5 これから
「さて、これから生活して行くに当たってだが、」
朝食終わりのお茶の一時、
突然切り出した言葉に紅茶を吹き出しそうになった。
「む、汚いですわ。」
「うるせぇ、何だよ急に」
「大切なことですわ。此方も家に招くうえで、大切なことがありますの。」
どこからか取り出した紙を見ながらこほんと咳払いをする。
「それでは、読み上げますわ。まず……」
「ちょっとまて!」
俺は慌てて言葉を遮った。
「お前、まさか金払えとか言わないよな。」
それは困る。と、内心ハラハラしていた。
手に職無く、市場の売り子等、日がなその日の夕食と次の日の朝飯代を稼ぐ生活をしてきた。
村から遠く離れたここで、そんな仕事は無いし、貯金などあるわけ無い。
昨日から感じていたが、はっきり言ってここの生活は最高だ。
暖かい布団、美味しいご飯、風呂とトイレも付いている。
隙間風や雨、埃なんか気にしなくていい。
こんないい生活に金を払えと言われたら、きっと莫大な金額になる。
悶々と災厄の状況を今替え続ける俺。しかし、彼女の返答はその考えのうらを付くものだった。
「んなわけないですわ。私は一文無しの貧乏人から金をむしり取るほど残忍ではありません。」
「よかったっっ…でもそれ言いすぎじゃないか?」
「そうかしら?」
さてはこいつ何の戸惑いも罪悪感も無く人を傷つけられるやつだな。
「それはさておき、続けますわよ。この館に住むにおいて、庭、浴室、南の端にある書斎、ホール、そして、食堂。これらの部屋は勝手に出入りしていいわよ。」
「そうか、お前への罠を仕掛けるのは?」
「別にいいわよ。」
「怖いものなしかよ。」
ちょくちょく俺が話を遮るからか不満そうな顔で見てくる。
こいつ、沸点低くそうだな。
「……それ以上話の腰を折りましたら、あなたの腰骨を折りますわ。」
「……。はい。」
よしやってみろ、とは口が裂けても言えない。
だって、ほんとにしそうだ。
その瞳の奥に灯りつつある光が……
まじのやつや。
「さて、そして、私の部屋と地下室に入ってはいけませんわ。これは守ってくださいませ。」
「ちっ、お前の部屋に罠仕掛けようと思ってたのに。」
「罠はかまいませんが、女子のプライバシー的には駄目ですの。」
そんなもんか、と、納得する。
そして、
思い出す。
「お前、今日俺の部屋は行ってきたじゃん。」
「ノックはしましたわ。返事も待ちました。」
それはそうだが。
「プライバシーの侵害だ!!」
「知りませんわ。喫茶店の屋根裏よりかはプライバシー保護されてますわよ。」
「たしかに。」
口をつぐむことにした。
何言っても意味ないと分かったからだ。
「で、地下室は?」
「…………。」
ピキッと、空気が凍り付いた。
「聞きますの?好奇心は猫を殺す………ご存じ?」
「……ああ、知ってるよ。あえて、聞いてるんだ。」
殺気にも近い圧力。
あってから始めて真っ直ぐ向けられたそれにはっきり感じる、
こいつは、
殺せない。
その前に自分が殺されそうだ。
数多くの彼女の前に立ちはだかってきたものたちに同情の意を感じずにはいられなかった。
声の震えを押し殺すのにも苦労するような状況で、無理矢理張った見栄など、彼女にはバレているだろう。
それでも、ここで引けない。
少しでも引いたら……
食われる……。
こめかみに汗が流れるのを感じた。
冷たい。
「ただの、物置なのですけどね。」
「………はぁ?」
緊張感を返してくれ、と、言いたい。
「私、家事は出来るのですけど、その……、お片付けって苦手でして……。」
「それで?」
「いつからか家の中の片づけきれないものを地下室に入れまくるようになり……ついには……」
「皆までいうな……。」
「うう……」
わざとらしく頭を抱えて見せて、じつは、ほっとしていた。
なーんだ、こいつにも欠点があったのだ。
今日は、一つうそをついた。
蝋燭の炎が壁に揺れる影をつくる。
ぎぎーっと開いた扉の奥。
輝いた。
***
こんちは。まりりあです。
短いですけど、勘弁してください。
筆が乗らないってありますよね、アレです。
続き、少し遅くなります。