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勇者の居場所

青賀が自ら、自分は女に連れて来られたと言ったとき、その女は魔王で、勇者潰しに青賀を送り込んだのだと言われるようになっていた。


第一校の見える木の上で、イチが真っ青になって嘆きの声を上げた。


「やばいです。私、なんか魔王になってますよ。」


「実質変わらないだろ。」


「修行に耐えられずに勇者諦めるかなて思ってたんですが………まさかあれほど我が道をゆく人だとは。」


「どうすんだよ。やつの魔力量はチートだ。やつを魔法が使えない世界に連れていくしかねぇぞ。」   


「まあ、そうなんですがね……。仮に、私があれを引き取りに行くとするでしょう?ちょっと想像してみてください。」


「おう。」


イチとケンが目をつぶり、もしものパターンを想像する。




想像では、イチが現れた瞬間、青賀が言うだろう。


『あ!こいつに連れてこられたんだ!』


と。その瞬間、第一校の生徒が一斉にイチの方を振り向くはずだ。


『あいつが魔王!』


『倒すぞ! 我々の力を見せつけよう!』


そして、青賀も青賀でー


『え! あいつが魔王なのか! 倒す!』


となり、結果ありとあらゆる魔法がイチに向かってゆくー。



想像を終えたとき、イチの顔は真っ青になっていた。


「ありとあらゆる憎悪が向かってきそうです。ケンさん、さようなら。」


「……俺が行くしかねぇのか。関わりたくねえんだけど。」


青賀を連れ戻すべく、ケンが重い腰を上げた。



           ◇


お金持ちそうなスカウトマンの格好をして「きみにはもっと素晴らしい場所があるからぜひスカウトしたい」とケンが言えば、青賀は喜んで着いてきた。勇者育成校では、ケンは救世主と崇められることになった。


「なぁ、俺にふさわしい場所てどこだ?」


「まあまあ、来ればわかるって。」


そう言ってケンが連れてきたのは現代の東京そっくりの場所だった。高層ビルや行き交う人の多さに東京と勘違いしそうだが、実を言うとそこは東京じゃない。だが、青賀は不服だったみたいである。


「な! 騙したな!!」


現実世界だとわかった瞬間に青賀は暴れだした。それをケンが押さえ込む。


「落ち着けって! 騙しちゃいねぇよ。」


「いいや! 俺はこんなつまらない世界には居たくない!」


ケンの腕の中で青賀がバタバタと再び暴れ出したときだった。


「へい! そこの黒髪ふわふわボーイ!」


四方八方に宝石をじゃらじゃらとつけ、派手なサングラスをかけた女性がそこにはいた。


「な、なんだおまえ!」


「私? 私はこうゆーものデース!」


イチがそう言って名刺を渡せば、そこには『芸能プロダクション お笑い科 実華井事務用 代表 虚』と書かれていた。青賀の目は「芸能プロダクション」に惹き付けられたようだ。


「芸能人!? 俺が!?」


はしゃぎ出す青賀を見てイチとケンが内心ハイタッチをした。


            ◇


イチの考えでは、青賀のはちゃめちゃさは反って笑いに変えられるのではないかと考えていた。


だから思ったのだ。お笑い芸人にしちゃえ!と。


もちろん、普通のお笑い芸人ではない。イチが連れてきたのは、悪役たちがつどる特殊なお笑い事務所だ。そこは、いわゆる犯罪者たちがコンビを組んで笑いを巻き起こす、そんな場所だ。散々人を痛めつけてきたのだから、最後くらい人に笑われることで罪滅ぼしをしろと、そういう意図で作られた事務所だった。


イチたちが事務所を訪れれば、受付けのデスクに、呼び鈴が置いてあり、「用があるなら押して」と書いてあった。


イチが押すより早く、青賀がいきいきとしてベルを鳴らす。こういうところは天真爛漫なのに、なぜ、場所が変われば自己中非常識となるのだろうか。かわいそうなものを見る目でイチが青賀を見つめていた。


