281話 よからぬ思考
281話 よからぬ思考
「お待ちしておりました、湯原様。お部屋はこちらとその隣のあちら、そしてもう一つ向こうの計三部屋となっております」
「はいはい、ありがとうございますねぇ。じゃ私はとりあえず一番端の角部屋で。お前らはどうすんだ?」
「そ〜だなぁ。私と奈美ねえ、ひなちゃんで一部屋にして残りの二部屋をバカップル共に使わせるか……はたまた奈美ねえ一人で一部屋にして男子部屋女子部屋で分けるか。どっちにするかねぇ……」
旅館につき、全員でキャリーケースを押しながら女将さんの案内の元部屋の前まで向かう。
どうやら部屋決めのことはまだ完全には決まっていないようだった。
だが在原さんの言う通り、分け方なんてその二択しかないだろう。
寛司と二人きりになるか、はたまた由那と二人きりになるか。正直俺の中では……うん。答えは決まりきっているというか。
「ま、起きてる間はぶっちゃけ部屋割りなんて関係なくみんなで集まるだろうし。夜はバカップル共にイチャイチャさせてやるかな。っしひなちゃん、私たちも奈美ねえの部屋行くか」
「は、はひ!」
「えっと……じゃあ俺たちもひとまず荷物置きに行こうか。俺と有美は一番手前の部屋でいい?」
「ま、そこ二つはどっちでもいいしな。別にいいぞ。俺と由那は真ん中の部屋にする」
「えへへ〜、夜は二人きりでイチャイチャしろだって! いっぱい……いっぱいお布団の上でごろごろイチャイチャしようね、ゆーし!!」
「はいはい、夜になったらな。とりあえず早く行くぞー」
ここに立ち寄ったのはあくまで先生を降ろすというのと、キャリーケースを押しながら歩くとしんどいから荷物をある程度ここに置いておくためだ。
チェックインが早い分少しだけ値段は高くなったそうだが、ここら辺には駅も無いそうだし、バスにこの荷物を持ちながらというのはやっぱりしんどい。そこは仕方がないだろう。
中田さん達が部屋に入って行くのを見送ってから、俺と由那は一番最後に真ん中の部屋の襖を開ける。
「わぁ! わ〜っ!! 見て見てゆーし!! 和風のお部屋すっごく綺麗!! あっ、外の景色も!!!」
「うぉ、なんだこの部屋。思ってよりも凄いな……」
中には大きな机と脚のない椅子、その上に座布団が敷かれており、その向こうには開いている障子が一枚。その向こうは海となっており、中々に壮大な景色が広がっていた。
確かここは一泊で一万円もしない旅館だったはずだが、それにしては良い立地だ。部屋も綺麗だし、これで夜ご飯、明日の朝ごはんまで付いているというのだから充分すぎるくらいだろう。こんなところを選んでくれるなんてやっぱり流石在原さん。そこら辺の部分を任せたのは大正解だった。
「って見惚れてる場合じゃない。さっさと荷物まとめて準備しないと。みんなを待たせたらあれだし」
「ぶぅ〜。今すぐここで館内着に着替えてゆーしとイチャイチャしたいよぉ……。でも、みんなと遊びにも行きたい……ぐぬぬぬ」
「悩むな悩むな。ほら、早くキャリーケース開けろって」
「……むぅ」
全く、二人きりじゃなくてもお前はずっと引っ付いていただろうに。
というかコイツ、一体夜にはどれだけイチャイチャする気なんだ? いつも家でも中々な時間を費やしているわけだが、ここでも……いや、もしかしたらそれ以上に、何か特別なことが起こったり……。
(って、そんなわけない。よな?)
ふと由那の方に視線を向ける。
「……えへへ」
「っっ!!」
何を考えているのか分からない。分からない、が。
よからぬことを考えている。そのことだけは、すぐに分かった。




