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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第4話 異邦のパーティー1


 魔術師の老人ーーバッカスの元で修行を始めて10日が経過し、魔術の修行は概ね良好だった。

 出会った当日だけでなく、常日頃から酒瓶を持ち歩くバッカスだったが、修行に関しては真面で、魔術の知識や感覚のない俺に対しての指摘が的確で説明も分かりやすかった。

 同時に、最初に受注する依頼の選び方から街の周囲に生息する魔物の種類や危険性については現地に赴いて説明を受けた。そして、魔術の腕前は俺などでは到底足下にも及ばない程に長けており、たった1人で魔物を討伐する事も出来る。


 本来、魔術師の行使する魔術には詠唱の工程が必ず必要となる。人によって、詠唱の内容に個人差があるが、詠唱を行う時間が魔術師にとって致命的な隙となる事に違いはない。


 だが、俺やバッカスの持つ空間系統魔術は、その隙を補うポテンシャルを持つ良い点と扱い難い悪い点がある。


 今の所、俺が使える魔術は3種類。

 闇系統魔術は、〝影沼〟〝恐怖〟。空間系統魔術では、〝歪曲〟。どれも、バッカスの様な威力の高い魔法と比べれば、基礎的な魔術である。



「小僧……良く、そんな地味な魔術を真面目にできるな」


 朝から真面目に魔法の訓練に励んでいると、二日酔いなのか、頭を抱えたバッカスが宿から姿を見せた。そして、大きめの石に座ると、力強い視線を俺へと向けて来る。


「筋は悪くない。寧ろ、今までの異邦人と比べれば、天才の域に達している……」


 小声で呟いているバッカスの声は、自分の詠唱に掻き消されて良く聞こえなかった。

 

 「小僧……いや、ユーリ」


次はハッキリと名前を呼ばれて、バッカスの方を振り向く。


「お主は今日から魔術師だ。精々死なんようにな」

「師匠。良いんですか?」

「元々、銀貨10枚で、指導期間は10日の決まりだ。ほら、準備をしたらさっさと冒険に行け」

「ありがとうございました」

「おう」


 短く返事をした老人は、石から立ち上がり宿の中へと戻って行った。そして、準備を整えた俺は、冒険者ギルドへ向かう。


 見慣れて来た街の様子を眺めながら、冒険者ギルドへ到着してからの事に着いて考える。


 今俺がやらなければいけない事は、兎に角お金を稼ぐ事だ。


 残された財産は、銀貨1枚だけ。


 10日間は、バッカスの泊まっている宿に住み込みで働きつつ、足りない分をバッカスが出してくれていたので、実質、衣食住は無料で保たれていた。


 だが、今日からは何とかしないといけない。


 まず、駆け出し冒険者が避けては通れない依頼は[ゴブリンの討伐]だ。他にも、薬草採取の依頼も駆け出し向けだが、優れた狩人がいないと薬草を見つけるだけでも大変である。それに、森で何度か薬草を見た事があるが、草木の茂った森では見分けが付かない。

 更に、いくら[薬草採取]を目的にした依頼を受けたとしても、魔物に襲われないとは限らない。そして、この街ーーロギスの周囲で最も多いのがゴブリンだ。


 ゴブリンは、小鬼とも呼ばれ、大きさは人間の子供と変わらない。120〜130cm程度の大きさの緑色の肌をした人型の魔物だ。力は弱いが、狡賢く、卑怯で、不潔な魔物。

 素材となる部分がない事から、素材を売って臨時収入にも出来ない。


 正直、利益は低い。


 だが、数は多く、被害の件数も多い。その為、依頼に困る事もない。


 「……ぅ」


 ゴブリンの事ばかり考えていたら、少し気持ち悪くなって来た。


 辿り着いた冒険者ギルドのドアを開ける。


 修行が終了した事を受付に伝えないと……と思いドアを開けた先で、凄まじい音を立てて丸い人型の何かが床に叩き付けられた。


「!」

「良い加減、トーカに付き纏うのは辞めろ!」


 叩き付けられたのは、トーカの兄と名乗った青年で、殴り飛ばしたのは見覚えのある金髪の青年だ。


「ち、違うんです。僕は、どうしても、トーカと話をしたくて……」


 縋るような目に対し、軽蔑と憎悪を込めた視線で返すトーカが、扉の側に立つ俺に気付いた。


「ユーリさん!」

「ぁ、久しぶり」


 駆け寄って来るトーカは、先程とは別人の明るい少女の姿をしていた。


「修行が終わったんですか?」

「何とかね」


 俺とトーカが話している所に、金髪の青年もやって来た。


「君も無事に修行を終えたんだね。僕は、ミキト。この【暁の風】のリーダーをしている」


 握手を求められて、一応握手をしておく。


「君は、魔術師なんだね?」


 俺の纏うローブを見て、ミキトが尋ねる。


「そうだけど、何か?」

「いや、不思議と君と会った時からパーティーに欲しいと思っていたんだ」

「でも、そっちにも魔術師は2人いるだろ?」


 ミキトの後ろには、細身でモデルの様な体型の女性と小柄な少女の魔術師がいた。2人とも見覚えがあるという事は、領主と会った場に居たんだな。


「うん、僕は運が良かったみたいだ。でも、僕が一目置いた魔術師と仲良くしちゃいけないルールはないからね」


 清々しい程のイケメンだな。そして、素直に認めるしかない。


 ミキトは、遺跡での人々との出会いを無駄にする事なく、パーティーとしての繋がりを作って見せた。


 俺には、決して出来なかった結果だ。

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