268話 深夜のパーキングエリア1
268話 深夜のパーキングエリア1
深夜の高速道路で車に乗り続けること数時間。
途中で先生に限界が来たので、一旦パーキングエリアへと避難した。
その頃には既に午前三時を回っており後部席の二人、蘭原さん、由那は既に夢の中。先生と俺と在原さんだけが起きている状況で休憩を挟むこととなった。
とは言っても、俺ももう限界だったりする。夜が極端に弱いわけではないが、時間が時間だ。
「三時間くらいはここにいるからな。トイレ行きたい奴は勝手に抜けていけよ〜。じゃ、おやすみ」
運転席の背もたれが少しだけ後ろに倒れて来ると、先生はアイマスクをつけあっという間に就寝。そんな様子をクスクスと笑いながら見ていた在原さんだけが元気そうに、後ろは振り向いた。
「神沢君、意外と夜は強い感じか? 他は全滅だってのに」
「いや、俺も割と限界が近いよ。てかそう言う在原さんはまだまだ元気そうだな」
「ま〜私は夜型人間だからなぁ。ゲームのしすぎで生活習慣を潰した成果ってとこかな」
「成果? 弊害の間違いなんじゃ……」
「はは、細かいことは気にすんなよい」
さて、じゃあ俺もそろそろ寝るか。
トイレに行きたい気分でもないし、多分ここを出る前に一旦全員を起こしてその確認はしてくれるだろう。
ならあと三時間、日中に眠くならないよう仮眠をとっておくべきだ。
そう、思っていたのだが────
「んみぅ。ゆーしぃ」
「え? どうした由那。起きたのか?」
「……といれぇ」
ちょ、えっ。マジか。
予想外のタイミングで薄ら目を開けた由那は、ぽよぽよとした表情で言う。
「今すぐ、か?」
「う〜〜ん。おちっこ、もれそぉ……」
「漏れっ!? わ、分かった! よし、行くぞ!!」
こんな車内で漏らされたらたまったもんじゃない。不自然な時間に起きたと思ったが、尿意でだったというわけか。
「神沢君? どうかしたのかにゃ〜?」
「あ、在原さん! ごめんちょっと手伝って! 由那がトイレ行きたいって!」
「お〜う。了解っ」
俺の家でならトイレの前まで連れていくことなど造作もないが。外で、となるとそうはいかない。
せめて由那がもう少しちゃんと起きてくれていたなら自分で歩かせればいいだけのことなところを、この感じじゃそうはいかない。そのうえ漏れそうってことはタイムリミットもかなり近そうだ。
在原さんが起きてくれていてよかった。これなら女子トイレの前まで連れて行けばあとはなんとかしてもらえる。
急いで車のドアを開けた俺は、腕にぴっとりと引っ付いている由那を一旦剥がし、おんぶの体勢に切り替える。
「うぅっ。ゆ、揺らさないでぇ」
「へっ!? ご、ごめん!」
ゆさっ、と身体を揺らし背中の上の方まで持ち上げた瞬間。彼女はそう呟くと、ぷるぷると小さく震えた。
まずい、どうやら本当に限界みたいだ。
在原さんも助手席から降りて来ると、俺の横を早歩きで並走。そしてトイレの前まで由那を連れていくと、ゆっくりと降ろして役割を交代する。
「在原さん、あとお願い!」
「あいあいっ。ほら行くぞ、由那ちゃん〜」
「う〜ぅ」
脚を内股にしながら、背筋を丸めて。在原さんの付き添いのもとおぼつかない脚でやっと歩いてくれた由那は、そうして女子トイレに消えていく。
「ったく、焦らせやがって……」
突然の事態で焦ったもんだから、ついさっきまで心地よく睡眠に誘おうとしてくれていた眠気も消えてしまった。
まあ、生理現象だし仕方ないんだけども。




