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異邦世界の黄昏  作者: ユモア
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第10話 異邦の昇級試験

 異邦の地ーー異世界に来て、日々冒険者ギルドで依頼を受け続け、10等級から9等級へ昇格する為の昇格依頼を受ける事になった。

  

 昇格試験の内容は、[ゴブリン討伐]と冒険者ギルドが指定した[薬草採取]を行うだけで良い。


 所詮は、最底辺から底辺への昇級試験だ。危険性は今までと変わらないが、2つの依頼を同時に熟す事が出来るのが昇級試験の肝なのだろう。


 今までと同じ様にすれば問題ないと気を引き締めて昇級試験に俺達は望んだ。


 だが、出発して幸先良く薬草を採取する時まで晴れていた天気が嘘の様に雲によって空が覆われていた。どんよりと重い色をした天気からは、いつ雨が降って来ても不思議ではない。

 

 天気が崩れれば、パーティーの目である狩人の力が充分に発揮出来ない。それだけではなく、リューザスの嗅覚も使えなくなる。


 そこで俺は、撤退を提案する。それは、昇級試験に失敗する事を意味し、罰金と昇級試験の延期というペナルティを受けてしまうが安全策を取るべきだと判断した。


「俺は、反対だ」


 ムツは、昇級試験の続行を提案する。


「多少の雨なら問題ない」

「だけど、森ではゴブリンの方が有利だ。今までは、奇襲をする事で討伐出来ていたけど、もしも奇襲をされて怪我人が出たら無事じゃ済まない」

「何故、負ける事ばかり考える?」

「え、別に負ける事を考えてる……いや、この世界はゲームじゃない。だから、負けない為の事を考えるのは重要だと思う」


 その時、いつも口数の少ないムツの目に激しい感情が湧き上がっているのが見えた。


「困難に立ち向かう意志のない者は、弱者だ。俺は、困難からは逃げるつもりはない」

「そこまでだ」


 話が一向に平行線を辿っているのを見かねたリューザスが、俺とムツの話の間に入った。


「ユーリとムツ。どちらの意見も正しい。だから、多数決で決める。良いか?」


 リューザスの提案に、俺とムツは頷く。そして、意思を確認されたハルユキはムツの意見に賛同する。


「ごめん、ユーリ。僕も、もう逃げたくないんだ」

「俺はもう少し粘るべきだと思う。そして、天気が崩れれば潔く撤退だな」


 結果的には、2人ともムツの意見に賛同した。


 俺が深刻に考えていただけで、3人には3人の考えがあるんだな。


 多数決の意見に従った俺を見て、ムツは何かを考えている目で見ていた。そして、俺達のパーティーは森の奥へと進んで行く。


 だが、その時、音が鳴った。


 木と木がぶつかり合う様な音が、ムツの足下の方でなっている。


「っ!」


 直ぐにそれが鳴子だと気付いた俺達に向かって、ゴブリンが襲いかかって来た。

 だが、それは奇襲に備えていた俺とリューザスが対応する。魔法で縛り、リューザスが一太刀で首を斬り裂く。


「なんか、音がいっぱい聞こえない?」

「それに、雨も降って来たな」


 ゴブリンと、それに混ざった違う獣の気配を感じ取った頃、空からは小粒の雨が降って来た。


 何でこんなに最悪の歯車は噛み合うんだ。


「撤退だ!」


 リューザスの判断に、反論する者はいない。全力で来た道を走る。


「グギュルグ!」

「はっ!」


 戦闘を走るリューザスに次々とゴブリンが襲いかかる。

 その為、真っ直ぐに最短距離で街へ帰る事は出来ず、雨と薄暗さの所為で茂みからの奇襲や罠に気を付けなければいけない。それに、まるで、さっきから嫌な予感が堪らない。


 背後から感じる視線に思わず、足を止めそうになる。


「足を止めるな!」


 再びリューザスが声を上げて叫ぶ。


「おそらく、ゴブリンの上位種がいる。足を止めれば、囲まれるぞ!」


 リューザスが話している間にも、外れた矢が地面や木々に突き刺さる。

 悲鳴を上げながら走るハルユキだが、息がだいぶ荒い。それに加えて、[空間把握]に感じる魔物の気配が増えていた。


 その時、ムツがリューザスの名を呼んだ。


「俺が足止めをする。後は任せた」


 突然走るのを止めて、茂みからこちらを狙っていたゴブリンの喉を正確にムツは射抜く。


「ムツさん、駄目だよ!」

「足を止めるな!」


 ムツの怒声によって、ハルユキの止まりかけていた足が再び動き出す。


「ユーリ!お前もだ!」


 俺はどうしたら良いのか分からず、迫り来るゴブリンとゴブリンが従える狼に似た魔物の姿を睨み付けていた。


 あの数を倒すのは無理だ。

 細い洞窟などなら兎も角、縦横無尽に動けて障害物の多い森の中では勝つ事は難しい。


 だったら、逃げれば良い。

 ムツの言葉に従い、逃げさえすれば助かるかもしれない。暫くの間、罪悪感に浸って、また再出発をすれば良いんだ。

 今度は、盗賊と前衛職を増やし、代わりの狩人を見つける。



 そこまで、瞬時に予測出来てしまった俺は足に力を込めて走り出す。

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