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6 眠れない夜

「………。眠れない。」


ここに来て一週間。

最初こそ、ふわふわのベッドに倒れ込んだ瞬間気を失うかのように眠りについていた。

しかし、ここにいる間特に何をする出なく、本を読んだり、庭を散歩したり、時々家事を手伝って、ロクシーを殺すべく攻撃に出る。

そんな、麗らかな日々が続いていた。

その結果。

体を動かして、疲れ切ることが無く、眠りも浅くなってきていた。

ここに来る前は、雨の日も雪の日も一日も欠かさず肉体労働。

うっすい朝の布団でさえ、朝ま夢も見ない深い眠り、と言うか、気を失ったように眠った。

眠りたくても眠れない今、ぐっすり眠れるかつてがなつかしく思えた。

「ひつじが、一匹おりまして……」

などと、自分で子守歌を歌ってみたりもした。

眠くなるまで本を読む作戦は逆に目がさえた。

これは、もう、万事休すだった。

いや、休めないのだから、休せず?

閑話休題

この生まれて初めての『眠れない』と言う状況に俺は手も足も出ないでいた。


かくなる上は、

「よし、体を動かそう。」

ベッドから起き上がった俺は、服のうえからもう一枚フード付きの厚手の服を着る。

夜も遅い。

外は寒いだろう。

しかし、館の中で走り回るのは、ロクシーの邪魔になる。

起こされたからと暴力でも振るわれたら、一貫の終わりだ。

出来れば今夜は大人しく寝たい。

無駄な火種は増やしたくなかった。

こっそり部屋のドアを開き、廊下に出る。

そのまま音もなく閉めた。

窓の少ない廊下は暗い。

遠くの方にある窓の一つから月光が差し込むのが見えた。

取り合えず、そこに向かって歩いた。

コツコツと靴底の音、

昼間より大きく聞こえるのは、昼間よりも感覚が鋭くなっているからか、はたまた、鳥などの鳴き声が無いからか。

どちらにせよ、気になった。

いつも以上に慎重に足音を殺した。

自分の呼吸音すらうるさい。

なんだか、緊張しているか、ワクワクしていた。

寄るに出歩くのは珍しい。

暗い闇の支配する夜は夜の女王の領域、出歩いてはいけないよ。と、村の子供達は聞かされて育っている。

夜は獣や不審者が多いから、子供を守るための作り話だろうと、今では分かるが、母親から聞いた当時、怖くてベッドのよこの窓の外に何かいるのではないかと、恐々とした覚えがある。

闇の中に金に光る夜の女王の瞳が見えるのでは無いか、それに見られたら魂を吸い込まれるのではないか。

そんなことを考えてはとなりで眠る母と父の腕にしがみついた。

あの頃は、まだ、母がいた。

父がいた。

あの日、あいつに殺されるまでは、


しかし、あの時は何故外にいたのだろうか。

夜だった。

月の出る夜だった。

父も母も夜には寝ていた、起きていることなど見たことが無い。

俺が眠る時間になると、2人で俺を挟んで寝てくれていた。

なんで、あの日は……。

残念ながら、思い出せないが。

あの出来事の前後の記憶が無い。

あまりに衝撃的だったからか、母と父が倒れている光景と、赤く染まったロクシーの姿を見た後、俺の記憶は無くなっていた。

思い出したくも無いのだが、

たどり着いた窓の外、月の輪郭をみる。

ああ、あの日もあんな月だった。

美しかった。

残念ながら俺がこの世で最も恨んだものと、美しいと思ったものは同じものだった。

「全く…またつまらないこと考えてたな。」

1人呟く。

彼女のことは憎い。

殺してやりたいと思ってるし、実際毎日隙を見ては殺しに掛かっている。

しかし、彼女が死なないことを分かったうえで攻撃に転じていることを心のどこかで感じていた。

殺したい。

でも、あの美しさを失いたくない。

美しい心なんて捨てた俺でも、まだ純粋だったあの頃に焼き付いた涸渇するほど欲する姿。


頭を一振りした。

やめておこう。

ただでさえた彼女に届かない刃の刃先がぶれそうだ。

敵に恋い焦がれるのは、愚かな者のやることだ。

俺はそんなことなかったと思う。

あいつに刃先を届かせる。

そのために生きている。

「おや、まで寝ていませんでしたの?」

「ロクシーか。」

窓の外をのぞいていたら、近くにで声がするまで存在すら知らなかった。 

「ええ、早くおやすみなさいな、人間。」

「お前こそ、シャワーでも浴びて早く寝な。」

「子供扱いなさらないで。まあよいですわ。」

ふぅ、とロクシーは、ため息をつく。

「いやはや、人間も夜に眠れないことがありますの?」

「あまり、無いな。お前達と違って夜は寝るものだ。」

「そうですの。私もこうして朝に起きて夜に寝る生活を長らく行って参りましたが、眠れない夜は或るものですわ。そんなときは、だいたい1人、屋根へ上がったものです。」

「屋根……か?」

「ええ、上から眺める月は、それはよいものですわ。しかし、今夜はそうはいかなそうですわね。」

「?」

「ほら、行きましょう。ホットミルクでも入れますわ。」

「……ああ、助かる。」

歩き出したロクシーの顔が一瞬だけ月明かりに照らされる。

金の月に赤く照らされた。

「ずっとさ、」

ふと、気付いたように口を開く。

「吸血鬼の血って赤じゃないんだろうなと思ってた。」

「まあ、何故?」

「赤い血のもの同士だったから、きっと人なんて殺せないって思ってたから。でも、そうじゃなかったんだな。今一瞬。お前の顔がちゃんと血の通った赤に見えたよ。」

「…………そうですの。」

再び闇に紛れたロクシーは、

頬に流れる血をこっそり拭った。



「ああ、こんなところにも残ってましたの。全く、血をまき散らしながら死ぬなんて、なんとも見苦しい………」


呟いた声は、誰にも届かなかった。



***

間に合った……。

どうにか。

そして、話も進められた。

皆々様、誤字脱字等ございましたら是非、お知らせください。

もしくは心の中で、間違ってるぞ!って言ってやってください。それでは、またの機会に。



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