番外編 図書館のお掃除大作戦 後編
「ったあ!」
「いつ……、腰を打ちましたわ。」
「なんとか受け身を。」
落ちたような逆に昇ったような、不思議な感覚の中、暗い場所で硬いものに叩き付けられた。
三者三様に患部を擦りながら声からいるらしいともに落ちて?来たものの存在にほっとする。
とにかく、連携してどうにかここがどこかを突き止める必要がありそうだ。
「おい、ロクシー。何か見えないか?」
「……無理ですわね。私の目は少量の光源で見えるはずですけど、ここは完全に真っ暗ですわ。」
「ひ、ひかり?たしかマッチを持っていたような。」
『マッチはいらないわ。お嬢さん。』
後ろからした声に三人は勢いよく振り返る。
ボウ………と光が灯る。
そこにいた人物を見て、フィロックは固まった……
「え……いや……まさか……」
「うぁ………やだ、やだやだ……」
近くからミヤの声も聞こえる。
「くっ………きさまぁ!!!」
ロクシーの叫び声もしたが、そちらさえ見れなかった。
だって、
めのまえにいるのは、
「かあ……さん?」
いや、おかしい。
だって母さんはロボットで、
ロクシーの館の地下に眠ってて、
おきることはないって……
『フィロック………おはよう……私、おきてきたのよ……』
耳元で声が聞こえる。
コツ、コツ、と靴の音が響く。
一歩ずつ近付いてくる。
止めてくれ。来ないでくれ。その口を開かないでくれ。
何か決定的な言葉を聞かされる気がするから。
『私……貴方を食べたくて仕方なかったから……』
ぞわっと背中が粟立った。
隣からミヤの甲高い叫び声が聞こえる。
母の口元から垂れるのは血ではない
唾液だ。
食べ物を前にした動物のように溢れ出るよだれを舐め取りながら一歩一歩近付いてくる。
食われる!
そう思って目を閉じた。
一瞬の後。
目蓋に光を感じてそっと目を開けた。
もうそこに母さんはいなかった。
変わりに肩で息をするロクシーが翼をいっぱいに広げた姿でたっていた。
戦闘態勢だ。
大きく広げた翼で威嚇するロクシーの戦い方だ。
やったのか?
そう思ったが、ロクシーの前に座る人の影を捉えて身を固くする。
「ふ、あははは、凄い凄い!凄いわぁ~。こうして本にいて貴方たちみたいにあっという間に出られちゃうのは久しぶりによ!」
少女が、笑ってた。
銀髪の可愛らしい少女だった。
金髪のロクシーと正反対。
銀の髪、緑の瞳、そして車椅子。
背が小さいことくらいしか同じところはない。
「なんのつもりかしら。」
「……?私は何もしていないわぁ。貴方たちが夢を見ただけ?どう?誰が見えた?なんて言ってた?それは貴方たちの心の一番奥にいる一番嫌な記憶の一番嫌な人物。そう……所謂トラウマって奴。」
「そんなもの、見せてどういたしますの?」
「どうもしないわぁ。別に他人の怖がる顔なんて好きじゃないもの。でもぉ、怖がってくれている間中、一緒にいてくれるわ。叫び声を上げて逃げ惑って、私一人の部屋に友達が出来る。いいことねぇ!」
「そう……では、無事トラウマを消し去った私達は、帰ってもよろしくて?」
「うん。いいよぉ。でも、もう少し遊んで欲しかったなぁ。マツリやミツキのように。」
つまんなーいというように話す少女の口から、聞き知った名前が飛び出て驚く。
「ミツキをしっているのか?」
「うん!ミツキお姉ちゃんはね。とっても強かったよ。マツリは変な奴だったトラウマに向かってそって抱きついたのは彼女くらいね。」
えへへ~と笑う少女。
手に持った杖を一つ床に叩き付けると、パキンッと音がして周りの世界が壊れていく。
白い世界が壊れていく。
「マツリとミツキとの約束だから貴方たちを帰してあげる。二人によろしくね。たまには、遊びに来てって言っておいてねぇ!」
少女の声を最後に俺達はまた意識を失っていた。
「おーい、おきろぉ~。」
頭の上から声がして、ゆっくりと目を開ける。
覗き込むミツキを見て目をなんどかしばたかせた。
「おはよう……」
「一番寝ぼすけだよ。」
「おう…。」
周りを見ると、不機嫌そうなロクシーと頭を抱えたミヤ。
具合の悪そうなミヤをよしよしと撫でてあげながら、ミツキは声をかけてきた。
「どうだった?本の中は?」
「あれは………なんだったんだ?」
「さて?なんなんだろうか?それは私には分からないし、きっと先代にも分からない。ただいつの間にかあの本があって、彼女はあの中にいた。それだけだね。」
「ねえ、あれは人間なの?あんな力、トラウマを見せるなんて。妖怪の一種じゃ。」
「いや、あの子はたしかに人間だよ。妖怪だったら本から出て、こちらの世界でも力を使うはずだ。でも、彼女は本から出られない。彼女が死んだ時に自分を本にくくりつけたから。」
「どういうことか、説明してもらえる?」
「え……まあ、いいけどさ。」
ミツキはミヤを撫でるのを止め、いつも座っている位置に腰を下ろす。
「まあ、単純な話、彼女は自分自身が本になった珍しいパターンだ。本というものはな、人間しか持たないんだぁ。そりゃあ、吸血鬼や鬼、神、後エルフとかっていう高度の妖怪は持つけど、野良妖怪や獣たちは持たない。高度な妖怪なら本の中に閉じこもることなどしたい。それに力も感じないから、先代も私もあれは人間だと仮定した。」
「それだけですの?」
「うん。まあ、最後には皆ちゃんと戻ってこれるし、いつもはああやって隠してあるし、いいっかなぁって。」
「何と雑なのかしら。」
「まあ、一つ言えることは、先代も私も、本にこもってしまいたくなる感覚は何となく理解が出来たからねぇ。本の中なら何でもできるって思って入ったはいいけど、今度は孤独で人を捕まえてはトラウマを見せつけるだけの害にすらなってしまった。そんな可愛そうな子を退治するなんて、出来なかったんだよね。村長からこの仕事を引き取ったとき、粗方中は整理したけど、先代のもので残っているのはそう言う曰く付きのものばかりだよ。」
「…………ふん。まあいいですわ。少々不快でしたが、すっきりしました。」
ばたりと翼を一つはためかせると、ロクシーはミヤを抱き上げた。
「こいつは無理そうだから村長のところに預けてきますわ。フィロック先に帰っててくださいな。」
「ああ、って、もうこんな時間。本は………ってあれ?」
慌てて当たりを見渡すと、本が本棚に収まり、背の高さや表紙の色に分けられ整頓されている。
「本なら戻しといたから。ありがとうね、掃除してくれて。」
「………ちゃんと出来るなら……端っから散らかすなぁ!」
「うええ!?なんで怒るの?」
「当たり前だ、このばかぁ!」
フィロックの怒る声とミツキの謝罪の叫びがこだまする店内に小さな女の子の笑い声がうっすら聞こえた気がした。
***
まりりあです。
うっすら不思議で面白いお話になったでしょうか?
じつは、二、三本小説を同時進行で書いているため、キャラの性格、しゃべり方などがあやふやになりがちなんですよね。
気をつけたいです。
ミヤの見たトラウマはそして、ロクシーの見たトラウマはなんだったのでしょうか。
考えてみてはどうでしょう。
ここら辺は本編につながるかも知れないですね。
まあ、こうした寄り道も時々していこうかと思っています。
では、また次の機会に。