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262話 薫のお願い2

262話 薫のお願い2



「ふぃ〜。待たせたな薫。で、お願いってなんだ?」


「あのなぁ……。普通こういう時って一本吸って戻ってくるもんじゃないのか? 何ガッツリ時間かけて五本も吸ってんだよ」


「hahaha。まあ待たせてるの薫だし?」


「クソッ、ヤニ吸ったら露骨に元気になったな……」


 そりゃそうだ。ヤニは私にとってエナジードリンク。飲めば血液循環が加速して体温は上昇し、全身の運動能力が増す。


 喫煙歴はそこまで長くない私だが、もうヤニは生活の一部になっている。ヤニと酒があって初めて私はこの世に存在できるのだ。


「ま、いいや。んでお願いの内容なんだけどな」


 ポリポリ、と頭を掻きながら。どこか諦めるようにしている薫は言葉を続ける。


「運転手、やってくんない? あと引率」


「……は?」


 突拍子のない話にきょとんとしている私に、詳しい説明が聞かされる。


 まずこの夏休み、どうやら薫、蘭原、江口、神沢、在原、渡辺の私のクラスきっての仲良し組で旅行を計画しているらしい。


 だが高校生というのは自分で宿を取ることができない。宿以外にもカラオケやネットカフェだって大体十八歳未満だと夜の何時以降は立ち入り禁止、みたいなのがほとんどだ。


 つまり日帰りが限界。それはどうにかできる問題じゃないし、どれどけワガママを言っても覆ることはない。


 だからコイツは、大人である私に頼ったのだ。


「奈美ねえがいれば移動費は安く済むし、夜も宿泊できる! これパーフェクトプランだろ!!」


「はぁ……。あのなぁ。私だって暇じゃないんだぞ。今日はアレだが、ほぼ毎日学校に駆り出されてやれ事務作業だの授業スケジュール作成だの、やることいっぱいあんの。他を当たってくれ」


「ちょいちょい! まあ待てってそう急かすなよ! そこら辺ならちゃんと考えてあるんだ!!」


 いや、急かしてないが。私は全然行きたくないぞ?


 大体なんでクラスの生徒を私が旅行に連れてってやらなにゃらんのだ。まず第一に面倒くさいし、あと私はペーパードライバーだ。命を預かるのは怖いし、加えて夏休みにそう簡単に何日も暇を作れない。


 ここまで断る理由がパーフェクトに揃っているのに、覆すことなんてできるものか。


「まず車はレンタカーじゃなく、緑おばさんに借りる。これで経費は軽減されるし、まあほとんど使ってない車らしいからな。最悪事故ってもそんなに怒られないだろ」


「ああ〜? お母さんの車って……てか、オイ。私のとこ来る前にお母さんに連絡して段取り始めたのか?」


「へ? ま、まあそこは一旦置いといてくれ。で、だ。重要なのはここから」


 オイオイ、コイツ既に根回しまで始めてるってのか。用意周到というか、私を断れなくする気満々で悪知恵がよく働いてるというか。


 まあつっても、何より第一に私が面倒臭いと思っている時点で積み上げて来た準備は全部崩壊するんだけどな。なんで夏休みにまでクラスの生徒の……それも旅行なんぞに付き合わなきゃいけないんだ。いくら担任とはいえそこまでするいわれは────


「行き帰りの運転以外は自由。宿泊費は緑おばさん持ちで、宿泊手続きは全部私がやる。だから奈美ねえは身一つで来てヤニと酒と温泉を一泊二日で楽しむだけだ」


「イクぅッッッ!!!」




 即答だった。

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