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【一章完結】CROSS OVER 管理人 ~異世界のお悩みは異世界に解決してもらいましょう!~  作者: マロ
クロスノート その3 乙女ゲーム vs ヒーロー
16/43

SECOND DAY

「なっちゃんと、」


「僕ら3人だけって、」


「「なんだか、珍しいー」」


とある教室の始業前の静かな空間で、2つの似た声が重なり合う。それに、クスリと笑って答える少女は可憐で、それぞれの声の持ち主は顔を赤く染め上げた。


「なっちゃんが、僕か近江を選んでくれてたらさ、楽しかったのになあ。」


「僕ら双子じゃなくて三つ子になって、きっと楽しかったなあ。」


「ふふ、私が入っても三つ子にはなれないでしょう?」


優しく双子の頭を撫でる少女は、まるで彼らの母親のようだ。それを双子も感じとったのか、「ままー」と冗談を言って少女の手にすりよっていた。


「なんかさー、なっちゃんさ、」


「ん?」


「変わったよね。」


「え?」


少女の目が丸く見開かれる。ディオからヴィーランズが取り憑いていると言われたこともあり、夏春が不安そうに双子を見つめていた。すかさず、双子がフォローする。


「なんか……より親しみ増したていうか、」


「凪とゴールインしたあたりからかなあ? 前より魅力的になった!」


「ふふ、そういうこと。」


「ねえねえ、なっちゃん、この後ー」


達也がなんら言いかけたときだった。教室のドアがガラガラと音を立てて開かれた。そこには、あきれたようにドアから三人を眺める隆平がいる。


「おい、なつ、あまり凪以外のやつに絡むなよ。」


「っ! ごめんなさい。」


隆平の言葉に顔を青くした夏春は、席を立つと慌てて教室を出ていった。それに反発したのは双子だ。


「ちょっとー! 竜平!!」


「なんで邪魔するの!」


「なんでって、知ってんだろ? あいつ、凪の彼女だぜ? 少しは凪に気をつかえっての。」


「えー? 以外! 隆平て凪と仲悪くなかった?」


「うんうん!」


「あ? なんだ? 俺が凪のために言ったと思ってやがる?」


「違うの?」


「やつはどうでもいいけどよ、なつが……その……悪く言われてる。」


「どうゆうこと?」


「凪と結ばれたのに俺らまで落とそうとしている、とかなんとかな。」


「はあ? 意味わかんない!!」


「同じく!」


「まあ、でもわかるだろ? 俺らモテるし。」


「そいつのいう通りだ。あまり人々の心に荒波を立てるようなことは控えてくれ。」


「げっ! でた!」


「うわっ! ヒーロー!!」


ひょっこりと廊下の窓から顔を出すディオに、双子は化け物を見たときのように悲鳴を上げた。龍平も若干引き気味でディオを見やった。


「おまえ、気配なく現れんなよ。」


「すまない。だが、俺は姫野を監視するためにここにいるんだ。」


「え? さっきまでいなかったじゃーん」


「空気を呼んで廊下に座ってた。」


ディオがそう答えれば、「怖ーい」と双子が騒ぎだす。そして関心が隆平に移ったのか、「竜平なんかギャグやってー」と隆平に絡みだした。そんな彼らを隆平がうぜえっ!と払いのける。


その光景を見ながらディオは不安を感じずにはいられなかった。彼のヒーローとしての感が告げているのだ。何か好ましくないことが起きそうだと。


          ◇



ディオがこちらの世界に現れてから2日目の月曜日。その日は学校があったが、ディオは夏春のボディーガードとして凪が雇ったという設定で紹介された。初日ということもあり警戒していたディオだったが、午前中は何事もなく過ぎていった。


異変が起きたのは5限目ー。

姫野のクラスは体育だった。体育でバスケットを終えた生徒たちが、着替えるためにそれぞれの更衣室に向かっていく。


すぐに女子更衣室は体育後の女子生徒たちで埋め尽くされていた。


「はーっ、ダルかった!」


誰かの一言を機に、愚痴がそれぞれの口から溢れだす。その対象は体育の授業を外れ、クラスや先生の愚痴へと広がっていった。そして、現在学校中の女子生徒の間で不満が溜まっている話題が誰の口からか発っせられた。