ベルが鳴った、数秒後。



ドッシン ドッシンッッ



重い足音に続いて、地響きがした後、皮膚が鱗で覆われた角が生えた生物が現れた。すなわち、それは「人間」ではない。


「なんだ! 異世界じゃねぇか!」


青賀が嬉しそうにはしゃいだ。


「話は伺っています。で、そちらが?」


服を着た二本足の竜がそう尋ねた。


「ええ。青賀くんといいます。」


「サイガ……は、どんな罪を犯したんだ?」


「まあ……前世で殺人罪、傷害罪、侮辱罪、また別世で傷害罪、業務妨害罪……などなど。」


「へえ。軽いな。国滅ぼしたとか世界侵略とかじゃないのか。」


青賀をちらっと見て、「Aクラスだな」と竜の男が呟いたとき、青賀が叫んだ。


「ダイナマイトファイヤーァァァァ!!」


「……………は?」


「あれ?ダイナマイトファイヤー!! あれ、なんで魔法が使えないんだ!」


「青賀くん、こちらでは魔法は使えませんよ。」


「なんだと! ちっ! でも俺は魔法がなくても強いんだぁぁあ!」


青賀が竜に向かって殴りかかる。とっさに頭を抱えて踞る竜の前に出たケンが、青賀の拳を受け止めた。


「た、助かった。俺はここでは暴力はできんから……それにしても、サイガはなぜ、急に殴りかかってきたんだ?」


「おまえは!人類の敵だ!姿でわかる!」


「……は?」


「人外見たら敵だと認定して倒す癖があるんすよ。」


「は? 危険すぎるだろっ! Fクラスに変更だな!」


ケンの説明により、青賀の行き先が決定した。


              ◇


この世界では、悪人、悪役、ラスボスたちで構成されたお笑い組織がある。観客は彼らに迷惑をかけられた被害者やヒーローたちだ。


一つめのステージは、星を滅ぼそうと企んでいた組織のラスボスによるものだった。厳つい角を数本頭から生やした男が椅子に座っている。椅子の横には大きなスケッチブックが置かれていた。


「私は、とある星を滅ぼそうとしていました。」


低い声で男が言い、スケッチブックのページを捲る。そこには丸い惑星とそれを宇宙から眺める男が書かれていた。


「私は、その星を遥か彼方から見たときこう思いました。……………ちっちゃ!!」


パラッとページが捲られる。そこには驚いた男の顔があった。


「しかし、近づいていくにつれ、私はこう思いました。……………以外とでかっ!」


はたまたページが捲られた。そこには大勢の棒人間が書かれていた。


「だから、私は侵略軍を10000人用意しました!!」


とたんに、観客席から野次が飛んだ。


「なんでだよ!! なんで『でかっ!』から『侵略軍10000用意しよ』て思考に行き着くんだよ!!」


「ふざけるな! 我々が貴様らを追い返すのにどれだけ苦労したと思ってる! でかっからの10000っとか喧嘩売ってんのか? 」


「接続詞勉強しろ!」


「棒人間とか雑だろ、仕事しろ!」


ざわざわと騒がしくなった観客に、男のネタはそこで終了された。


次は、ゾンビたちによるコントだった。ウケはまあまあだった。ゾンビがゾンビに追いかけられるという意味不明な設定だったが、やられる立場を本人たちが体験しているというところが、観客をくすぶったのだろう。


「こないでくれぇ!」


逃げ役のゾンビが追いかけ役のゾンビたちから逃げ回る。すると、逃げ役のゾンビの近くに別のゾンビが現れた。


「ああ、仲間に出会えてよかった! さ、逃げましょ。」


「グオッッッッ」


「いや、仲間やなくて敵かい! まぎらわしいな!」


ゾンビがゾンビを叩く。だが、はっきり言って見た目の区別がつかないのだ。再び、観客から野次が飛ぶ。


「ざけんな! 何を見せられてるんだ!」


「頭がおかしくなる!」


「客」のヒーローが混乱から特殊能力を発揮する寸前になったことで、そのショーも強制終了となった。


そして、次は、魔物たちによる体を張った体芸だった。熱々の釜に落ちそうになった悪魔が「押すなよ」と言った瞬間、別の悪魔に押されて中に落ちると、「熱っ!あっつ!!」と言って這い出てくる。


それを見て爆笑が起きていた。

相当観客の彼らへの憎悪は深いようだった。


イチとケンは観客席に座ってそれを眺めていた。ちなみに、イチはまだ一回も笑っていない。


「さーて、次はニューフェイス! サイガアンドレティィィ!」


司会が盛り上げるように叫ぶ。新入りに期待が高まる中、ステージに青賀が現れた。その横には黒いドレスを着た艶やかな女性が立っていた。女性の胸元には「レティ33」という表札がある。青賀の胸元にも「サイガ33」とあるから、どうやら女性とペアなのだろう。女性は比較的人気なようで、女性が出てきたとたん観客から歓声が上がっていた。しかし、すぐにそれも青賀への罵詈雑言へと変わっていった。


マイクの前で青賀が自信げに立つ。横で女性はオロオロとしていた。


「さて、今からサイガアンドレティによる漫才です!」


司会の猫がそう言って、二人の舞台が幕を開けた。


            ◇


「 よっ! 俺は勇者だ!」


「私わぁ、サキュバスよぉ!」


「サキュバスは悪いやつだよな! 勇者の俺が退治する!」


「なんで私敵とコンビを組んでんだよ! 相方が勇者とか衝撃なんですけどぉ!」


「ファイヤーフォーム!!」


「きゃあ!! ……て、何も起こらないんかぁい!」


「ここでは魔法は使えないらしい!だが、拳はどうだ!えいっ!」


「ちょちょちょ! ストーップ! レディーに拳を向けたらダメよぉ?」


「なぜだ!」


「そ、れ、はぁ~。」


そのままレティがサイガの顔を胸に抱き込んだ。


「な、何をしているんだ!」


「サキュバスらしく体で教えてあげるわぁ。」


「な、な、な、ダメダゾ。」


「あらぁ! かわいい!」


「ダメだ! レディー!」


「私はレティだ! いや、まあ、レディーですけどね? ……それでぇ、勇者あるあるとかぁないのぉ?」


「強い!」


「なるほどぉ」


「(厳しい訓練に)耐える!」


「ふーん。」


「(心が)折れない!」


「へぇ。」


「(意思が)曲がらない!」


「いや、フライパンの宣伝かぁ!」


「サキュバスあるあるはあるのか?」


「かわいい❣️」


「それはないないだろ!」


「おまえの心がなぁ!」


          

