238話 二人きりでポカポカお風呂7
238話 二人きりでポカポカお風呂7
どうやるのが正解なんだろう。
キスマークというのは吸われた部分が内出血を起こすことで跡が付くものだと聞いたことがある気がする。要するに強く吸えばいいのか?
「んひ、ぁっ!? ゆ、ゆーし……やめっ!」
由那は俺にしている時、どうしてた。
真正面から馬乗りになって首元に吸い付き、しばらくずっと離れないでいた。そしてその吸い付く強さは俺が少し痛いと思うくらい。その結果、今俺の首元にあるキスマークは綺麗に紫色の跡となって残っている。
真似ができれば必然的に同じような跡を残せるはずだ。
「ひ、にゃ……あぅ……」
痛がらせてしまってはダメだと無意識に抜いていた力を、込めていく。
口先に力を入れて、心の中で由那に謝罪しつつ。五秒ほど吸い上げてから唇を離すと、そこには……
「で、できた」
由那の残したものほどくっきりしたマークではなかったものの。薄らと紫がかったキスマークがそこにはあった。
「……ゆーし? び、びっくりしたよ?」
「いやぁ、マジでごめん。由那の綺麗な首筋見てたらさ……俺もキスマーク、付けたくなった」
「むぅ。こんなの何がいいんだ〜って言ってたくせに」
「ごめん。ごめんて」
ぷくりと頬を膨らませながら髪を下ろすと、由那は振り向いてそう言う。
「で、どうだったの?」
「……めちゃくちゃ良かった」
正直ここまでとは思っていなかった。
好きな人の身体にお前は自分のものだと証を刻む。そんなことをしなくてもずっと隣にいられるであろう相手なら、その行為には意味が無い。むしろ捻くれた受け取り方をすればそうでもしないと離れてしまうと心配になる関係性の人がするものだ、とまで。
だが、違う。実際にしてみるとこの行為は″相手が好きであればあるほど″感情が昂るものだった。そんなことをしなくても、なんて。むしろ逆だ。
相手に向けた強い愛情を身体に刻み、跡を残す。これは本来であれば言葉で伝えることしかできないそれを形にして認識させる。した側もされた側も、それを見るだけで好きを再確認できる。
「ふふ〜ん、分かってくれてよかったあ。じゃあこれからは定期的に付けてね? 私もい〜っぱい、付けるから」
「ん、んぅ。いいけど、さ。見えないところにしような? 流石に何箇所も絆創膏で隠すわけにはいかないし」
「え〜? でも見えるところにした方が、ゆーしは私のものだって色んな人にアピールできるのに〜」
「せんでいいそんなアピール」
「でもゆーしだって、人から見えちゃうところに付けたよ?」
「う゛っ……そ、それは……そこまで深く考えてなかったというか……」
確かに由那の言う通り、今こんなことをした後ではさっきの提案に待ったをかけられても仕方がないけども。というか……由那は俺のものだって周りの奴ら全員に見せつけられるっていうのは、結構、いやかなり魅力的だけども。
しかしそんなことをしたら母さんからは揶揄われ、周りからの殺意は余計に強くなる。それはやっぱりごめんだ。
「もぉ、しょうがないなあ。まあ今回はヘタレなゆーしが珍しく頑張ってくれたし。それでさっきおっぱい触っちゃった件も許してあげるっ」
「へ、ヘタレて……」
「えへへ……ゆーしからの好き、刻みつけられちゃった。嬉しいにゃぁ……」
すりすり、とキスマークを手で撫でながら。幸福そうな横顔で呟く。
どうやら相当喜んでくれたようだ。頑張ったというか、衝動に駆られてしまっただけだったんだが。結果オーライというやつか。
「ね、私からも好きのお返しい〜い? このまま引っ付いてイチャイチャキス、しよ?」
「へっ!? い、いやこれ以上は……っ!」
「だ〜め! いいからじっとしてて? 一緒に気持ちよくなろ?」
「〜〜〜っ! そ、その台詞なんかちょっとよろしくないぞ……」
「にっししぃ♪ バレちゃった♡」
身体を反転させこちらを向いた由那は絡みつくように。真正面からありとあらゆるところを密着させてこの狭い浴槽の中で抱擁を始めると、じっと俺の唇を見つめてきて。今から狙う標的を的確にロックオンした。
「いただきまぁ〜す!」
ああもう、好きにしてくれ……




