01 レムリア
「ここが……レムリア!」
二日かけてレムリアにたどり着いたライクは、目の前の光景に圧倒されていた。
レムリアは、地面が半球のような形に抉れている都市だ。
例えるとボウルの中に都市があり、それを縁と地面が合うように埋めた感じだ。
加えて、反対側の地面が見えないくらい巨大である。
驚きながらも、ライクは目の前にある木製の橋を渡り始める。
ちなみにレムリアはこういった立地のため、都市内に魔法で空中に維持された橋がとても多い。
そして……
「わぁ……! さすが水の都市!」
空中や橋沿いに水流が通っている。透き通ったきれいな水だ。
太陽の光を反射してキラキラ輝いている。
この水流は単純に観光資源としての見方も出来るが、魔法の原動力となる魔力が流れている。
これで橋や木で出来たエレベーターなどの、生活に欠かせないシステムを維持しているのだ。
あと、魔力の乗っ取りもされない様に細工もしてある。
水が好きで日頃から川を眺めていたライクだ。
これを見るためにここへ来たと言ってもいいと、そんな事を思いながらヒースから行けと言われている目的地へと向かっていた。
ライクは持ってきていた地図を頼りにしながら、エレベーターの前にたどり着いた。
エレベーターの前はウッドデッキになっていて、ベンチやテーブルなどが備わっている。
「……さてと、キョウデンにいくにはどこで降りればいいんだっけか」
ライクは今、一番上のフロアにいる。
そこからどのくらい降りればいいか確認したかったので、近くのベンチに座る。
少し補足すると、ライクの目の前にあるエレベーターは、一基だけではない。
市民の足となるモノだ。いくら大きくても一基じゃ足りない。
では、何個あるか?
少なくとも十基以上あった。
百人以上は余裕で乗れそうな、そんなエレベーターが……だ。
あまりの光景に、森から出てきたばかりのライクは何も反応出来なかった。
そして、これからいちいち驚かない事に決めた。
いちいち驚いていたらキリがないし、それに田舎者だと笑われたくなかったからだ。
誰もそこまで、ライクの事など気にしていないのだが。
どのフロアで降りるか確認したライクは、ちょうど来たエレベーターに乗り込んで椅子に座った。
ライクの他に五十人ほど乗っているが、窮屈さは感じていない。
ライクはエレベーターから外の風景を見ていた。
大きな水流が近くを通っていたり、遠くに大木で出来た建物があったり、水を纏った豪華で綺麗な城があったり、見ていて飽きなかったからだ。
「あんた、レムリアは初めてかい?」
近くに座っていたお婆さんに話しかけられた。
ライクはちょっと驚いたが、レムリアについて色々聞けるチャンスが来たと上機嫌にもなる。
「はい。初めてです!それでちょっと気になったんですけど、あの建物は何ですか」
ライクは大木の建物を指差して言った。
「あれかい?あれは、アルモカモールだね。あの木だけじゃなくて木から飛び出している建物もそうさ。あそこで色々買ったり、売ったり、遊んだり出来る」
(あ、あれが…………『みんな大好きアルモカモール』……!)
ライクは本で読んだ事があった。
――曰くプールや屋内公園などの施設で自由に遊んで良い。
――曰くとても美味しい飲食店が勢ぞろいしている。
――曰く魔法具や食材、服など大体の物はここで買える。
いつか、絶対に行きたいと思っていた場所だった。
「おや、目がさっきよりも一層輝いているね。本当に小さい子はああいう施設が好きだねぇ」
「小さい子……というか皆ああいう施設は好きじゃないですか?」
「確かに。私も好きだった」
「やっぱり好きじゃないですかー」
こんな感じの会話を隣のお婆さんと続けながら、降りる階が来るのを待った。
エレベーターは一つの階に長い事止まる。
降りる人や乗る人が多いからだ。
だから、落ち着いて話す事ができた。
「あ、僕はここで降りますね。色々教えて下さりありがとうございました」
「おや、あんたもここで降りるんか?また随分奇遇な事だねぇ」
お婆さんと共にエレベーターを降りる。
今ライク達が下りたのは、一番上のフロアから数えて七回下がった所だ。
話に夢中で気づかなかったが、ランプの魔法具が数多く光っている。
恐らく下に行くほど暗くなってしまうためだろう。
水流も相まって幻想的な風景を生み出していた。
「これからどこに行くんだい?」
「キョウデンってとこです」
「なんと、行先まで一緒とは……ここまでくると逆に怖いね~」
お婆さんが笑いながら話す。
なんと行先まで同じだったらしい。
これまたチャンスと感じたライクは、一緒に行きながらキョウデンがどういう所か聞く事にした。
ライクは、キョウデンが何なのか知らないのだ。
というのもヒースが、『キョウデンに行ってロウバイって奴に会え』としか言わなかったからだ。
「えっと、すみません。キョウデンってどういう場所なんですか?」
「目的地だってのに、何も知らないのかい?キョウデンは色々な人にとっての家だね」
「いやぁ、師匠から行けば分かるとしか言われなくて……家ですか?なるほど、そこに住めって事みたいですね」
師匠の意図が大体わかった。
だがもう一つ分からない事がある。
「それとロウバイって人に会えって言われたんですけど、知ってますか?」
こっちのが早く着くんだと言って階段を下りていたお婆さんは、急に驚いてこちらを振り向いた。
「ん?……あんたもしかしてヒースの弟子か?」
「え?は、はい!」
あまりに唐突に振り向くので、こちらも驚いてしまった。
するとお婆さんが顔をじっと見てくる。
ライクにとっては非常に気まずい時間が流れるが、お婆さんは気にせず見つめ続ける。
他の人の往来の邪魔になっていないか心配になり始めた頃に、ようやくお婆さんがニヤッと笑って話し始めた。
「いやぁ、見つめちゃって済まないね。私がロウバイさ。あんたの師匠ヒースとは昔からの友人だよ。話は聞いてる。ここじゃ他の人の邪魔になっちまう。さっさと行くよ」
普通だったら探し人本人である事に驚くべき所だろう。
だがライクが真っ先にしたのは周りを見る事であった。
そうして誰の邪魔もしていない事を確認して、安堵したのだった。