「ていうかさ、姫野さん、凪くん以外も狙ってるって本当??」


一人の声を発端に、視線がその話題となった人物に注がれる。


「姫野さん? 聞いてる?」


「おまえに言ってんだよ!」


体格のいい一人の生徒が、夏春に詰めよった。


「葵くんはもう解放しろよ!」


その言葉に、夏春の顔がぴくっと動く。


「葵くん?……あなた、葵くんが好きなの?」


「っ! そうよ!!」


「っておい、なんでまた黙るんだよ! みぃの話聞いてたかよ?」


「凪くんと付き合えたんだから、後は、自由にさせてやってよ!」


女子たちの主張がヒートアップしていく中、夏春は何も言わなかった。その顔には笑みが浮かんでいた。



          ◇


更衣室から10mほど離れた廊下で、ディオがうずくまっていた。更衣室にまで入るのはダメだろうと気を利かして前の廊下で待機していたディオだったが、見回りで通った教頭に尋問されることとなってしまった。


「きみ……やるつもりかネ?」


「は?」


「覗くつもりだネ?」


「違う! そんな女性に失礼なことできない!」


「おや、ではなんのために「女子」更衣室の前にいるんだネ?」


「監視するためだ!」


「自白しましたネ。」


「……あ、違う! そっちじゃない監視で」


「言い訳は無用っっ! んーっ! ハレンチだネ!」


教頭がディオの腕を掴もうとしたときだった。


「あー! 変態!!」


遅れてやってきた女子生徒二名が、教頭を指さして言った。


「なっ! 変態はこっちネ!」


慌てて教頭がディオを指すが、女子生徒たちはまっすぐ教頭に向かって行った。


「イケメンがそんなことするわけないでしょ!」


「例え、360度回ってそうだったとしても、このレベルのイケメンに罪はないわ!」


「夏春さんのボーディーガードイケメンっっ! ずるい!」


「てか、教頭、あんたがディオ様に罪なすりつけたんじゃないの!? 見回りにしてもなんであんたがここにいんのよ。」


「ナナナナナナナナナナナナ!」


教頭がうろたえて謎の言葉を連発したときだった。



「キャァァァ! 化け物っっ!」


更衣室の中から悲鳴が上がったのだ。はっとしたようにディオが中へ向かおうとするが、できない。教頭がディオの腰に巻き付く形でホールドしていたのだ。


「ちょ、離れてくれ!」


「くーっ! 現行犯逃すものか!」


滑稽にも、ディオが下半身にしがみついた教頭を引き離そうと奮闘していたときだった。




ドカンッッ!!



突然、大きな音が響き、更衣室の扉が吹き飛んだ。


ディオと教頭が揃って更衣室の方を振り向く。もわもわ埃が舞う中から、両腕が更衣室の入り口ギリギリまでパンパンに膨れ上がった生徒が夏春を抱いて現れた。


「五力田! ど、どうしたというんだネ? その腕はなんだネ!?」


「あれは!っ!」


五力田と呼ばれた女子高生の体から黒いもやが溢れているのをディオが確認する。生徒の体の中にヴィーランズが侵入したようだったが、まだ完全にヴィーランズ化されたわけではなさそうだった。


「きみ! 正気に戻りたまえ!」


なんとか女子高生からヴィーランズを切り離そうと、ディオが自分より何倍にも太くなった女子生徒の手をギュッと握ったときだった。女子高生の顔がポッと赤く染まったのだ。


「わ、わ、わ、は、はずかしぃぃぃ!」


すかさず夏春を放り出した彼女が頬に両手を当てる。


「わたし、そんなことされたの生まれてはじめてよっ……!」


「正気に戻ってくれ!」


構わずディオが彼女に詰め寄れば、ますます顔全体を真っ赤に染め上げた女子はー


そのまま廊下を走り出した。後をディオが追う。その後ろでは高い笑い声が響いていた。





「いやん! ダーリンはずかしぃぃぃ!!」


「止まってくれ!」


「やだ! まだ心の準備ができてないの!」


「きみの中に住み着いたやつを捕まえたいんだ!」


「私を捕まえて同棲するってぇぇ? キャァァァァァァァァァァァァァァやだぁぁぁあ!」


そう叫びながら走る女子高生は、興奮するとヴィーランズが進行するのか、腕だけでなく顔や上半身もゴリラ化していた。ムキムキとなって剛毛に覆われた上半身はもはや野生のそれだ。


