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259話 運動音痴と筋トレタイム4

259話 運動音痴と筋トレタイム4



 しばらくお腹をなでなでしてやると、やがて由那は完全に絆されて。ぽっかぽかになったお腹を曝け出しながら喉を鳴らす。


 ごろにゃんごろにゃんととても気持ちよさそうだ。もはやこの様子は完全に心を許し切って主人に甘える猫と相違無い。


 が、ハッと気づくようにして。目を見開いた由那はいきなり身体の反動と床から立てた腕を最大限に使って上半身を起こす。


「って……ゆーしだけズルい! 脚押さえてるだけでまだ筋トレしてないよぉ!!」


「え? あー、そういえばそうだったな。由那が無抵抗になでなでされてるもんだからすっかり忘れてた。えっとじゃあ、変わるか?」


「うん! 交代!!」


 腹筋、か。最後にしたのはいつだろうか。


 思えば運動部にも属してなかったので、本当に一年ぶりとかになるのかもしれない。一応中学三年間毎年学年が変わったすぐ後に運動能力を試すテストみたいなものがあって、それの種目として三十秒間に何回腹筋ができるかというのを計測された覚えはある。


 短距離走、長距離走、長座体前屈に反復横跳び、ボール投げ等々。一つ一つの細かい結果は覚えていないが、まあ良くなかったことは確かだ。成績不振で呼び出しを喰らう者もいる中それは回避できていたものの、良くも悪くも帰宅部。運動能力は中の下くらいが妥当だろうか。


「ふふっ、実はゆーしもできなかったりしてぇ。最近ずっと私とイチャイチャしてばっかりで運動なんてこれっぽっちもだもんね〜♪」


「う゛っ。ふ、不安になること言うなよ。俺もそこまで自信無いんだからさ……」


 さっきまで由那が寝転がっていたマットに同じようにして身を倒し、脚だけを曲げて足首を押さえてもらう。


 やっぱり久しぶりの感覚だ。正直今の自分がどれくらい腹筋というものをできるのか、まだ全く想像がついていない。こんなことならあらかじめ少しでも日常的にトレーニングする習慣をつけておくべきだったな。


 頭の後ろに両手を合わせ、小さく深呼吸しながら、そんなことを考える。


 だがもう後の祭り。この状態まで来てしまった以上、あとは大人しく全力を尽くす他ない。


 由那じゃないんだ。一回もできないということはないだろう。


「……っ!」


「お、お〜っ!!」


 お腹に力を込め、ゆっくりと身体を起こす。


 思っていたより────キツい。なんとか背中はマットから離れたものの、中々どうして身体を起こし切れない。


「つ゛っ……ん゛!!」


「凄い! ゆーし凄いよ! もうちょっと!!」


 そしていつの間にか、さっきまで自分と同じ音痴具合を披露してもらうのを期待していた彼女さんの声は成功を祈る声援に変わっていて。


 その声を聞き、最後の力というやつを振り絞りながら自分の膝小僧が顎の近くに映ると。ようやく今、一回腹筋ができたことを自覚した。


「ふぅ……もう、一回」


「がんばれっ♡ がんばれっ♡」


 勢いに身を任せ、一度倒れ込むように最初の体勢に戻ってから。また、起き上がる。


 二回でも腹筋がピクピクし始めて、身体にガタが来始めていることを強く感じる。せめて五回か十回くらいは連続で成し遂げたいものだが……。


「さ〜〜んっ!」


 震える身体を起き上がらせ、由那と至近距離で目が合う。


 まるで楽しんでいるようだ。純粋に声援を送りながらそんな顔を向けてくれるのは嬉しい。正直かなり力が湧いてくる。


「え、えへへ。頑張ってるゆーしの顔、かっこいいなぁ……」


「ちょ、笑かすなって!」


「笑かしてなんてないも〜ん。ほら、彼氏さん頑張って〜! あと二回!! 頑張ったらご褒美……あるかも?」


「ぐぬおぉぉぉ!!!」


 四回目……五回目。





 もはや断末魔とも取れるほどに情けない叫びを轟かせながら。俺はなんとか最低目標回数に達成すると、完全に脱力して。マットの上に倒れ込んだのだった。

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