242話 夜のイチャイチャ
242話 夜のイチャイチャ
『俺……お前のことが好きなんだ! 俺と────付き合ってくれ!!』
『……はいっ!』
卒業式終わりの校舎裏。高校のバレー部でキャプテンとマネージャーという関係だった二人が結ばれる。
主人公の告白に涙ながら答えた彼女もまた、密かに想いを寄せていた。両片想いと呼ばれる関係性な二人は三年間秘めていた気持ちを曝け出し、部活仲間から恋人同士へと昇格する。
そんな青春真っ盛りのアオハル映画と呼ばれるそれを一台のスマホで眺めながら。俺たちは肩を寄せ合っていた。
「私、こういうベタな恋愛映画好きなんだぁ。シンプルでどこにでもある話かもしれないけど、むしろ私はそっちの方が没入できて」
「あー……ちょっと分かるかもな。設定が特殊すぎたり浮世離れし過ぎたりするストーリーだとどうしても他人感があるし。感情移入はしづらいか」
これは由那がどうしても前から見たかったのだという映画がようやく契約していたサブスクにて解禁されたので、二人で見ることにした。
両片想いの二人で起こるすれ違い。少しの障壁。そしてそれを乗り越えた後の告白成功。ドロドロし過ぎず、かといってダラダラと退屈な展開が続くわけでもなく。そんなめちゃくちゃ有名にはならなくともそれなりに一定の人気を獲得できそうな、単純明快で分かりやすい脚本の映画だった。
「ん〜っ! 二時間も見てたら背中痛くなっちゃった! 膝枕してぇ〜?」
「はいはい。というかお前、結局二時間ずっとぴっとりだったな? いや、もちろん良いんだけど」
「えへへぇ。だってゆーし、ずっと頭なでなでしてくれるんだもん。あんなの心地よくて離れらんないよ〜♪」
ぽふっ、と俺の膝に頭を乗せてベッドの脇に寝転がりながら。猫撫で声でそう言う彼女の頭を、またゆっくりと撫でる。
母さんに抵抗するように放った一言が、思いがけず由那にはかなり刺さったらしい。いやまあ本心だし、撫でられるためにたっぷり甘えてきてくれるの自体は全然構わないが。
ただでさえ遠慮のない由那が更に本性を曝け出してきた。嬉しいような、まだ一晩たっぷりとこの時間が続くかもと考えると大変なような。
「ね、今日お泊まりだよぉ? このまま一晩中徹夜してイチャイチャしちゃう?」
「おい、待て待て。それ朝にはふらっふらになってるぞ。別に明日の日中だって家にいるんだからそんな焦らなくても」
それに俺は、由那と抱き合いながらぐっすり眠るのも最高だと思うけどな。と、心の中で呟きつつ。由那は案外簡単に引き下がってくれたので、とりあえず頭なでなでを継続した。
「てか、俺も背中痛くなってきたな。せっかくベッドがあるんだし俺も寝転がっちゃダメか?」
「いいよぉ〜。あ、でも今は膝枕してもらってたい気分だから膝は貸しててね! あと頭なでなでも!!」
「……それ、寝転がりながらだとできないんだが」
まあ要するに、もう少しこうしててくれと。
「じゃああと三十分!」
「な、長いな……」
「そしたらその後は交代……するよ?」
「喜んで。喜んでさせていただきます」
「よろしい〜♡」
膝枕の欲望には逆らえない。
それを簡単に理解させられたのだった。