「進行が早いっ! 」


ディオが女子生徒の進行を心配したときだった。

今まで恥ずかしがって逃げ回っていた彼女が、くるりと360度方向転換したのだ。つられてディオも回れ右を二回する。自然とディオの体が前進すれば、当然後ろの彼女も追いかけるわけでー。今度はディオが逃げ回ることとなった。


完全に形成逆転だ。


「なんで逃げるの? シャイねぇ!」


「きみ、頼むから本来の自分を取り戻してくれ!」


「ダーリン結婚してぇぇ!」


「きみが変わり果てると友人も悲しむぞ!?」


「チュウー!」


「どうしたらいいんだ! 心理型来てくれっっ!」


半ば泣きながらディオが、女子高生から逃げていたときだった。


「ディオはゴリラよりオラウータンが好きなんだよね。」


廊下に背中を預けながら様子を見ていた葵が、大声でそう叫んだ。


ピタリとゴリラ少女の足が止む。


「そんな……ゴリラはオラウータンにはなれないっ……!」


絶望したようにゴリラ少女が床にへなへなと座り込んだ。


徐々に女子生徒の体が小さくなっていく。その頭上からはゴリラ型の黒い靄が浮き出ていた。女子生徒の体が完全に戻る前に葵が自身のジャケットを彼女に被せる中、黒いそれは絶望した表情でふらふら~っと空中を飛んで現場から遠ざかっていく。


哀愁漂うその後ろから、ディオがナイフを振りかざした。


無念にもそれは散っていった。


「……葵だったか。助かった。」


「やっぱり、取り憑かれていたの、なつじゃなかったじゃん。」


「いや、あれはまた別のやつだ。」


「まじかよ。」


脱力したように葵が肩を落とす。周囲は化け物退治に連携した葵とディオに対する称賛の声と黄色い声で包まれていた。


           ◇


新垣葵は、小柄な体型と整った顔により、女子中学生と一旦見間違えるような美貌の持ち主だ。しかし、性格は男前で、根からの力持ちだ。貧血で倒れた推定80kgの男性教諭を、その場に居合わせた葵が軽々と抱き抱えて保険室に運んだのはもはや伝説である。そのギャップゆえに女子生徒の間での葵の人気は高いものだった。


