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29  月の夜

ほこりっぽい店に、こっそりと明かりが灯っていた。

夜中でも明かりが付いていることは珍しくないが、今晩はいつもと違う部分があった。

中から、声が聞こえる。

夜中だというのに、凄くうるさい声が。

「……うるさいんだよ!!って……どぅええええ!!!」

余りの五月蠅さに怒りにきた隣の家のミクモさんは中にいた人を見て驚き戸惑っていた。

「そ、村長さまぁ?」

「ん?にゃぁ?これはこれはミクモさん。一緒に飲みますか?」

ほろ酔いの村長、ラインは火照った微笑みを浮かべた。

うっ、とつまる。

なんだってこの人は。

男のくせに色っぽい。

「父さん。酔いすぎです。すみませんミクモさん賑やかにしてしまって。明日も日勤でしたよね。お早くおやすみになってください。」

「え、あ、はい。失礼します。」

村長の義理の娘にして、おそらく村一番の働き者ミヤさんに言われ、仕方なく帰って行く。

まあ、かのじょがいればだいじょうぶだろう。


「この馬鹿!!」

「いっ!!」

勢いよく頭を叩かれたことによって前歯をコップにぶつける。

「痛い。前歯がぁ、僕の前歯がぁ……この村一の前歯がぁ………」

「貴方の前歯などどうでもいいのです。貴方の仕事は村民の生活を守ること。それなのに村民の安眠を邪魔してどういうつもりですか。死んでください。」

「酷い!それにしても、村民の安眠ってww」

「…………、もしもし、ええ。私です。明日から村長はやる気を出すので仕事の量を倍にしてくれとのことです。はい。夜分遅くに………」

「え~!!ちょっと待って、やだ!働きたくないでござる!!」

「うるさいです電話中ですよ。」

「うわ~ん!フィロックミヤがいじめる。」

コップに入った液体を一気に煽ると、フィロックは大きくため息をついた。

「そりゃあんたが悪いわ。頑張って仕事しろよ。」

「え?え、どうしたのフィロック。なんで怒ってるのねえねえ!!」

フィロックの襟元を掴んで前後にガクガクと振り出す村長。

いや、これはほんとに村長なのか。

この村で一番エラいお方なのか?

果てには飛んできた本が頭にクリーンヒットし、ぐらりとその場に倒れ、眠りについた。

本を投げた張本人、ここの主人であるミツキは舌打ちをした。

「あー、うっさいよこのおっさん。誰だよ連れてきたのは。」

「すみませんうちの父が。」

「んー、ミヤちゃんのせいじゃない。ところでミヤちゃん……」

赤い顔でひゃくりをしながらミツキはミヤの腕を引っ張る。

いきなり引っ張られてバランスを崩すミヤをミツキはそのまま抱き留めた。

「み、ミツキさん?」

「ミヤちゃ~ん。その顔良~く見せてよぉ」

「ふ、フィロック、この子、どうしたの。」

「あ?酔ったんだろ、そうしとけよ。」

「はぁ?なんか性格違うじゃない。」

ミツキに頭を撫でられながらミヤはフィロックに助けを求める。

フィロックは、特に気にする様子もなく、ただ、見ていた。

「ね、ねえ、何で助けてくれないの?」

「……………。俺は、別に関係ないから?」

「あんた、そう言うとこ……」

「ミヤァ~。可愛いねぇ。うちの子にならない?」

「なりません。離してください。」

「いぃやぁ!ずっとぎゅ~ってするの!」

「う、それは……困ります。」

「えへへ~。」

いや、なかなかの。

酔いが回ってきたのか、フィロックは本棚にもたれかかって目を閉じた。

ミヤの悲鳴が聞こえる気がするが、まあ、いいだろう。

なんだか、こうして酒に酔ったほわほわの状態度寝るのも久しぶりだ。

穏やかな気持ちのまま、遂に意識を手放した。


さて、何が起こっているのかというと、話は少し前に遡る。

その日のお昼頃、1人の男が役所の村長室の窓をたたき割って侵入した。


「うぃ~す!おっさんいる?」

「やぁ、フィロック。久しぶり。あと、おっさんじゃなくてラインだよ!」

「村長、何暢気なこと行ってるんですか、侵入者ですよ。」

「え~。こいつはいいよ。治らないし。」

偶々そこにいたミヤに、耳を引っ張られながら、フィロックはラインに話し掛ける。

「ライン。折り入って話があるから、今夜図書館に来れるか?」

「え~。いいけどぉ、ミヤも一緒でいい?」

「え?なぜ私も?貴方1人で行ってくださいよ。」

あからさまに嫌そうな顔をする。

フィロックはチラと見ると、「へぇ、あんた、ミヤって言うんだ。」とだけ行った。

ミヤがイラッとしたのは言うまでもない。

耳を引っ張るその手に力を籠めた。

フィロックは痛くもかゆくもないと言った顔だが、

「分かった。じゃ、今夜な。」

「うん。必ず行くよ。」

それだけ言うと、フィロックはミヤの手を振り払い、また窓から出て行った。

「なっ!」

すぐさまミヤは窓に駆け寄るが、もう、フィロックの姿はなかった。

「彼はねぇ、風みたいな男だよねえ。」

「はあ?」

「誰にも捕まえられやしないんだし、自分の意思でしか動かない。」

「…………、そんな彼と仲いいんですから、窓はこのままでいいですね?」

「え?何で?」

「風と仲良しなんでしょ。良かったですね。いつでも会えますよ。さぁ、仕事してください。」

「ちょ、ミヤ。せめて板とか張ってよ。」

「お前がやれよ、馬鹿親父。」

「僕村長だよ!?」



***

こんにちは。土曜日なので惰眠を貪り、こんな時間になったまりりあです。

同じ時間に毎日投稿とかできる人、凄いですね。

あと、第何話か忘れましたけど、『1人1人(後編)』のとき、ラインのこと、町長って書いてました。

正しくは村長です。

訂正しておきます。

それでは、またの機会に。

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