44 誰かの記憶から消えても
真っ白い本のページにインクを一滴零したら、そこには黒いシミが出来る。
それを花だとか、涙だとか形容するのは詩人のやることであって、凡人である私達からしたら、それはやはりシミ以外の何物でもない。
あ~、やってしまったと、頭を抱える事に違いない。
少なくともそこに芸術家達のような美しさを見出したりはしない。
ただ一つ。本にインクを垂らすなら、誰かの記憶と希望と夢とそして絶望と欲と涸渇を混ぜて色とりどりの黒いインクを垂らしましょう。
きっとそこには美しく綺麗な何かが見出せるはずです。
凡人でも詩人でも芸術家でも、それを読んで思い描くものはたしかに彼らの中の確固たる何か、奥の奥の深いところにある何か。
それを見たとき、人は大きく感情を突き動かされます。
「と言うわけです。」
「どういうわけだよ。」
相変わらず薄暗い本屋さんにミツキとフィロック。そして、ミヤがいた。
ロクシーやラインがいないことに疑問を抱くが、それよりも驚くことがある。
それは……
「ミツキ……お前?どうしたんだ?」
「ふっふぅ~ん。おめかし!」
いつもは着ないような上質な緑のワンピースと黄色い子花柄のケープを羽織っている。
これは………異変である。
ゴクリとつばを飲んだ。
「……ミツキ……お前。」
「おや、その顔は、フィロックは私が何をしようとしているのか分かったのかい?」
「っ……まさか。」
「そうそのまさかさ!」
「彼氏出来たのか?」「今から送るのさ!」
「「はあ?」」
二人して同時に話して、二人とも同時に叫んでいる。
その様子に思わずミヤは笑った。
「フィロック君、どうしてそう言う考えになるのかな?」
「化粧っ気のない女が急に服をかまい出すのは、男が出来た証拠。デドールの日記第二十三話『三日月藻とチーズ』より。」
「あれかぁ~。」
頭を抱えるミツキ。
「あれは、あれだから。頭のイカレタおばさんが書いてるの!」
「しかし、興味深いものだったぞ?」
「それは認めるけどさぁ!」
急に言い合いを始めるフィロックとミツキに戸惑ったミヤが声をかける。
「あの………それで今日は何を?」
「本題に入ろっか。えっとねえ、ミヤ、君は今から本の中身になるんだ。」
「「は?(え?)」」
森の奥、小屋の中に三人の姿があった。
壁の所々から黄色い二つの目玉が覗いている。
それを気にすることなく、三人は話し合っていた。
「………私はぁ、なぜ呼ばれたのだろうか。」
「ミサヤにも関係あるから呼んだ。それだけですわ。」
「……私にも関係ある…ねぇ。」
手に持ったカップをカタッと鳴らして机に置くとミサヤは息を吐いた。
「はぁ、あのさぁ、私は妹たちのことはどうも出来ないよぉ?」
「あなたが彼女達をどうこうする必要は無い。私達の言うことに、賛成してくれればいい。」
口を開いたラインの言葉にミサヤは置いたカップを両手で握るように持った。
「聞こうか。」
「助かりますわ。」
「ミヤの事だ。本の中に行ってもらうことにしたんだ。」
「へぇ。できんの?」
「やったのは君だろ、まだ出来るのかい。」
「おや、図書館の本のこと、知ってたのか?」
「もちろんだよ。」
くっく、とミサヤが笑う。
疲れた顔をしたロクシーが恨めしそうな声を出した。
「私もあれに入らされたんですからね、ほんっと信じられませんわ。」
「……まじで?元気だった、ジェーン。」
「あの子のことですの?元気そうでしたけど寂しがってましたわ。」
「あっそ。」
「貴方の魔力で酔ったんですから。あれ、どうにかなりませんの?」
「……ほぅ。そっから私が作ったってばれたか。」
「バレバレですわ。わざとですの?」
「いや、そんなつもりは無かった。まだまだ修行が足りないねぇ。」
愉快そうに笑うミサヤをロクシーは眉をしかめて睨み付けた。
ミサヤの首筋にいた蛇のテツと目が合って逸らしたが。
それで、とラインが話を切り替える。
今回ばかりは真面目な様子だ。
「出来るの。出来ないの。」
「問題ないね。ただ、あんたにとっては娘で、私にとっては妹を紙の中、現実の外に追放することになる。まずはその理由を聞こうか。」
「………分かった。」
同意はしたものの、やはり言い辛いのか、少しの間黙りこむ。
ロクシーが変わりにはなそうと口を開くと、ラインはそれを制して話し始めた。
「両親の殺人。弟の殺人未遂。我が村を外から攻撃してきていたロボットとつながっていた、これ以上に理由はないよ。」
「ストップだ。それなら私とサヨリはそれら全てを知りながら我関せずと見物してきた。それは罪にとらわれないと?」
「……そうだね。問題はそこじゃない。真実なんて知らないものにはいくらでも隠せるし曲げられる。でも問題は、彼女が知られていることにあるんだ。」
「………つまり、隠し通せなかったと。」
「森で、見てしまった人がいたんだ。それで、私は仕事でそちらへ行かされた。」
「あっそう。」
「腰を抜かしていたよ、見たって言う人は。そりゃあそうさ。ミヤが羽を生やしてロクシーの対峙して、しかもよからぬ事を叫んでいる。何時もの彼女を知ってるものならなおさらね。それが議会で問題になった。」
「適当なこと言ってあしらえないのか」
「無理だね。彼等も決して馬鹿じゃないから。」
「だろうね。」
テツの頭を撫でながらミサヤは立ち上がった。
「分かった。んで、短期、長期?」
「前者で頼む。運んで欲しいところがあるんだ。」
「了解。次会うときはお家でね。」
「ああ、」
***
こんにちは。まりりあです。
ミサヤの話し方が分からん?後、ラインも、変な感じ。
変だなって思ったら………うん。諦めてください。
皆さん…。砂漠の薔薇と言う小説も書いていたのですが(これ見てる人はわかるかな?分からなかったら見てみてください。)、昨日一応完結したのです。
そしたらなんと、昨日一日だけで200回も読まれてる?らしくて、びびりました。
三桁って初めて見たので、
短編に負けてるこれって………
あ、ちなみにこれも後三話くらいで終わりますんで。
新シリーズは異世界系ですよ?好きな方多いでしょ?私は好きです。
後書きで長々と失礼しました。
何時も読んでくれている貴方に感謝を
まりりあ