「はあ……だる。」


「どうした?」


気分優れない様子の葵に、凪が声をかける。凪の言葉に、しぶしぶといった様子で葵が答えた。


「いや……最近、またストーカー行為がうざくてさ。」


「またかよ。今度は誰だ?」


「春野さん。」


「春野雅か?」


「ああ。そう。」


「葵のこと好きって有名だったもんねー」


近江も横から口を挟んだ。


「てかさ、前話し合いで解決したよね?」


達也が不思議そうに、近江に尋ねる。近江も「だよねー?」と不思議そうに返した。


「まあ。謝ってくれたし、今度は二度としないて約束したんだけど……また、始まった。」


「まじかよ。てか、あのヒーローやろうはどこだ?」


「ディオ? ああ、緑賀谷と上谷のクラスだったろ。なつも同じだったよ。」


「くそ。まあ、いい。あいつにばれると面倒だ。さっさと済ますぞ。」


「……どうすんの?」


葵の怪訝な視線が凪に注がれる。


「停学させんだよ。この学校は神宮司財閥所有だしな。俺らとなつに付きまとう害虫は皆駆除する。」


その言葉にクラスが静まり返った。人気者の彼らの話は、クラス中が知らないふりをしながらも耳を集中させている。当然凪の脅しはクラス中に緊張を走らせた。


「……まあ、再犯だしな。よろしく。」


葵も葵で相当面倒くさいのか、凪に放り投げることにしたようだ。そのまま机に顔を伏せて眠りについた。





葵が下校しようとしたときだった。ディオが葵を呼び止めた。


「葵。」


「……何?」


「君に執着していたやつが突然停学処分になったようだが。」


「……なんで知ってんの?」


「本人が騒いでた。」


「……まじ」


「だが、強引なやり方は解決と違うんじゃないか?」


「……しかたないでしょ。面倒だし。」


じゃあと葵が手を上げ歩き始めれば、ディオも葵の後からついてくる。


「……何」 


「今日は送らせてもらう。」


「はあ?」


「強引な方法で相手の主張を無視したんだ。危機感をもて。権力で無理やり想い人から離されたんだ。何を仕出かすかわからん。」


「……なつ見とかなくていいの?」


「俺が探しているヴィ……対象は溶け込むのがうまいようでな、長期戦になりそうだ。今は危険に去らされた市民を守るのが優先だ。」


「……俺、門まで行ったら車だけど乗るの? 家までくるつもり? 嫌なんだけど。」


「車に乗ると迷惑になるのは承知している。だが、護衛だからな。家まで見届ける。」


「なら、どうするの。」


「走る。」


「はあ?」


「ん? 問題ないぞ。俺の部隊は皆、自動車より早い。」


「……やめて」


「ん?」


「めっちゃ、恥ずいから、やめて。……はあ。車乗っていいから。」


「いいのか? すまない、お邪魔する。」


結局葵が折れたことで、二人は一瞬に車に乗り込んだ。その様子を見ていた女子生徒は、先ほどの件で二人の絆が芽生えたのだと、盛り上がっていた。


女子生徒の期待とは裏腹に、始終家につくまで彼らには会話がなかった。強いていえば、先ほど助けてもらったことにディオが何度もお礼を言っていたが、葵はほぼ聞き流していた。


何事もなく、無事葵の家に到着すると、家に入る前にディオがある装置を葵に差し出した。


「何これ。」


「ヒーロー召喚ベルだ。俺の国では全市民に支給される。何かあったら呼べ。」


「……俺強いからいらない」


「帰らない。」


「は?」


「もらってくれないなら帰らないんだからな!」


速攻で葵は装置を受け取った。




            ◇



葵は、つい先ほどまで一緒にいた男を思い出す。天然、熱血、脳筋、怪しい……。良いイメージが全くない男だ。ゴリラと化した女子高生に追いかけられているのを見かけたときは正直驚いた。元々人の心を読むのがうまく、機転がきく葵だ。女子生徒に取り憑いたゴリラが嫌いそうなセリフを吐いてディオをサポートするのは容易かったが、それを実行したのも、暴走化した生徒が夏春に危害を加えないようにするためだった。当の本人は何を勘違いしたのか、めちゃくちゃ葵に感謝してきたが。


「いや、てか怖。受け取るまで帰らないとか怖すぎる。まだストーカーの方がかわいい。」


そう呟くやいなや、葵がポケットから、先ほどディオからもらったベルを取り出す。


幼少期から武道を嗜んできた葵には不必要なものだった。


ー捨てよう。


葵が廊下のゴミ箱に向かっていたときだった。女の使用人が葵に向かって近づいて来ていた。


「お帰りなさいませ、葵様。」


「……ただいま」


「お荷物をお持ちします。」


「いらない。」


「いえ! そうおっしゃらないでくださいませ。さぁ、こちらに。」


「近寄んな。」


「そんな! 葵様っ……ひどい!」


「いや…………お前だれだよ。」


「え?」


「うちのやつは俺を葵坊っちゃんて呼ぶんだよ。」


使用人がびくっと肩を震わせる。そして、おそるおそるその顔を上げた。


「!」


「葵、くん。」


「春野っ!!」 


葵の顔が真っ青になる。近づいてくる春野に葵が拳を振り上げると、春野はきゃっと肩を震わせた。


それを見て葵は手を下ろす。


相手は非力な女だ。そう理解したとたん、女にわざわざ手をあげるのも葵にとってはめんどくさいと判断された。


しかし、女はそれを葵の優しさだと受け取ったようだ。


「葵くん、優しい、好き。」


春野が儚げに笑った。


「好き……。好きなの。……。好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!」


壊れたように「好き」を連呼する女が葵に向かって突進していく。どう制御するか、と葵が思考を巡らせたとき、葵の目に信じられないものが映り込んだ。


ー注射!?


