275話 よふかし二人組3
275話 よふかし二人組3
「お待たせしました〜」
プルルルル、と番号札から音が鳴り、受け取り口にそれを返して料理を受け取る。
肉玉うどんは意外にサイズが大きくおにぎりと一つのお盆にまとめて乗せられたことでギリギリのバランスとなっている。
流石にこれを有美に持たせるわけにはいかない。こういう物を頼む時いつも七味とかネギとかは一切かけていないのは知っているので、そのままお盆を運ぼうとしたのだけれど。
「あ、ちょっと待って寛司。おにぎりだけでも持つ。結構重いでしょ?」
「ほんと? ありがと。助かるよ」
有美も俺と同じようなことを感じていたのか。おにぎり二つと昆布の乗ったお皿を持ち上げ、お箸とれんげも彼女が運んでくれることとなった。
机に戻り再びソファー席に腰を下ろすと、二人の間に肉玉うどんの乗ったお盆を置く。ほのかな甘い香りのせいで、さっきまではそれまでだった空腹感がより強まっていくのを感じた。
「「いただきます」」
手を合わせると、早速有美は割り箸を綺麗に二つに。れんげは肉玉うどんに浸け、丸いくぼみにゆっくりと出汁が溜まっていく。
「あれ、ごめん。お箸一個しか取ってなかったっけ。俺の分取ってくるよ」
「寛司の分なんて、いるの?」
「えっ?」
「……二人で一つあれば充分でしょ。一緒のお箸で食べよ?」
「〜〜っ!? う、うん」
きょとん、と首を傾げながら。有美はそう言うと出汁の入ったれんげをゆっくりとこちらへ差し出してくる。
「はい」
「……ん」
当たり前のように近づいてきたそれを口で咥え、暖かい出汁を喉に通す。
卵の甘出汁と、ほんの少しのお肉。ネギの風味も口の中に広がってきて、とても柔らかい風味が幸福感をもたらしてくる。
パーキングエリアのメニューとは思えないほど本格的だった。まるでうどんの専門店で出されているかのような味だ。まああまりそういうところに行った経験が豊富なわけではないので、本当に通な人が食べたらまた違う意見なのかもしれないけれど。
それでも少し冷えた身体にこの暖かさはよく刺さる。おにぎりを食べただけじゃこの幸せは得られなかっただろう。
「美味しい。ちょっと甘めで結構好きな味かも」
「ほんと? じゃあ私も早速────つ゛う゛っ!?」
「有美!? だ、大丈夫……?」
「……絶対舌やけどした。ピリッてするぅ」
れんげを口に運んだ瞬間。ビクンッ、と身体を震わせると即座に口を離した有美に、そっと水を手渡す。
どうやら猫舌の彼女にはまだ出来立ては熱かったみたいだ。舌がピリピリするというのは分かりやすく舌をやけどした時の症状だし。
ちょびちょび、とコップに入った水を飲みながらしゅんとしているところは可愛いけれど、気をつけてもらわないとな。俺も油断してた。止めてあげるべきだったか。
「じゃあ先におにぎり食べる? こっちなら全然熱くないよ」
「うぐぐ。そっちなら本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ほら」
手で触っただけで分かる程よい温度なおにぎりを、俺は有美を安心させるため一口齧る。
味付けは特になし。シンプルに白ごはんを三角形ににぎり海苔を巻いた物だ。おそらく隣に添えてあるこんぶを乗せて食べるか、うどんの出汁と一緒にいただくのが正しい食べ方なのだろう。
口に含んだそれを咀嚼し終えると、俺はもう一つのおにぎりを手にとって有美に手渡そうとする。
が、何故か受け取ってくれなくて。俺の渡そうとした方には目もくれず、逆の手で持っていた綺麗な三角形でなくなり頂上部分が歪に齧られた方を指さして。言う。
「……ヤダ。そっちがいい」
「え? こっちは俺の食べかけだけど……」
「っ。す、好きな人の食べかけの方が、美味しいに決まってるもん……」
思わず変な声が出そうになった。言ってくれていること自体は嬉しいんだけども。いくらなんでも少し小っ恥ずかしい。
「そ、そっか。分かった……」
「ありがと。昆布も一枚貰うね」
何なんだ。可愛い。さっきから有美がする行動の一つ一つ、全てが可愛すぎる。元々可愛かったのに、今は甘えんぼが限界突破しているせいで余計に。
「はむっ。んぐぅ……おいひぃ」
「そう? なら、よかったよ」
無自覚に俺を喜ばせる天使のような微笑みに、思わず頭をそっと撫でる。
「んっ……」
すると、まるで頭を擦り寄せるかのようにまたお互いの身体の距離が縮まって。
何度も何度も有美への好きが溢れ出て止まらないのを、食事中ずっと。ひしひしと感じ続けるのだった。




