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【一章完結】CROSS OVER 管理人 ~異世界のお悩みは異世界に解決してもらいましょう!~  作者: マロ
クロスノート その2  乙女ゲーム vs 乙女ゲーム
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うまく行かない関係

上院財閥といえば、この世界で知らない者はいない大財閥だ。家具メーカーとして成功を納めた上院家は数々の事業をヒットさせ、いまや3大財閥の一つとして名を轟かせている。上院陽輝は、そんな上院家の跡取り息子として生まれた。家柄に加えて容姿も優れていたこともあり、上院は幼さいころから熱狂的なファンが途切れなかった。


よくある話かもしれない。だが、彼は家柄ではなく自分自身を見てくれる相手を欲していた。


そして、いつからか、彼の回りには決まってそんな相手が現れるようになった。決まって可愛らしい女の子。彼女だけは彼を理解してくれる存在だった。


しかし、次第に上院はそれがそういう仕組みであることを把握するようになっていった。


かわいらしい女の子を口説き、そのかわいらしい顔を桃色に染めさせる。それは何度も何度も繰り返してきたことで、彼がまた「同じこと」を繰り返していることに気がついたのは、正直いつだったかも覚えてはいない。ただ、自覚したときには彼自身が自分の存在が恐ろしくなったのは確かだ。きっと他の「攻略キャラ」も気づいていたはずだ。それでも何も行動しない彼らに、上院も何もしないことが正解だと言い聞かせるようになっていた。


ー気づいたことに気づかれたら消されるのではないか?


そんなことを考えたこともあった。だが、恐怖がすぐに上院を支配する。


ー消される?誰に?


ー分からないが、何か行動したら最後、きっとあの機会につながれてまたあの恐怖を味わうのではないか。


ーなんだ?この既視感は。あの機会ってなんだ?


ー分からない分からない分からない。分からないが、ただこわい。


言いようもない恐怖に、上院の背筋が凍った。それから上院がすることはただひとつになった。いつものように、疑似恋愛をするだけだ。例え相手が男だろうが関係ない。だが、上院自身、男性は恋愛の対象ではなかったため、恋愛はしたくかった。そのため、リュカとは「友情エンド」を目指すことにしたのだ。


だから、上院は授業終わり、ごく普通の友人がするように、リュカを自販機に対象を連れ出したのだった。白桃というお守りも連れて。


「なあ、この桃ジュースうまいんだぜ!飲んでみろよ!」


「うっわ。サンキュー!ん?桃?といえば、白桃くんだよねぇ。あら、他の男を勧めるの?さ、い、て、い!」

 

何とか友達らしい会話をと思い、おすすめをリュカに勧めた上院だったが、見事に失敗してしまっていた。なぜ、そうなる、と内心どんよりする上院の横から、白桃の冷たい視線が突き刺ささった。  


ー巻き込むのやめろやー


確かにその殺気がそう物語っていた。申し訳ない気持ちで、上院が別の話題を探すも、焦ってるときに限っていい話題が出てこない。そういう意図で言ったんじゃないのにどうして目の前の男はこうあるのだろうかと、上院は頭を悩ませていた。


上院がそうこうしているうちに、リュカの興味は白桃に移ったのだろう。


「ももくーん、はるくんから浮気の許可でたよ!どうするー?」


リュカは、さっそく白桃に絡んでいた。倍になった殺気が上院につきささる。このままでは、リュカとの友情構築の前に白桃との溝が広がりそうだ、と上院は覚悟を決めざるを得なかった。


「いや、本当にうまいんだよ。あ、でも他には、あー、りんごジュースもおいしいよな!うん!」


これでも、苦し紛れではあるが上院なりに話を変えようと頑張ってみたつもりだ。これなら自分たちとは関係ないだろうと思っていた上院だったが、それは見事に砕け散った。


「りんご? あ、はるくんのカラーね! なになに? やっぱり嫉妬ぉ??」


しまった己は赤髪キャラだった、と後悔するも遅く、せっかく白桃に移った視線が自分に戻されるのを上院は感じ取った。だから思わず口をついて出てしまったのはしかたがなかったのだ。


「いや、やっぱり、桃ジュースがお勧めだ!」


キャッキャとはしゃぐ男を尻目に、17年の友情が崩れる音を上院は聞いた。


ーすまない、白桃。


内心謝りつつも、再びリュカが白桃に絡み出したのが上院は嬉しくてたまらなかった。


           ◇


白桃も白桃で自分が乙女ゲームのキャラであることは理解していた。自覚したところで彼はそれに逆らうつもりはなかった。彼には大事な友人や家族がいたからだ。仮にそれが作られた関係だとしても、白桃にとって周りが大事な存在になったのは変わりない。荒波立てず平穏に過ごしていくのが白桃の望みだった。


そう思った矢先に、男がこの世界にやってきたのだ。白桃も最初こそなんのバグかと思ったが、それ以上にその男がやっかいだった。平穏が壊れる、そんな危機感が白桃にプレッシャーをかけていた。


白桃が白桃の日常を守るための条件は、いつも通りヒロインと向き合うことだ。だが、ヒロインが男になった以上、一番好ましいのは、「友人エンド」だ。それに上院も気づいていることを白桃は知っていた。だから、最初こそ白桃は「友人エンド」を目指して上院に協力しようと考えていたのだ。


