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【一章完結】CROSS OVER 管理人 ~異世界のお悩みは異世界に解決してもらいましょう!~  作者: マロ
クロスノート その3 乙女ゲーム vs ヒーロー
15/43

敵か味方か

「彼女から手をはなせ!」


「その女はヴィーランズに取り憑かれている! 一旦俺に預からせてくれと言っている!」


「なんなのあんた! 僕たちだってなっちゃんのこと好きなのにっ!! 凪だから認めたの!! 今さら知らないやつがなっちゃんに触らないでよ!!」


「だから、何を勘違いしている!! 俺はただこの女を危険から守るとー!」


「ヴィーランズとか意味わかんない! なにあんた、新手の宗教!?」


「だからーっっっ!」


ドカッ!


言い争いの末、人が人を殴る音が響き渡った。 


辺りは雑音や泣き声で混沌とし、軽蔑、不安、怒り、あるいは好奇心といったものが騒ぎの中心へと注がれていた。


騒ぎの中心には、殴られて頬を赤く染めた銀髪の長身の男とその男を殴った黒髪の男を中心に、銀髪の男を罵倒する桃色髪の男、そしてその後ろで震えている少女と彼女を守るように立つ5人の男たちがいた。


銀髪の男が口を開く。


「俺を殴りたければ殴ってもいい。おまえらの気がそれで晴れるのならな。だが、その女は一旦こちらで預からせてくれ。」


「てめぇ!!馬鹿にしているのか!!」


「そんなつもりは……落ち着いて話を聞いてくれないか…。」


「なつは渡さねぇよ!」


「渡さないだと? その人はものではないだろう。」


「てめぇに何がわかるっ!!」


銀髪の男と黒髪の男が言い争うのは、豪華なシャンデリアや金の装飾品で飾られた煌びらかなパーティー会場ー。キラキラと金の光を反射して輝く会場には、なお場違いにも乱暴な言葉が飛び交っていた。


「あんたさぁ、いきなり乗り込んできてさぁ……なんなの?」


先ほどから黒髪の男に同調するように男を責めるのは桃色の髪をした青年だ。


「今日はさ、なっちゃんの誕生日パーティーなんだよぉ? なんでいきなり知らないやつに乱入されて水をさされないといけないの!?」


「……それは、申し訳ないことをした、とは思っている。しかし、こっちも急ぎなんだ。」


「っ! ほんとになんなのきみ! 意味わかんないし! そんなやつになっちゃんを、はいどうぞ、て渡せるわけないでしょ!?」


「まあまあ、これでは一向に埒が明きません。一旦控え室に行きましょう。凪、VIPルームを使ってもいいですか?」


少女の後ろにいた別の緑髪の男が見かねて仲裁に入る。それに黒髪の男もしぶしぶといった様子で頷いた。


「ちっ! おい、てめぇ、話しは聞いてやる。だが、なつには一切触れるなよ。」


「わかった。協力感謝する。」


男の言葉を合図に、一同は揃ってパーティー会場を後にした。



            ◇


とあるパーティー会場の一室で、7人の男と1人の少女がテーブルを囲んで座っていた。重苦しい空気の中、最初に口を開いたのは緑髪の男だった。


「まずは……名乗りましょうか、お互い。では、私から。私は緑賀谷 翔(りょくがや しょう)と申します。以後お見知りおきを。緑賀谷財閥、といえばお分かりでしょうか?私は当財閥の長男で、時期当主の予定となっております。」