葵がやばい、と思ったときには針が首もとに近づいていた。


葵が思わず目をつむる。


だが、いつまでたってもちくっとした痛みはやってこないことに葵は気づいた。そして、葵がおそるおそる目を上げると、針を手で受け止めるディオの姿があったー。


「間に合ったか。ベルがエラーを発したから……何かあったのかと、走ってきたんだ。」


葵が手元のベルに目をやる。捨てようとしたそれはぐしゃりと潰れてしまっていた。


無意識に手に力を入れてたのだ。エラーになるはずである。


冷静に分析できるようになった頃には、葵の体から力が抜けていた。壁に寄りかかると、葵は春野の方に視線を横した。


「で、春野、おまえ、なんでここに入れた?」


「っ……ううっ、」


「泣くなよ。鬱陶しい。俺との約束を破ってストーカーした挙げ句、なぜ、俺の家にいる!!!!」


葵の怒鳴り声に春野がびくっと肩を震わせた。


「うっ、ごめ……なさい。ううっ。」


「話せ。」


「夏春さんに……鍵をもらったの! 信じてもらえないかもだけr「帰れ」」


「え?」


「罪に罪を重ねるなよ。ストーカー常習、住居侵入に妄言癖か。ないな。消えろ。」


葵の冷たい視線が春野に浴びせられる。


「ま、まって、本当なの……」


「うざ。」


「本当に!」


「だとして、なつがなんでそんなことするんだ!!」


「人が欲しがるほど、葵の価値が上がるからっ! 人が欲しがるものほど、それが自分に執着してるのは気持ちいいからって! わたし、それ、聞いて、あなたをあの人から守るって! 「ガンッ!!」


葵がぐしゃぐしゃのベルを春野に投げつけた。ディオがそれを庇ったため結局は当たらなかったが、葵が女子に手を上げたのはこれが初めてだった。


「帰れ。」


ショックで固まった春野にディオが声をかける。

それを尻目に葵は、自身の部屋へと荒立たしく入っていった。




ーあり得ない、あり得ない!


そう自身に言い聞かせながら、葵はスマホを取り出しメッセージアプリを開く。


これはただの確認だ、と自身を落ち着かせながら、葵はメッセージアプリから凪を選択した。


『おまえ、なつに俺ん家の鍵渡したりした?』


既読はなかなかつかない。凪はなつ以外は大抵対応が雑だ。


しばらくして、メッセージアプリが光る。葵は慌てて内容を確認した。


『ああ。おまえがなつにおまえの妹の世話頼んだんだろ。』


『そんなわけない! なんで渡した? 俺らの間でしか共有しない約束だろ?』


葵が期待が裏切られたことに震えながら返信する。


しかしー


「既読遅!!」


夏春以外どうでもいい凪の反応はすこぶる悪かったのである。


30分後ー。葵にとっては数時間にも感じられる時間がたった頃、再びスマホが光る。


『既読はや。なんでー? そりゃ、なつの頼みだからな。』


葵の手からスマホが滑り落ちた。


凪をはじめ、いつも一緒にいるメンバーは皆名家出身だ。一般から外れた彼らには、普通の者には理解できない分、彼だけの絆があったはずだ。だから、幼少期、メンバーと出会ったときから、信頼の証として合鍵も仲間間で託していたのだ。


「くそ、どうなってんだよ。」


葵の声は、静かな部屋に響いた。


そう、葵はとても感傷的になっていたのだ。





バタバタバタバター!





「葵坊っちゃん!侵入者捕まえました!」


「違う!侵入……はしたが、侵入者ではない!」


「日本語の理解できない侵入者です!! 葵坊っちゃあああん!!」



一瞬でムードを壊された葵は、ため息をつくと声のする方へと向かっていった。


葵がドアを開けると、護衛に押さえ込まれたディオと、鞭で、「侵入しゃあああ!」と叫びながらディオをぶん殴る執事がいた。


カオスだ。


「なんだ、まだいたの? あいつは?」


「あいつは送り届けたが、おまえに言いたいことがあって戻ってきた!」


「なに?」


「あいつの話だが、まだ真とは限らないが、恐らく真に近い。「パシン」いたい!」


「……………………」


「だが、それはあの女のせいではない!「パシン」いたい!」


「……………………」


「やつをそうさせた存在がいる!「パシン」いたい!」


「……………………」


「だから、そのヴィーランズを退治して、必ずや前の彼女に戻すから、彼女を恨んで堕ちたりはするなよ!「パシン」いたい!」


「……橘、そいつ、一応友人。」


「!!なんと!申し訳ありませんでした!!」


執事と護衛がディオからさっと離れて頭を下げる。


「それだけのために戻ってきたのか?」


葵が怪訝そうにそう問えば、ディオはためらいもなく頷いた。


「俺は鈍感なようでな。人の心の些細な変化は分からない。取り憑かれてしまえばもうお手上げだ。だから、些細なことでも伝えたいんだ。後から悔やまないように。」


「うっとおしがられるぞ。」


「それでも誰かをヴィーランズ化させるよりずっといい。」


「……変なやつ。」


「では失礼する!」


「……またな。」


ディオが帰ってから、再び使用人の土下座と謝罪が繰り広げられていた。

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