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254話 これからもずっと

254話 これからもずっと



「ふいぃ……疲れたぁ……」


「も〜、本当はもっと着て欲しい服いっぱいあったのに。ま、薫にしては付き合ってくれた方だからいいけどさ」


 紙袋を肩から下げながら、私は大きなため息と共に店を出る。


 結局あの後十通りくらい着せられた。私には似合わない可愛らしいものから、オシャレ系のもの。あと少し季節外れなことから値下げされていたセーターなどなど。


 まあ流石有美といったところで、なんやかんやで気に入ったものもあり。三着のシャツと二本のズボン、部屋着としての上下ジャージを一セット購入することとなった。出費は嵩んだが良い買い物だ。


 有美は有美であの上下コーデ以外にも何着かいいものを見つけて、私を着せ替え人形にするだけではなくしっかりと自分は自分でいいものを購入できたようだ。渡辺君に服を褒められた時ほどではないが、満足気でいい表情をしている。


「こんなに歩いたの久しぶりだし、私は明日筋肉痛確定だろうなぁ。今から想像するだけでキツいぜ……」


「普段から運動してないからでしょ? あ、せっかく夏なんだし一緒に運動する習慣でもつける? 朝走るとか!」


「か、勘弁してくれぇ」


 なんだコイツ、嬉しそうにしやがって。普段私に弄られてばっかりだから、やっぱり弱ってるところを見ると少なからずスッキリする部分があるのか。くそぅ、我ながら不甲斐ない。


「まあでも、今日は本当に楽しかったよ。最近薫と遊ぶ機会、減っちゃってたもん」


「へ? あ、あぁ。言われてみれば確かに……な」


 いや、違う。これは……


 有美はどこかスッキリとしたような。それでいて、本当に心の底から嬉しそうな。そんな表情で微笑む。


 その笑顔の意味が何なのか。私はすぐに理解してしまった。


「薫とは、ず〜っと親友でいたいから。たまには薫からも誘ってよね」


「……おう。そう、だな」


 その原因を作ったのは、お前だろうに。


 渡辺君と付き合い始めてから、有美は私と会う機会が少しずつ減っていった。それは有美が私を嫌いになったからとかそういうのではなくて。単に好きな人ができて、ずっと一緒にいたいという気持ちがどんどん強まっていって。必然的に私に割ける時間が短くなっただけ。


 でも、そのことを私は一度だって負の感情で捉えた事はない。むしろ親友の恋路を応援したくて、無意識にこちらから二人きりで何かに誘うような機会を減らしていたようにも思える。


(なのに。ズルいなぁ、コイツは……)


 どうやらそんな感情は余計だったようだ。


 有美は昔から変わらず、ずっと私のことを親友だと思ってくれていて。私もまた同じように、有美のことを唯一無二の親友だと考えている。


 だからこの縁は、一生大事にしていきたい。有美が渡辺君と恋人として段階を踏んで、次第に私から離れていっても。それをただ傍観するのではなく、自ら糸を手繰り寄せるように。絶対に私を捨てず親友として存在し続けてくれるであろうコイツを、私からも求めなければならない。


 そしてそれはすなわち、″我慢するな″ということだ。変に気を遣いすぎず、もっと一緒にいて欲しい。有美はそう、言ってくれているのだ。


「実はな。お前と行きたいなと思ってた場所がある。ほら、最近駅前にできたっていうあの……」


「スイーツグラウンド!?」


「はは、それだ。私はいつでも予定空いてるからさ。そっちも空いてる日教えてくれよ。二人で行こうぜ」


「うん! へへ……久しぶりに薫から誘ってもらえた気がするよ」


「んな大袈裟な。気のせいだよ、気のせい」


 たく……なんだこれ。柄にもなく照れくさいじゃないか。


「ま、その……なんだ。これからもずっと、お前は親友だからな。いくらでも誘うし、誘われてやるよ。お前も彼氏ばっか優先せず、たまには私に構えよ?」


「あ〜! ね、薫顔赤いよ? 珍しく照れてるの〜!?」


「うっせ。んなわけねえだろ〜!!」


「いたっ! いたたたたっ!? ちょ、なんで頬抓るの!?」


「有美のくせに生意気だからだ! お前は私に弄られてるくらいでちょうどいいんだよぉ!!」


「いひゃ、いひゃひ! いひゃひゃぁっ!!!」


 本当、生意気だ。有美のくせに。




 私のペースを乱しやがるなんて……。

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