「緑賀谷財閥? 財閥……ということは資産家ということだろうか?」


銀髪の男が不思議そうに口にする。緑賀谷はというと、それに結構なショックを覚えたようだ。


「緑賀谷財閥を知らないと……?はは。まあ、そうですね。神宮司財閥には劣りますものね。はは。次、凪……お願いします。」


「ちっ!神宮司 凪(かんくうじ なぎ)。なつの恋人だ。」


凪がぶっきらぼうに答えるとたちまち沈黙が訪れた。こんなときに進行役をかってでる緑賀谷はまだショックの沼から抜け出せないようだ。


銀髪の男は男で、自身が男の地雷を踏んでしまったことに感づいたものの、再び口を開いて何かしらの地雷に触れてしまうことを懸念しているようだった。 


しかし、沈黙を破らなければ、話は進まないわけで……。銀髪の男が意を決したように口を開きかけたときだった。


沈黙を破ったのは、ふわふわの茶色のボブを揺らした可憐な少女だった。


「あっ、今凪くんの紹介に預かりました姫野 夏春(ひめの なつは)ですっ! 凪くんの恋人ですっ…。」


「おい、なつ、まだ『くん』取れねぇのかよ。凪て呼べって。」


「っ……。まだ、無理っっ!!」


「なっちゃんかわいい~」


「ほんとに、凪ちゃんずるい! うらやましいっ!!」


「うっせぇ! やらんからな!」


「あなたたち…自己紹介を中断させないでくだかいっ! まだ、6人残ってるでしょうが!!」


「はいはい。えっと、僕は松野 美緒(まつの みお)。悔しいけど、凪だけはなっちゃんの恋人だって認めてる。だから、他のやつらは二人に手、出さないでね。」


桃色の髪の青年は美緒というらしい。ゆったりとした口調で語りながらも、その目には鋭い眼光を宿していた。笑っているのに、笑っていない。そんなチクチクとした雰囲気に再び空気に緊張が走る。


緊迫した空気を、ため息をつきながら壊したのは金髪の男だった。両耳には銀の大きなピアスがつけられ、雑に金髪に染められた髪は所々茶色を覗かせていた。


上谷 隆平(かみや りゅうへい)。以上。」


「え? それだけ? 上谷病院の紹介はしなくていいの?」


「ちっ! 余計なこと言うなっての。んな暇あるなら、自分の紹介しろや。」


「はいはい。茅根 近江(かや おうみ)。よろしくねー。」


「てめえも俺と変わらねえじゃねえか!」


「よろしくって言っただけましでしょー。」


近江と名乗った茶髪の可愛らしい少年が、龍平につっかかる中、近江と瓜二つの顔のオレンジ色の髪の少年が口を挟んだ。


茅根 達也(かや たつや)。近江は双子の弟。まあ、あの茅根だよ。」


「かや?」


銀髪の男がまたもや不思議そうな顔をする。


「まあ、知らないなら別にいいやー。次、葵やったら?」


達也に促されるように、白髪の少年が答えた。


新垣 葵(にいがき あおい)。一応、18だから。」


「葵は中学生によく間違われるからねー」


「うっせ。」


葵が美緒の腕を軽くどつく。


「いったあ!!折れたあ!」


「軽くつついただけだろ。」


「きみの馬鹿力なめないでよー!」


わいわいと騒ぎだした男らを、翔が咎める。


「静寂に! 一応、これで紹介は終わりましたね。……まあ、私たちは……同じ学校に通う仲間です。ちょっと前まではライバルでしたけどね。」


翔の「ライバル」という言葉に、男たちは気まずそうに互いから視線を反らした。


だがー


「で、夏春さんは、私たちにとって大切な人なんです。」


翔がそういったとたん、再び男たちは反応を見せる。


「あったりまえー!」と美緒。


「おう……。」と龍平。


「例え、凪に取られてもすきだよねー! ねぇ、達也!」という近江に、「同意!」という達也。


「しばらく、次の恋とか考えらんないかもな……。」と葵が言えば、「そうですね。」と翔が同意していた。


「なっちゃん大好きー!」


美緒の言葉にすかさず凪がツッコんだ。


「おい! おまえら! なつはやらねえ!!」


「わかってますよ……。私たちからは以上です。」


自分を好きだと言われて顔を赤らめた少女と、その様子にかわいいと口にする男たち。少女と彼らの間に揺るがない「愛」があることは明らかだった。


銀髪の男は、それを見てふっと顔を綻ばせる。次は彼の番だった。


「ありがとう。では、俺も。俺はディオード・ベイズ。よく呼ばれるのがディオだ。アスカルク公認団体アスカルクヒーロー協会所属の階級はSSだ。二番隊の隊長を勤めている。ここには、ヴィーランズを追ってきた。以上だ。」


ディオが紹介し終わるとたちまち沈黙が訪れる。ディオの紹介を聞いた男らと少女の顔にははてなが浮かんでいた。


「……は?」


一番最初に口を開いたのはやはり翔だった。


「ヒーロー? てなんですか? もしかして、俳優さんでしたか? 端麗な顔されてますし……。お見かけしたことはないですから、新人さんとか?」


「おそらく、きみの推測は違う。ヒーローとは、危険から一般人や重要人物、ときには動物をも守る団体だ。3年前から、我が国には異能を持つやつらが局地的に見られていたが、最近になって人を傷つけることを目的にするやつらが頻出しだしたんだ。そういったやつを我々はヴィーランズと呼び、やつらを駆るために設立されたのがヒーロー団体なわけだが……。」


