋まで行ったらどうなるか分からないですけど……」
かなり意外だ。勝手な先入観で悪いが、由那と中田さんと蘭原さんはそれぞれ俺と寛司と在原さんに震えながらしがみついて橋を渡る様子が簡単に想像できたし。てっきり高い所は駄目だろうと。
人は見かけによらないな、うん。もしも俺に限界が来た時は由那を任せるとしよう。
「さてさてさ〜て? いつまでもビビってないでそろそろ先に進もうか」
「ほ、本当に行かなきゃダメ? 私だけここで待ってるっていうのは……」
「ば〜か。ここ渡った先に名物があるんだ。大丈夫だって。この橋が何年前から毎日整備されてここに聳え立ってると思ってんだ? 特に今日は風も控えめだし。きっと渡りやすいぞ?」
「う、うぅ……寛司? その、腕借りててもいい……?」
「それは勿論いいけど。本当に無理そうなら我慢せず言ってね? 俺も一緒にこっちへ戻るから」
「……が、がんばって、みる」
「だ、そうだぞ? じゃあ俺らも頑張るか」
「わ、わわ私も勿論ゆーしの腕を借りるからね!? もしもの時は全身巻き付いて歩くのをゆーしに全部任せるから!!」
「なんでちょっと自慢げなんだよ……」
全く、在原さんはとんでもないところを旅行ルートに入れたものだ。
ちゃんと全員で渡り切れるといいんだけどな……。




