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38 お届けもの

闇の中、二人の動きは止まっていた。

呼吸をするのも苦しいような緊張感と圧迫感。

見えない迫力があった。

「っ……、流石吸血鬼。」

「吸血鬼が強いんじゃないのぉ、私が強いのよぉ~。ねぇ、血を啜ってもいい?」

ギラギラと輝く目は獲物を捕らえた飢えた獣のそれで

出血量が多く空腹と疲労がたまったロクシーは目の前の肌に食いついて、はしたなくもその血をすすり上げたいという欲と戦っていた。

その目を怖がることもなく、ミヤは睨み返す。

「私の血を吸うのですか?生き物の血ではないのに?」

「吸血鬼は、敗者の血を吸うのよ、早く飲ませてよ。」

「じゃあ、だめですね。」

「あら?」

「私は、まだ負けてません。」

ミヤは、腕に刺さったロクシーの刺した木の枝を引き抜く。

空いた穴からは血が零れ、奥の鉄が見えた。

「往生際が悪いですわぁ~。死にたいの?今なら、送り出してあげたのにぃ」

「結構です。私は、自分で歩けます。」

「ふふっ……あはは!」

「ふっ、これではどちらが人類の敵か分かったものじゃないですね。」

狂ったように笑うロクシーを呆れた顔で見るミヤ。

最早なんのために戦っていたかも忘れてしまうくらい、互いへの憎悪と敵意、相手を傷付ける優越感に溺れ、戦っていた。

こいつにだけは負けない。

そう思う二人は痛みなどもう感じなかった。

ただ、体の動く限り、相手を負かせるために立ち振る舞っていた。


腕をぶらりとぶら下げたミヤは、もう片方の手に腰に差したナイフを引き抜く。

とっ、と地面を蹴ると、音を置いてけぼりにし、ロクシーに飛びかかった。

一瞬で目の前に現れたミヤにロクシーは眉一つ動かさず、三回の連撃を腕で逸らす。

動体視力はロクシーの方がよい。しかし、

「くっ………」

三回目の直後に腕をしならせて繰り出された四撃目がロクシーの頬を擦る。

たとえ吸血鬼とはいえ、長い間動き続ければ疲れる。

当初はすべてを躱し続けていたが、ここにきて躱しきれないミスが目立つようになってきた。

「お疲れですか、ロクシー嬢。お茶でもお入れしましょうか?」

「無駄口を叩いていないで、集中なさったらぁ?」

ロクシーが体勢をを低くし、身構える。

この形は始めに見た勢いよく上に飛び出すものと一緒だ。

つまり、「一歩よけて、飛び上がったところを攻撃すれば、空中にいるロクシーは受けることが出来ない。」はず。

その一瞬でそう判断したミヤは、目の前にナイフの刃を向ける。

その行動に既に地面を蹴り上げていたロクシーはにやりと笑った。

「ざんねぇ~ん。」

「なっ、」

そのまま、飛びあがって来ると思っていたロクシーの体は、勢いをそのままに後ろにそらされる。

そして、ナイフを持ったミヤの腕を下から足で蹴り上げた。

ナイフが勢いよく飛んでいく。

疲れているとはいえ吸血鬼の蹴り、ミヤは、自分の腕の中にある鉄の割れる音が聞こえた。

「あっ………」

小さく呟くことしか出来なかった。

鉄の骨格が折れるか割れるかして脳からの運動神経を傷付けたのか、一気に腕が重たくなる。

鉄の塊を人の魂で動かすのはただでさえきついのに、これではまずい。

そう思ったミヤは次の攻撃を避けるため、咄嗟に後ろへ下がった。

蹴り上げたロクシーも、そのまま何回か周り、少し離れたところに着地する。

「貴方の腕、いや、wormどうしたの?壊れちゃった?幼いこんな小さい子の蹴りで使えなくなるなんて、不良品なのかしらぁ~。」

「ふっ、たしかに、我が憎き両親が作ったこの体は、不良品なのかも知れないです。でも、化け物のみで人と関わる貴方たちにいわれたくありません。」

「……あらぁ、私達も不良品だって言いたいの?」

「さあ?貴方がそう思うならそうなんじゃないですか。」

「まあ、いいですわ。私は人の戯れ言は気にしませんの。」

「それは、どうも。」


互いに悪態をつきあい、今一度飛び出す姿勢を取る。

足に力を籠めて、地面を蹴り上げようとしたとき、ミヤは、すぐ隣からのいやな感覚を覚えて、勢いよく右に飛んだ。

右側の木の陰から、何かが飛び出す。

「…………ふぁ?」

黒い影にしか見えなかったそれは、空中を泳ぐように蛇行すると、ミヤの首めがけて飛んできた。

腕でたたき落とそうとして、両腕があがらないことを思い出す。

仕方なく、羽を羽ばたかすと、もうい一歩後ろに飛んだ。

ざっ、と音がして影の主が地面に落ちる。

「……蛇?」

そこにいたのは、一匹の蛇。しかし、どこかで見覚えが……

「っ!!お姉様?!」

慌てて周りを見渡す。

しかし、思い描いていた姉の姿はない。

では、どうしてここに………


それが一瞬のすきとなっていた。


はっと、して、前に向き直ったころには、鼻のほんの三センチ先にロクシーの拳。

避けられない!

そう思って来たるべき衝撃に備えるため、きつく目を閉じた。


一秒。

二秒。

しかし、何時まで経っても来ない。

恐る恐る目を開けたミヤの前には、寸止めで止められたロクシーの拳と、驚いた顔をするロクシー。

そして、その細い腕を掴むフィロックの姿があった。


「フィ、フィロック。どうしてここに。」

「サヨリ姉さんのお使いだ。」

「はぁ?」

「いいから、拳を引っ込めろ、ロクシー。ミヤ姉さんも、攻撃するなよ。」

ドキンとする。

今こいつは、私のことを姉と呼んだか?

姉だと名乗った覚えはない。

姉だと呼ばれることはないと思っていた。

最後にその存在で荒れたのは、もう随分前の彼と別れた最後の日まで。

両親を殺す前まで。

両親を殺した私は、最早姉でなく、親の敵になったはずなのに。

なのにどうして、そんなにも真っ直ぐな目で、落ち着いた声で。


「ミヤ姉さん。言わなくちゃいけないことがあってきたんだ。」

「な………なんで………なんで、姉って……呼ぶの……」




***

こんにちは。まりりあです。

四月になり、春らしい陽気の日も増えましたねぇ。

新興感染症のせいで、外に出るのもままなりませんが、こうして、春の陽気の中、本を書いたり読んだりするのは、楽しいものです。

つくし食べたい。

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