シーン


「我が国アスカルクでは、ヴィーランズの存在は当たり前に周知されているが、もしかしておまえらは知らないのか?」


「し……知りませんよ!なんですか、そんな……中二みたいな設定。」


「中二だろ。」


「凪……。やはり、そうなんですかね……。」


「知らない……か。では、ここはやはり異次元てわけか。」


「説明お願いします。」


「ああ。実は、俺は1時間ほど前まではいつも通り、ヴィーランズの討伐に当たっていたのだ。しかし、今度の敵はいつもと様子が違った。警戒はしていたのだが……やつは異空間への行き来ができる能力持ちのようでな。あとちょっとのところで、能力によって空間を操られて逃げ出されたのだ。空間に穴を開けてな。だから、その穴に飛び込んでやつを追ったんだが……そしたらここにきたんだ。」


シーン。


「つまり……あなたは、異世界からきたと?」


「ああ。おそらく。」


シーン。


「ちょっとちょっと~それが本当として、なっちゃんとなんの関係があるの?」


「そのヴィーランズだが、その女に乗り移っている可能性が高ー」




ーバチン!!





ディオが言い終わる前に、再び人を殴る音が響いた。


「ふざけないでよ。なっちゃんを化け物扱いすんなよ!」


ディオを叩いたのは、パーティー会場で反論していた人物と同じ、美緒だった。美緒がディオを睨み付ける。ディオが口を開く前に、美緒が夏春の腕をとった。


「なっちゃん行こ!」


「おい! なつをどこに連れてく!? まて!」


美緒に引っ張られるようにして部屋を一緒に出て行く夏春と、それを追いかける凪ー。


部屋は再び沈黙に包まれた。


「……すまない。」


「……美緒は、凪の次に夏春さんに執着してますから…………。」


「緑賀谷だったか。何度もすまない。取り持ってもらって。」


「っっ!私たちだって怒ってるんですよ。夏春を化け物扱いされて。」


「すまない。だが、本当なんだ。」


「くそが。」


隆平がボソッとつぶやく。


「本当にすまない。だが、どうか協力を頼む。」


ディオの声が静かな部屋に響き渡った。



           





「ということで、しばらく、ディオさんを、我が学園で監視することになりました。」


「どういうことだよ!!」


翔の宣言に、凪が噛みつく。凪が美緒たちを連れ戻してきたときには、それはもうすでに決定事項だったのだ。凪が牙を向くのも当然だろう。


「凪たちが出ていった後、私たちで話し合ったんですよ。ディオさんは夏春さんを監視したいと言うのですが、我々はそう簡単にはそれに同意しかねるのでね。夏春さんを監視するディオさんを、我々が監視するという形に収まりました。」


「ちっ!」


「すまない。しかし、我々にとって、姫野さんは監査対象なんだ。我慢してくれ。」


凪が嫌そうにディオを一瞥する。納得できない、というように夏春の肩を引き寄せる凪に、彼女は苦笑いしながら言った。


「私はいいよ、凪くん。」


「いやいや……なっちゃんを見つめる男がまた増えたんだよー?」


「美緒、きしょくわるい言い方すんなよ。」


「竜平wそれな! てか、別にそーゆー意図はないんだよね? ディーちゃん!」


「…………(ディーちゃん!? それは俺か? いや、しかし…目線はこっち向いてる。)」


「ディーちゃん! きみだよ!!」


「近江だったか?」


「え! 達也との違い分かるんだ! すごーい! 1時間ごとに達也と髪色チェンジして『他人を惑わせゲーム』やってるのに、悔しいーっっ!」


「ああ。近江は達也より声が一段階高い上、発話の間隔や反応時間もより迅速だ。また、表情も達也と比べたら『作られたもの』である割合が高い。筋肉があまり動いてないからな。」


