280話 朝メック
280話 朝メック
「来たァ! 念願の朝メックだぁ!!」
「……すまん。何がそんなにいいんだ?」
駐車場に車が停まると、在原さんがはしゃぎ出す。
午前八時。高速道路を降り、俺たちは朝ごはんを食べるべくメックへと来ていた。
普通こういう旅行の時はなんかこう、地域の有名なお店とか。最低でもその地方にしかないチェーン店とかに行くものなのかな、なんて思っていたのだが。そういうのは昼以降に回すらしく、この旅行全体の予定をほとんど決めてくれた在原さんの中で朝はメックだと決まっていたらしい。
「旅行のスタートは絶対朝メックだって決めてたんだ! みんなでぐうたらだべりながらマフィンやらパンケーキを食べて今後の予定を話す……最高にエモくないかい?」
「はぁ、若いな。変におっさんみたいなとこあるお前でもそういうエモい? とかいうの感じたくなったりするのか」
「へっ、十代の輝きを失った奈美ねえには分からな……いっでぇ!?」
べごっ。在原さんの言葉に敏感に反応した先生から、額に鈍い音のデコピンが炸裂する。
あの先生でもそういうの気にするのか……。なんかちょっと意外だ。
席のシートベルトを外し、全員で車外に出る。
流石に朝ということもあり店内はガラガラで、二階のテーブル席二つをくっつけて七人で集まった。
俺と由那はハッシュドポテト一つずつとナゲット、中田さんと寛司はパンケーキ、マフィン二つ。在原さんはポテト、パンケーキ、マフィン、ドリンクが全て入った贅沢セットを。蘭原さんはハッシュドポテトのみで、先生はコーヒー。
各々が注文を終え席に戻ると、流石ファストフード店という早さで全員の朝ごはんが届く。そして、手を合わせていただきますをした。
「えへへ、私朝メック初めて! なんでか分からないけどこういうのってテンション上がるね〜!!」
「お、分かるか由那ちゃん。流石私の見込んだ女だ……っ!」
「はぁーあ。お前ら朝からよく食うなぁ。特に薫、お前そのセットなんかエグいぞ」
「ふっふっふ。これが若さなのだよ」
「あ゛あん?」
「ひえっ」
またデコピンされる! とでも言わんばかりに。サッと在原さんは額を両手で覆って防御体制をとる。
この二人、家族ぐるみで付き合いがある仲と言っていたけれど。やはり付き合いが長いのだろうか。たとえ血は繋がっていなくとも、やはり近所のお姉さんとそれに懐いた子供みたいな。こうやって冗談(先生は冗談と受け取っているか怪しいが)を言える関係ということはやはりそれなりの年月交友があったのだろう。
「ま、いい。私にはもう少しでタダ旅館が待ってるからな。うえへへ、お前らがどっかそこら辺をぷらぷらしてる間、私は温泉と日本酒に洒落込むとしよう。ふひっ、ふひひっ。私一人ならヤニも吸い放題だぁ」
「え? 先生ってこの後いなくなるのか? てっきり諸々の移動は全部車でするもんかと」
「いや〜、本当は私もそうしたかったんだけどなぁ。奈美ねえに頼れるのは行き帰りだけだ。私たちはこっから電車とかバスを使うことになる」
「ほうなんら。ふもっ、ふももも」
「有美? 口の横にハチミツ付いてる」
「ふもっ!?」
あれ、そういえば俺たち、これからどこに行くのかとか全く聞かされてないな。
在原さんが決めてくれるって言ってたからついつい全部任せてしまった。まあ前の日帰り旅行も結局のところこの人の案が通ったわけだし。ある意味信頼を置いているからこそなのだけれど。
「じゃあそろそろ話しておこうか。これから私たちが二日間で辿る行き先を!!」
なんだか、中身の分からない宝箱を開ける時みたいな。ワクワク感が心の底から湧き上がってきていた。




