36 戦いという名の
日の差さない森の中、草の上に赤い血が垂れる。
最早、どちらの血か、相手か自分のかも分からなくなるほど、二人は無我夢中で戦っていた。
二人とも接近戦を得意とし、殴る蹴るひっかくなどの攻撃と、躱す逸らすの防御がすべて正確に、最良の形で行われていた。
相手の攻撃があれば、それを対処し、変わりに一発入れる。
二人とも身軽に互いの攻撃に対する最適な対処をしているため、まるで演武のような美しい戦いですらある。
心得のあるものなら、よく見たい、教えを請いたいとすら思うだろうか?
いや、それはないだろう。
それらに憧れ、見とれるには余りに、二人の垂れ流しの狂気と殺意が多すぎた。
森の木ですら縮み込むような恐怖。
人が見たら発狂するだろうか。
恐ろしい美しさがあった。
「な、なかなか、重たいですわね。」
「ふっ、戦場で戦ってきたのです。命を賭した戦いにおいて、遅れは取りません。」
種族として高位の吸血鬼であるロクシーと相して戦えるものなどこの国には居なかった。
だからか、ロクシーは感じていた。
生まれついて持つ種族としての戦いを好む血が、沸々と湧き上がるのを。
人とともにあるためにいつもは押し殺している力を、誰かに本気でぶつけられることの幸せを。
先の多くのロボットたちとの戦いでも感じなかった、死がすぐ身近にある興奮を。
「貴方こそ、深窓のお嬢様ってわけじゃありませんね。」
「深窓……ではないですわね。とっても活発なお嬢様ですわ。」
「そう………みたいねぇ!」
胸元を蹴ってくるミヤを、腕をクロスさせて弾く。
靴の裏の毒針が肌を裂くのも気にせずに。
「大丈夫?毒針だって分かってますよね?」
「ええ。でもね。私。毒ってあまり効かない方なの。」
「……吸血鬼を殺すには、銀……でしょ?」
「まさか……貴方も水銀塗ったとか言わないわよね?」
「いえ、水銀と銀は別物ですので。」
「分かってたわね。」
「ええ、ですので、ただの植物毒に銀の粉を混ぜました。」
「あら、それはそれは………」
ロクシーは、片方の腕をもう片方の手で、握る。
銀のせいで治りが遅い傷口からは、どろりと血があふれ出した。
「銀のせいで傷口が治らない。なら、血とともに毒を流せばいい。そうは考えなくて?」
ミヤは目を見開いた。
「………、たしかに!」
「人間って馬鹿ですの?それとも貴方たちの家系は、銀と水銀を同視したり、敵に塩を送るようなことをしたりするのが好きなのですの?」
「……フィロックのことを言っているのでしたら、取り消しなさい。私はあいつとの血のつながりなんて認めません。」
「そう、貴方が認めなくても、彼と貴方はたしかに兄弟。いえ、姉弟ですのよ。」
唇をめくりあげて笑うロクシーをミヤはぎろりと睨んだ。
「うるさい!貴方には関係ないことです。」
「そんなこと無いわ。貴方と彼がちのつながった家族なら、私は、お客人の血族を今から始末することになりますもの。」
「自分が勝てるみたいな物言いですね。」
「勝てますわ。貴方みたいに頭に血が上って激高している小娘一匹、私が勝てないとでも?」
「………その余裕。何所まで続きますかね。」
「終わるまで。じゃないかしら。」
ミヤの羽が今一度大きく広がる。
それに対抗するようにロクシーも翼を広げ、状態を低くスピードをつけてその懐へ潜り込んだ。
下を向いて目を見開いたミヤと目線が合う。
一瞬。驚きとともに焦りが見えた。
「遅い。」
「ぐっ………ぅあ」
もろに入った衝撃にミヤが吐血する。
その血を浴びながら、ロクシーは笑った。
「私、吸血鬼ですの。血ってだぁいすきぃ!!ねえ、みやぁ、もっと見せてぇ!」
体勢を立て直したミヤは一歩下がって口元に付いた血を拭った。
その姿を、ロクシーは満面の笑みで見つめる。
「くっ……とうとう本性見せやがったな、この化け物。」
「違うわ、化け物じゃない。私はぁ……守護者ぁ!」
「ふっ、こんな狂った守護者がいるとはね。」
ケラケラとロクシーは笑い、ねっとりと言葉を紡ぐ。
いつも凛々しいその顔が緩やかに歪められる。
「善人ってみんな何処か狂ってるのよぉ?知らなかった?」
「なら私は、大丈夫そうだ。」
「あら、貴方もまた善人じゃない。」
「!!何が、言いたいの?」
「今まで、この村をうちから攻撃するそぶりも見せなかった。このまま、手を出さないのかとも思ったわ。」
「……………。」
ぎろっとロクシーを睨むミヤ。
それを見て、ロクシーはさらに笑みを深める。
「あらあらぁ?そうでしたわねぇ。あのラインとかって男に飼われるだけじゃなくて、リードまでつけられたのかしらぁ?」
「黙れ……、黙れ黙れぇ!!」
「あーあ、愚かなワンチャンほどよく鳴くわぁ。」
これでもかと煽るロクシーにミヤは背中の羽を揺すった。
シャランと音がする。
「これでは、どちらが敵か分からないですね。ロクシー嬢。」
一つ音が鳴るごとに、ミヤの目にははっきりとしたものが戻っていく。
冷静さを取り戻していく。
「冷静な判断と、状況の把握。貴方の手には乗りません。」
「………あはっ、そうこなくっちゃ!ロボットと戦う醍醐味だもの。」
***
こんにちはぁ~。まりりあです。
戦闘シーンって書きづらいのです。なぜなら、生で見たことが無いから。
迫力も、緊張感も感じたことが無いから。
映画、ゲーム、アニメなど、アクション系のもの見とけば良いんでしょうけど、あんまり見ないんですよね。残念。
ちょっと、お勉強しまっせ!
それでは、またの機会に。