245話 独り占め
245話 独り占め
(ふふっ、ゆーし目がとろんとしてる。可愛い……)
朝見た完全に熟睡してるところとか寝起きでウトウトしてるところも良かったけれど、今のゆーしにはそれと違ったまた別の魅力がある。
思考能力が下がって子供っぽくなってるのは同じだけど、こう……素直に甘えてくれそうなところがキュンとくる。思わず頭をなでなでしてしまいたくなる可愛さだ。
「ん」
「え……?」
「ハグ、するんだろ……?」
「う、うううんっ!」
ぎゅっ。ゆーしの方から私の背中に手を回すと、そのまま胸元に引き寄せて抱きしめてくれる。
身体はもうポカポカで、湯たんぽのように。自分から抱きついてきて内側に収納してからじんわりと温めてくれる新種が発明された。
(もぉ。結局私がドキドキさせられるんだね……)
一瞬。ほんの一瞬だけ、膝枕をお返しすることで私が甘やかす立場になったのに。
気づけばついさっきまで胸の内を埋め尽くしていた母性は消えて、一瞬で身体が甘やかすモードから甘えるモードへ。トクンッ、トクンッ、と心臓が跳ねると、目をほとんど閉じかけている彼氏さんに視界が釘付けにされていく。
「キス……してもいい?」
「んー……」
「えへへ、じゃあ遠慮なくっ」
唇を重ねる。手をにゅっと伸ばしてゆーしの顔をこちらへ引き寄せるようにしてから、二度。
ゆーしはそろそろおねむが限界まで来ていたようで、目は虚などころか完全に閉じていた。もういつ寝てしまってもおかしくない。
それなのに────
「ん゛っ……んぁっ……」
ただ受け入れ、されるがままのキスとは違って。男の子の強い力で逃げられないよう身体を抱きながら、どんどん密着度を高めてくる。ほとんど無意識に落ちている中でも、私を求めてくれていた。
「ゆ、なぁ……」
「え、えへへ……私の夢、見てくれてるの? 照れくさいなぁ」
どうやら寝てしまったらしい。私の名前を呼ぶ小さな寝言と共に子供のような寝息を立て始めたゆーしは、幸せそうに目を閉じている。
(今日は一晩中、私がゆーしを独り占めできるんだ。ぎゅっしながら寝落ち、できるんだ……)
密着度を高めれば高めるほど。彼氏さんの寝顔を見つめれば見つめるほど。幸せホルモンがどんどん分泌されてポカポカが止まらない。
ああ、好き。やっぱり好き。ずっと……好き。
ほっぺたをツンツンとつつく。手や腕は硬いのに、意外と柔らかい。女の子みたい。
胸に耳を当てる。ドクンドクンと脈拍が微かに聞こえてくると、安心できる。
唇を重ねる。寝ているゆーしの唇を勝手に奪ってしまっているという僅かな罪悪感と、それに勝る大きな幸せ。ずっとずっと、いつまでもシていたいと。そう思わせるほど甘い感触に包まれた。
お泊まりの魔力は凄まじい。いつもは数十分、長くても一、二時間しか連続では充電しないところを、意識がない状態がほとんどとはいえここから何時間も……下手をすれば十時間以上も。たっぷりと満遍なく電力供給して、身体をゆーし成分で満たすことができる。
まるでスマホに充電コードを刺して、充電が百パーセントになってもずっと放置し続けるみたいな。供給過多確定の夜に、期待と幸せで身体が震えた。
「大好きだよ、ゆーし……ずっと、ずっと一緒にいようね……」
そして、私も後を追うように。
────夢の世界へと落ちていく。




