42 法と
「よし。全員揃ったね。私も粗方内容は聞いたし、微力だけど手伝わせてもらうよ?」
ミツキの声に応えるものはいない。
皆一様に真面目な顔をしてこれから話されることの一言も漏らさないように耳を澄ませている。
「議題、村長よろしく。」
ミツキが手に持っていた本でラインを指す。
その先のラインはいつにもなく険しい顔をしてた。
していたが、
自分に話題が振られたと分かると一瞬で惚けた顔に戻った。
「………僕?え、何で?」
困ったように言う。
何も知らされてなかったら、誰もがそうなるだろうが。
「言えよ。」
無慈悲にもミツキは彼に言わせようとしていた。
「えっ……ええ……なんでぇ?まあ、いいけどさぁ。」
そうそうたるメンバーと言っても良い。
村長にその娘兼秘書。
さらには村を何時も守っている吸血鬼にそれを殺そうとしていた男。
そして、村の知識と呼ばれる図書館の館長。
隣国との戦争や災害対策本部などと言われても不思議でないメンツで話し合うのは、
「えー。では、これより第一回ミヤを叱りましょう会の開催でぇーす。」
「いっえーい!!」
村長と村1番の知識人の楽しげな声が響いた。
「ちょっ、ちょっとお待ちに菜って。そのテンションでいきますの?」
「そうだよ~。ロクシー嬢!フィロックもほらもっと盛り上がって!今夜の夜ご飯鰊のパイだって言われた時みたいに!」
「まじで鰊のパイなの?やったぁ!!」
「うそだけどな。」
「え………?」
先ほどまでの張り詰めた空気はどこへやら、そもそも悪乗りする奴らの集まりなので、火蓋が切られたら止まることを知らず、異様なテンションのまま話し合いが始まろうとしていた。
そこに待ったをかけたのは、今回酷く怒られるはずのミヤその人であった。
「待ってください。ちゃんとしてください。帰りますよ?」
「今回の会議の主役であるミヤちゃんが帰るだと?!待って、この『今回の主役』タスキあげるから待って。」
「……失礼しました…。」
「止めて!扉に向かって歩かないで!まだ始まってないから、会議始まってもいないから。真面目にするからぁ!」
義理の父親の悲痛な叫びに一つため息をついてミヤは、もとの席に戻る。
座ったのを見て、ミツキがパチンと手を叩いた。
「はーい。真面目にしましょうね。」
「お前が始めたんだろ。」
「フィロック。お口チャック。」
「私は、両親を殺しました。そのことを今更隠し立てするつもりもないし、命には命を持って償う覚悟です。故に、自ら命を絶つ事を許して欲しい。」
ミヤの真っ直ぐな言葉に、四人は口をつぐむ。
皆、考えていることは一緒だろう。
しかし、誰がその沈黙を破るのかと言葉を紡げないでいた。
一分か二分のことだろう。
しかし、そこにいたミヤにとってはとても長い、永久にも感じられたことだろう。
「………うん。いいけどさあ、僕はそれは君がかつて両親を殺したときのように法から逸脱した行為のように思えるよ。法の下に人々の暮らしを守る事も僕の仕事であるからね。法を破り人間に目は潰れないね。」
「……?」ミヤは、小さく首をかしげる。フィロックも眉根を寄せていた。
「俺は法とかよく分からねぇ。でも、それが正解とは思えねえな。」
「なぜ、違うと思うのかしら?」
「ん?だってよ……」
父さんと母さんは望んでいないだろうから。
じっとミヤを見つめてフィロックは言った。
自分の親を殺した姉をかばい立てするような言葉だった。
「俺は、両親のことなんか憶えてない。これっぽっちもな。でも、何となく手帳の中からの印象では、俺達のこと本気で心配しているように思えたんだ。」
「あ………。」
ミヤの口から小さな声が漏れる。
少し寂しさを孕んだ声、
ミヤの中では弟がかつての幸せな家族生活を憶えていないことがほんの少し惜しかった。
特に、よく三人の姉たちで弟の世話を焼いていたから。
機械になった後も、この子を愛せていれば、この子を抱けてさえいれば、人間で荒れるような気がしたから。
たとえそこが戦場でも。
「………この村では二種類の法律がありますの。一つは、かつての国の一部としてあったときの国の憲法、法律等。もう一つが、外の国が機能しなくなってから、私の父や村長によって作られたもう一つの法律。この二つに乗っ取り刑罰はくだされるべきであるし、罪を犯したならたとえどんな大罪人でも法の下に裁かれるべきですわ。」
「そうだね。私もロクシーちゃんに賛成かな。可愛い子が死ぬのは見たくないし、私刑は自殺であっても罪だと思うよ。」
知識人である二人が言う。
つまるところ、ここにいる四人はミヤの罪を正当な法の下で判断したいわけだ。
両親殺しはいいとして、村への裏切りを画策したことは個人で裁ききれるものではない。
平和で犯罪の起こらないこの村だからこそ、この異例な状況をしっかり処理するべきだと思っているのだ。
「この村に罪人や悪人を取り締まるものはいない。このことは僕や村の代表者、ロクシー嬢でもう少し話し合うとして、ミヤは……フィロック、君が見ていてくれないか?」
「……分かった。ロクシー、館で預かれるか?」
「ええ、仕方がないですわ。もう、害意はないにしても、このような力を持つ者を村民の近くに置くべきではないでしょう。」
じゃあ、決まりだ。と言うラインの一言で全員が立ち上がる。
ミヤも背筋を伸ばして立っていた。
「……私は、どうなるのですか?」
ミヤの声にラインは振り向く。
「すまないが、僕たちだけでは判断は下せない。ミヤは、もう少し待っていてくれ。どうにかしてみせる。」
「……父さん。」
「君の、父親として動けたらどれだけよかっただろう。でも、僕は村長なんだ。ごめんね。」
そっとミヤの頭を撫でるライン。
切なそうな、不甲斐ない自分を辛く思うようなその表情に、ミヤは顔を歪ませた。
「大丈夫です村長。お仕事、あんまり溜めないでくださいね。予算案と各種企画案は机の上にまとめてありますから。」
「君のような秘書がいなくなって僕は大変そうだよ。」
苦しげに笑った。
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こんにちは。まりりあです。
早速ですが、私刑とは、法ではなく個人または集団で行う制裁の事と記憶しています。本文中の使い方があっているのかわかりませんが、間違っていたら目を瞑ってください。そして教えてください。
割と、言葉の使い間違いありますので語彙がある方、国語に強い方、見つけてお知らせください。
それでは、またの機会に。