もはやいちゃつきにすら見えてきたとき、観客は完全にしらけていた。青賀はあの性格だ。しゃべるだけでネタになるだろう、と踏んでいたイチだが、思ったよりつまらなかった。結果、イチはボケ~とし、ケンはその横で爆睡していた。


ようやく漫才が終わったようで、青賀がステージから降りてイチたちの元に走ってやってきた。青賀が「どうだ!」と問うが、イチは「伸び代ありますね」と答えるしかない。


隣で爆睡していたケンの頭をぶっ叩きながら、イチが青賀にこの世界でやっていくかどうか聞こうとしたときだった。レティが青賀の頬にキスを落としたのだ。固まるイチの横で、ケンがヒューヒューと口笛を吹いた。


「サイガ、あんたとやるのはなかなか楽しかったわぁ。お礼よ。」


そう言ってそそくさと去っていくレティの背をぽーっと身ながら、青賀は顔を真っ赤に染めていった。


「おや。勇者殿も恋には疎いのかな?」


「うるさいっ!! レ、レティはお、お、お、俺がす、す、す、好きなんだな!」 


からかうケンに青賀が必死で否定する。否定はしながらも、青賀がレティをひどく意識し出したときだった。


「あら、マークス! この前はぁ、ありがとぉ! チュッ!」


レティがマークスと呼ばれた魔物にキスをしたのだ。あ、やべ、とケンが冷や汗をかく。案の定、マークスがその頬を赤く染めたのを見た瞬間、青賀が走り出した。


「! レティは俺が好きなんだぞ!」


すかさず青賀がマークスを殴り飛ばす。悲鳴をあげるレティには構わず、青賀とマークスの殴り合いが始まった。双方がパワフルなため、どちらかが投げ飛ばされては宙を舞う。悪役の仲間割れが好物な観客は盛り上がり、運営側は真っ青になって頭を抱えていた。


青賀がマークスを投げ飛ばしたときだった。マークスが会場の機材に激しくぶち当たった。機材はバランスを崩して、また別の機材にぶつかっていく。まるでドミノ倒しのように連鎖しながら、倒れていった機材が照明にぶつかったとき、照明が音を立てて崩れ落ちた。


それがゆっくりと、レティめがけて落ちて行くー。


「キャアアア!」


マークスでさえ動けないでいたが、誰より早く動いたのは青賀だった。青賀がレティの元へ駆け寄って、そのままレティの上に覆い被さった。レティを守るかのように、青賀がレティを抱き締める。


ガッチャーン!!!


青賀めがけて落下する照明がその頭上に近づいた瞬間、照明をケンが蹴り飛ばした。


「あ、あんた、なんでぇ。」


「わからない! わからないけど、レティがぐちゃぐちゃになるのも、レティが他にキスをするのもやだ!!」


「あんた……」


「レティ……」


「いや1回やっただけで彼氏面?」


「なっ!」


「……1回くらいじゃ、私はなびかないわよぉ。……また、組んであげる。」


「レティ!!」


盛り上がる二人を見ながら「漫才な。漫才の話な。」とケンが確認していた。



             ◇


青賀は、どうやらこの世界がお気に召したようだ。暴走勇者も一応勇者だ。誰かを守ることが体に染み付いていたのか、恋の力なのかは定かではない。


だが、青賀が落ち着く場所を見つけられたことに、イチたちはほっとしていた。

 

お笑い会場を後にしながらケンが口を開いた。


「あんなんでよかったんかな。性格があれとは言え、世界をいったりきたりと気の毒だ。」


「私が魔王と言われたとき、違和感が半端なかったんですよ。なぜだと思います?」


「現実を受け止めきれなかったから。」


「喧嘩します?……違いますよ。どっちかというと、私より青賀さんの方が魔王らしいと思ったからですよ。」


「なんかおまえといると、悪役側がかわいそうに見えてくるわ。すげぇな、おまえ。」


「 違います! 私がいいたいのは、青賀さんは人間より人ならざるものたちとの方が仲良くやれそうだという話です。きっと今までいた世界より楽でしょう。」


「ま、本人は研究員を志したこともあったらしいがな……元々の気質がパワー気質だからな。」


若干怒り気味で頷くイチにケンはもう何も言わないことにした。


なんとか青賀の後始末はできたイチとケンだったが、当然救うべき世界は一つではない。こんな風に後始末に終われていれば、一向に世界は救えないだろう。


「……人手がほしい。」


ケンのぼやきにイチも頷いていた。

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