257話 運動音痴と筋トレタイム2
257話 運動音痴と筋トレタイム2
「幸せ太り……ねぇ」
「そうなんだよ! ごろごろイチャイチャをし過ぎたせいで!!」
由那はたまに、体重が増えてしまったという話題を持ち出してくることがある。
が、正直俺の目から見たら何を言っているのやらといった感じだ。由那のお腹を見る機会は多いが相変わらず引き締まっているし、食べる量は多いもののしっかり消化しきれているように思える。
人の身体は時間帯によって一キロほど体重が上下するという話を聞いたことがあるし、もしかしたら測る時間的な問題もあるのかもしれない。そうなると実際のところは太ったという認識そのものが誤りだった可能性も。
(ただ、運動すること自体は悪いことじゃないんだよなぁ……)
その幸せ太りが原因で過度な食事制限を始めるとか、そういう話なら俺だって全力で止めに入る。しかし今由那がしようとしているのは運動。そしてそれは不健康なことに、俺たちの日常にほとんど組み込まれてはいないものだ。
由那の幸せ太りは、俺とて簡単に客観視していい問題ではない。このまま運動をせず二人でごろごろイチャイチャを繰り返していたら、確実に太ってしまう日が来るだろう。
良い機会だ。一人でやるよりも由那と二人でな方が幾らか気は楽だし。運動する習慣をつけてみるか。
「分かった。じゃあせっかくだし、二人で運動するか」
「え!? て、手伝ってくれるの……?」
「もちろん。俺も最近運動不足は感じてたしな」
正直超絶運動音痴の由那に一人で運動させるのも不安だし……という声は、心の内に留めておいて。とにかくこうして、二人で運動をするという流れになったのだった。
一応朝ごはんは完成してるみたいだけど、いくら走る系ではないとはいえ筋トレもお腹がいっぱいな状態だとやり辛いだろうしな。せっかくだから今からやることにしよう。
「で、どんな運動がいいんだ? お腹周り……ってことはやっぱりさっきやってた腹筋(全くそんなふうには見えなかったが)みたいなのになるのか?」
「う、うん。走るのはできる気がしないし……。それなら筋トレかウォーキングのどっちかかなって!」
「ならとりあえず腹筋からだな。さっきの見た後だと不安しかないけど」
「むむむ、聞き捨てなりませんな! 確かに私は多少……ほんのちょっぴりだけ運動が苦手だけど! 腹筋くらいはできるもん!!」
「なら見せてもらおうかね。ほら、脚持っててやるから寝転がれ」
「望むところだよ!!」
一体どこからその自信が湧いてくるのか。
さっきお腹をプルプルしながら寝転がっていたのは腹筋で身体を起こすことができずにお腹を力ませている状況を続けていたからじゃないのか? そりゃ数回くらいは誰でもできるだろうから由那もそうなんだろうけど。俺の予想だと十回もできずにあの状況に陥っていた予感がする。
脚をくの字に曲げ、足首のあたりを俺に押さえられながら。由那は頭の後ろに手を置いてマットの上に寝転がる。
(ん゛っ。なんかこの体勢、ちょっとあれだな……)
いや、これは健全な筋トレのお手伝いだ。決して。決してやましい気持ちがあるわけじゃない。そんな目で見たりなど……
「じゃあ、いくよ!」
ぷるんっ。ぷるるんっ。
「おっふ……」