いたのだが、もしかしたら無理かもしれない、と白桃は内心悟った。あろうことが、友人は、上院は、保身のために白桃を男に売りやがったのだ。


ーなんで、たかが桃ジュースが自分と結び付くんだ。はなはだ鬱陶しい。


そんな苛立ちを白桃は抱えていた。


「はあ。別にそんな意図ねぇだろ。上院には。もっと男子高校生らしいこと話せよ。」


だが、協力を決めたからには、男と友情を築けるようにやれることはやってみようと、白桃が思い直した直後だった。


「えー?例えばどんな話?」


「なんでもいいだろ。」


「あ!下ネ「もう教室いくわ」


いや、やはり、こいつとは一生気が合わない予感しかしない、と白桃は早々諦めモードに入っていた。


           ◇  


黒崎智哉は真面目な男だった。


俺: 「本当にきれいな瞳だな。引き込まれそうだ。」

やつ: 「そんな、恥ずかしいっ!やめてよ!」

俺: 「隠すなよ、もったいねぇ」

やつ: 「……もう、黒崎くんだけだよ。」


黒崎が自身のノートに自身の筆跡で書かれたそれを読み返すのはこれで14回目だ。


黒崎のシュミレーションとしては、リュカとの恋愛もこれでうまくいくはずだった。記憶を手繰り寄せても、かわいらしく顔を赤らめる少女たちの記憶が、その効果を証明してくれていたからだ。しかし、今回は明らかにイレギュラーな相手だった。もっと「男用」の会話に変えたがいいのかもしれない、と黒崎がペンを握り直した。


「だが、相手は男だろうが女だろうが同じ人間だろ?今までのパターンを変えるのもリスクがー。」


何度考えても頭が働かない。こんなんじゃだめだ。ヒロインのかわいい顔が見れない。そう自身を叱咤して、黒崎が握ったペンの力を強めたときだったー。


「真面目ねぇ。」


つい先ほどまでシミュレーションしていた相手が真後ろに立っていたことに、黒崎の心臓は大きく跳ね上がった。


ーもう帰ったんじゃないのか、なんでやつが!


そんな混乱と一緒に、黒崎の頭が真っ白になる。


「いやー本当に真面目「本当にきれいな瞳だな。引き込まれそうだ。」


「え!この流れで実践s「隠すなよ、もったいねぇ。」


「大丈夫? ぶっ壊れた機会みたいになってるけど。」


黒崎が己のしくじりを自覚したときにはもう遅く、頭が真っ白になったが最後、気づいたときには14回も確認したそれが自然と上演されてしまっていた。


黒崎が振り返るに、会話の流れは不自然だった。これでは、ヒロインに引かれてしまったのではないだろうか。そんな不安が黒崎の頭をかすった。


「くそっ、忘れろよ。」


完全に落ち込んでしまった黒崎に苦笑いしながら、リュカはその目を覗き込む。


「なあ、きれい?俺の瞳。」


「あ、ああ。きれいだ。」


馬鹿正直に答えてしまった黒崎だったが、しかし、男の灰色がかった薄いブルーサファイアの瞳は冗談抜きにも美しかった。


「うん。それでいいんじゃねぇの?」


「?」


男の言葉に黒崎も呆けてしまっていた。


「何回もシュミレーションしたものより、今みたいな本心からの言葉の方が響くと思うよ。」


「っ……!」


「変な義務感で、好きでもないやつに甘いセリフ吐くより、本当に好きな子にあったときに今の言葉思い出せたらいいね?」


リュカはそういって去っていった。黒崎はその言葉を「恋愛ノート」にすかさず、メモったのだった。


           ◇


完全に主導権は、ヒロインーリュカに軍配が上がっていた。


リュカとして、初めての経験だったが、攻略キャラたちが彼らなりに頑張ってくれているのは知っていた。いつもあと少しのところで粘らないため、リュカが彼らにときめいたことは一度もなかったが。


ーまあ、この調子だと、のらりくらり交わせるだろう。


そんな楽観的な思考をしながらも、リュカは問題にぶち当たっていた。


「俺、どこに帰ればいいのー?」


居住地だった。彼自体は外の世界の住人である。当然家などあるはずがない。キャラたちの誰かに泊めてもらおうと思っていたのだが、黒崎にかまっている間に他二人は帰り、黒崎は今日は社交パーティだと言う。


「おい……」


帰ったはずの黒崎が後ろからリュカに声をかけてきた。


「しかたねぇから、おまえもパーティ参加するか?」


しどろもどろになって聞いてくる黒崎に、リュカはちょっぴり嬉しさを感じた。黒崎をはじめ、キャラたちは確かにリュカを歓迎してはいなかった。だが、根は真面目な彼らのことだ。なんだかんだ、彼らなりにリュカに歩みよろうとしているのをリュカは感じていた。


さっきまで落ち込んでいた気持ちが上がるのを感じ、リュカは笑顔で黒崎の申し出に揚々と答えた。


「ありがとー!」


「ったく、しかたが「でも、俺パーティ嫌いなんだよね~。あ、そだ!ホテル泊まるからお金貸してよ!きみ、御曹司でしょ!?スイートがいいなぁ!」


「…………」


「え?まさかだけど家にきてほしかったりー」


リュカが言い終わる前に、黒崎が携帯を取り出し、淡々とホテルを手配した。それに今夜の宿確保だぜ!と内心ガッツポーズをするリュカだった。

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