34 意外な敵
笑顔で毒を吐いたサヨリのワンピースの首元をロクシーが掴む。机を挟んで向こう側に座っていたので、締め上げることは出来ないだろうが、どうやらロクシーは相当焦っているか、怒っているらしい。
「どういうことか、詳しく教えてくれないかしら。」
「いいですよぉ~?でも、手、離してくださぁい。」
手を離すとわざとらしくけほっと咳をしてから、ロクシーに座るように促す。
顔をしかめたまま、荒々しくロクシーは腰を下ろした。
左手の人差し指で膝頭を叩いている。
焦っているのだろう。心配なのだろう、自分の守る村が。
「私達はぁ、三姉妹。一番上のミサヤ。二番目の私、サヨリ。そして、三番目のミヤ」
「ミヤ………?」
「ええ?知らない?ミヤって子?」
ロクシーは椅子を蹴って立ち上がった。
俺の脳裏にも1人の女が浮かび上がる。
村長の右腕にして血のつながらない娘。
仕事が出来るクールな人だが、裏の顔が恐ろしい人。
「っ!!あの女か!」
「お?分かったのね。あの子多分反対するわょ~。だってあの子人間嫌いだもの。」
「っ、フィロック、あなたはここにいなさい。」
「ロクシー?」
「私の仕事は、村の加護。それだけはさせない!」
「うんうん。いってらっしゃ~い。この子は任せといて。」
ばっと翼を広げると、勢い足を蹴り上げ、低空で飛行する。
風を纏って凄い勢いで入り口に向かって飛んでいった。
「行ったねぇ。さて、どこから聞きたい?」
「………はじまりの三姉妹について、もっと詳しく教えてくれ。」
「お?そこに興味あるの?まあ、時間あるし良いよぉ~。」
えっとねぇ……と話し始める。
この声を俺はどこかで聞いた気がした。
「私達はじまりの三姉妹は、博士たちが作り出した特別個体のロボットになります。その特徴として、他の個体への干渉が可能。また、特別仕様なので、こうして会話が可能になります。というより、個人の感情、個性があります。」
「ロボットなのに?」
「私達はロボットです。しかし、元は人間だった。博士夫婦の間から生まれた三姉妹。それが私達で~す。」
「……………は?」
博士たちの間から生まれた元人間?
ということは、
ここが俺の家で間違いなく。両親がサヨリのいう博士夫婦なら。
「ちょっと待て、ということは、お前等たち三人は俺のお姉ちゃんなのか?」
「はい。こんにちは、末の弟。げんきぃ?」
「……………。」
なんと言ってらいいか分からなかったが、やあ姉さん!と言うようなことではないと分かっていた。
「妹は、ミヤは元々人間だった私達を自分たちの研究のために無理矢理機械に仕立て上げた父と母を恨んでいましたぁ、そこで父と母を殺させると、人に紛れて生活し始めたのです。貴方を殺そうとしたロボットはいなかったぁ?貴方は博士たちの子供ですから、私達同様殺されないはずないのに。ですが、ミヤは博士たちを殺したときと同様にロボットの回線にバグを与え、貴方を消そうとするのよぉ。」
「昔……一回、殺されかけてた。ロクシーに守ってもらったけが。」
「そう。」
「そのミヤの行動を君たちは止めなかったのか?」
「……………。出来なくは無かったたと思う、でもし無かったわ。」
「なぜ?」
「さあ、私も姉さんも、どこか両親のことを憎んでいたからでしょうか。しかし、両親は死んでしまったから、もうこれ以上ロボットを動かし続ける意味も無くなっちゃったぁ。私は、貴方までもを殺そうとしたミヤを正しいとは思わないから。」
そっと手を伸ばされて、頬を撫でられる。
さらりとした張りのある手がこそばゆくて、ふっと笑ってしまう。
初対面の人から触られているのに不思議と安心感があった。
「一人にして、ごめんねぇ。小さい貴方のことも考えてあげられなくてえ。」
「ね、姉さん?」
「そうですょ。えへへ、そう言われると照れますねぇ。」
このひとも、他の姉さんたちも、きっと普通の家に生まれていたら普通の暮らしが出来ていたはずだ。
ロクシーだって人間ならきっとそうだっただろう。
俺は、自分もそうであると思ってる。
そして、そうであって欲しかったと思うし、自分以外の誰も、自分と同じ思いをして欲しいとは思わない。
だから、俺は。
両親がまいた種を俺が処分する。
出来ることは少ないけど。
「なあ、姉さん。俺に出来ることはあるのか?」
「……そうねえ……。じゃあ、行きましょうか。」
立ち上がった姉さんの後に俺は無言で付いていった。
「っ………」
「お父さん。泣かないでください。私も悲しくなってしまいます。」
頬に流れた冷たい涙を感じた。
駄目だわ。笑ってしまう。
どうしてこんなにも気分が良いのかしら。あんなにも好きだった両親を殺すことが。
「お母さん……ねぇ。もう息をしてないのですか?」
「ミヤ……どうしちゃったの?」
「あれ、まだ生きてましたか。反応してください。」
「うっ………」
頭から血を流して唸る母の腹に蹴りを入れる。
一、二本肋骨が折れたか。
下手したら折れた肋骨が肺に刺さっているかも知れない。
「痛い……?ごめんねお母さん。でも、これも愛なんです。二人が私達をこんな体にしたときと同じ、私は愛してるから殺してるのです。…………分かって、くれますか?」
いけないわ。両親が血を流しているというのに、笑ってしまう。
二人は私の顔を見て絶望したような目をした。
「………俺達は……間違っていたのか?」
「だとしたら………どこから?」
「いいえ。間違ってなどいないです。お父さんお母さん。これで正解なのです。あなた方は何一つ間違えてはいなかった。誇って逝ってください。」
終わりにしてあげよう。
人類史上最も素晴らしい功績を挙げた二人の昇天だ。
せめて綺麗に。最後は感謝の言葉で。
「ありがとうございました。あちらへ行かれても、どうか心安らかに。」
少女のナイフが首を撫で、二人の息をそっと止めた。
***
こんにちは、まりりあです。
全然関係ない話なんですが、今までやったことの無い育成型のゲームを友達の誘いで始めました。そしたら面白いのなんの。
始めて一日でどはまりです。
これはいけない。危険だと、切り上げてこれを書いています。
はまると手放せなくなる質なので駄目ですね。
一日一本執筆。頑張っていきます。
次回から、だいたい、朝の八時頃に更新することにするので、今後とも末永くよろしくお願いします。 かしこ