「AI?? コンピューターなの!?」


「?? ヒーローにとって観察眼は欠かせないからな。」


「ははっ! まじ、ヒーローっぽーい。」


「ヒーローだ!!」


まるでディオがヒーローだとは信じなていないような素振りの近江に、ディオがすかさずヒーローだと主張する。それを横で見ながら、確認するかのように達也が口を開いた。


「で、あんた、本当になっちゃんをそういう意図で見ないんだな?」


「? (監視するには見ないといけないだろ?) いや、見るに決まってるだろ。」


「キャー! 変態!」


「なんだと!? おい、緑賀谷! こいつをつまみ出せ!!」


ふざけてみせる近江とは反対に、凪は割りと本気でお怒りのようだ。落ち着けとなだめる葵を無視して、自身のスマホから警備員に連絡を取ろうとするのを達也が止めた。


「あなた……天然なんですね……。」


翔が憐れむようにディオの肩に手を置く。訳がわからないというように顔をしかめるディオにはかまわず、翔が続けた。


「ヴィーランズというものが夏春さんに取り憑いている件ですが、皆さんもだいぶ落ち着いたようなので、改めて説明できますか?」


その言葉にディオがうなづく。


「怒らず聞いてくれ。いいか、ヴィーランズは姫野さんに憑依している可能性が高い。なぜなら、彼女からヴィーランズの気配がするからだ。そして、そのヴィーランズだが、まずは俺たちの世界について話した方がいいだろう。」


そう言って、ディオは彼の世界について語り出した。


             ◇


ディオがいた世界では、ヴィーランズと呼ばれる化け物がごく日常的に新没している。ヴィーランズは見た目から異様な姿をし、外観だけで多くの人間に恐怖を与えるが、元々それらは人間だった。人間の醜い負の感情がある規定値を越えたときに、ヴィーランズは産み落とされるのだ。その時点では形のない黒い靄のようなそれは、人間に憑依することで、力を蓄え、実態を形成していく。そしてヴィーランズの形態が完成したとき、元の人間はその姿を豹変させ、「化け物」と呼ばれる異形へと変体するのだ。


それに対抗するように誕生した組織が「ヒーロー本部」である。主な活動はヴィーランズを駆ることだが、その内部構成は二つに分かれている。


一つが、心理療法型のヒーローだ。ヒーローと聞いて想起されるような戦闘は行わず、ヴィーランズに取り憑かれた人間を心理療法を用いてケアする組織だ。そもそも形を持たない状態のヴィーランズは、人間の心に取り入る姑息な化け物ではあるが、特に超能力的な力を行使できるわけではなく、危険度としてはレベルが低い。したがって、戦闘ではなく、心で語りかける心理療法型のヒーローは、ヴィーランズに取り憑かれた人間からヴィーランズを引き離させることが仕事である。


そして、二つめが、戦闘型のヒーローだ。ヴィーランズの進行が進み、完全に乗っ取られた人間だったもの。すなわち、化け物となり果てたヴィーランズを相手にするヒーローだ。もうこの段階になると、ヴィーランズは能力を獲得し、人にはなし得ない力を乱用するようになる。完全に人ではなくなったそれを斬る存在が戦闘型ヒーローで、特殊な武器を使う。また、戦闘型にはそれぞれに特化した能力が与えられ、「ヒーローの力」と呼ばれる能力は1日2回だけ使用可能となる。1日に連続して能力を使えるようにするには技術が足りず、研究が続けられているという。


心理療法型と戦闘型、本来ならばどっちも欠かせない存在である。しかし、仕事の華やかさの違いから、戦闘型には心理療法型にマウントを取る者も多く、社会的な地位も戦闘型が優遇されていた。そもそも心理型が仕事をするにしても、彼ら自体はヴィーランズと人間を引き離させる能力しか持たない。そのため、彼らの仕事には常に戦闘型が同行せねばならず、そこでも心理型は戦闘型に見下されることが多かった。


そのことに対してディオは、常に納得がいかなかった。ディオにとっては、心理型の繊細な仕事は、尊敬するに値する。自身はどちらかというと脳筋な性格なため戦闘型を志望したが、心理型の仕事を自分がやれるかといえば、難しくて到底かなわない。そんな仕事をこなせる彼らに対して、常に敬意をはらっていた。


ディオに与えられた能力は「ヒール」と「防御」だった。突入型のディオにはもってこいの力で、ヴィーランズと闘いながらヒールと防御を使うため、周りからは能力をいつ使っているのかすらわからないようだ。プラマイゼロの能力なんて呼ばれて馬鹿にされてはいるが、ディオは特になんとも思っていなかった。


基本的に個性豊かなヒーローは、元々は個人的に活動してまわっていたが、数が増えれば、必然的にまとめ役が必要となる。そこで作られたのが、第一部隊から第七部隊までで編成されるチーム体制だった。部隊の隊長となると羨望の対象であり、ヒーローはこぞって隊長の座を狙う。だが、ディオがそんな座に固執するわけもなく、ディオはひたすらヴィーランズの討伐に徹していた。無我夢中だった。そんなこんなで、ヴィーランズを討伐していたら、気づいたらディオは第二部隊の隊長へと上り詰めていたのだ。第一部隊だったころもあったが、今や第二部隊の突撃隊長なんて二つ名で呼ばれている。


そして、いつもと変わらず、変体したヴィーランズズの討伐に当たった後、帰ろうとしていたディオの耳にSOSが届いたのだった。


『止めてくれ!ヴィーランズが逃げ出した!』


焦った男の声を辿れば、真っ青な顔をして、心理型の制服に身をまとった男と戦闘型のヒーローがディオのいる方向にむかって走ってきていたところだった。そのはるか上空を、黒い靄が飛んでいる。


戦闘型のヒーローが、分離したヴィーランズを討伐し損ねたのは明白だった。戦闘型を観察したのは一瞬だが、その顔は見覚えがあった。心理型にマウントを取ることで有名な、第一部隊の隊員だ。おそらく、心理型にマウントを取っていたところ、取り逃がしたのだろう。


呆れたものだ。そう思いながらも、ディオ自身もヴィーランズに向かって走り出していた。やつが別の人間に取り憑く前に斬らなければならない。


『あなた様は、第二部隊の隊長さま! どうか、それを切り裂いてください!』


戦闘型のヒーローがディオに向かって、叫ぶ。


言われなくても分っている。ディオが使い慣れたナイフを構えて、ヴィーランズに飛びかかった。


その時だった。


空間が歪み、禍々しい黒い穴が現れたのだ。逃げるかのようにヴィーランズがその中へダイブするのを見たとき、ディオの体は自然と動いていた。やつを追って自ら穴に飛び込んだのだ。


そうして、数秒間、暗闇に吸い込まれるようにしてグルグルと回転し、気づいたら見知らぬ土地の華やかな広場に立っていたのだった。


             ◇


ディオが話終えると、辺りは沈黙に包まれていた。


「えー! なにそれ、アニメでありそー!」


最初に口を開いたのは、近江だった。おもしろそうに、ディオをじろじろ眺めると、達也にすかさず同意を求める。


「確かに! なんかワクワクするね!」


達也も愉快そうに笑って、非日常わーいとはしゃいでいた。だが、すぐに、その顔を曇らせる。


「いやー、本当にさ、残念だよ。これがなっちゃん無関係なら楽しめたのに!」


そう言う近江に、達也や他のメンバーも複雑そうに顔を歪めていた。


「で、さっさとヴィーランズをなっちゃんから引き離してくんない? 本当にヴィーランズがいるなら。」


美緒がすかさずディオに声をかける。その言葉に、ディオは苦虫を噛み潰したような顔で口を詰まらせた。


「うっ……。そうしたいんだが、俺は心理型のヒーローではない。何度か心理型の仕事にも携わってヴィーランズを分離させたことはあるが、技術のない俺ではそう簡単にやれることではないんだ。」


「えー? 長期戦てこと?」


「ああ、そうなるな。」


「心理型のヒーローが来てくれたら良かったのに。話分かるやつ。」


葵も不満そうに愚痴をこぼす。


「それはそうだな。申し訳ない。」


ディオが謝ると、凪が顔をしかめながらディオに顔だけ向けた。


「あ? なら、てめえ、学校にもくんのかよ?」


「ああ、そのつもりだ。」


「ちっ! うっとおしいな! おい、学校以外ではなつに付きまとうなよ?」


「…………………」


「おい!! なつの家には入らせねぇぞ。」


「……監視対象なんだが?」


「だめだ!」


凪が全否定すると、他の男たちもうんうんと頷いた。夏春が困ったように笑うと、凪が彼女を抱き締める。


「だいたいなつは俺の恋人だ。異変あろうものなら俺が気づかないわけないだろ。」


そういって、凪が夏春の髪に唇を落とす。


「なっ! と、とにかく、その格好は目立ちます! 制服を即用意させますので、学校では着替えてください!」


怒りのこもった目で翔がディオに念を押す。翔や他の男たちに八つ当たりを受けながら、いちゃいちゃを見せつけられることに困惑しながら、ディオは頷くのであった。

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