28 昔(後編)
「あう……アバァ!!」
「ひっ……、どうしたの赤ちゃん!」
「あらら、怖がらないで、大丈夫。元気いいのようちの子。」
「へぇ……」
急にバタバタとし始めた赤ちゃんを慌ててお母さんの元に返すと、ロクシーはドレスと裾をぎゅっと掴んだ。
「あ、あの、あのね。また、抱っこさせてね。」
「……ふふっ、いつでもどうぞ。」
ねぇ、と、話し掛けると赤ちゃんはにへらと笑う。
人懐っこい赤ん坊だ。
「ロクシー、そろそろ行くぞ。支店の状況調査という今日の目的がまだ果たされていない。」
「むう……そうですわ。それでは、ごきげんよう。」
ぺこりと頭を下げて父親に手を引かれていく少女を三人は見送った。
「ロクシーちゃんは変わらないな。」
「あれでも私達より随分と年上なのよ。」
凄いなぁ、と笑う二人の耳に甲高い悲鳴が聞こえたのはその時である。
晴天をつんざく雷鳴のような声。
それに反射するように多くの人が声の方を振り向く。
そして誰もが絶句する。
食べられているのである。
人が。
ついさっきまで自分たちと同じように話して生きていた人間が肉塊になって転がっている。
それに群がる人影。
角張った骨格と日光に反射する銀のフレーム。
此度の戦争の勝利の立役者。
そして私達の可愛い子供。
「………!!」
赤ちゃんが、袖を引くのも気にせず、その光景に見入られていた。
これは何かの冗談か、将又たちの悪い夢か。
一人、また一人と人が殺されていく。
私達の作ったロボットは、人殺しの機械だった。
分かっていた。
今は、味方が殺されているだけ、
もっとずっと前から、この機械は人殺しの機械だった。
私達の知らないところで知らない幾星霜の人を殺していた。
ただ、みないふりをしていただけで、
「い………やぁ………」
母が腰を抜かしたようで立てないでいる。
父も、目の前のことに目を奪われている。
一体のロボットが此方に気付いたように近付いてくる。
「………ピー、ピー、確認。個体ナンバー……ろ……てな……創造主様方の存在を確認……全ナンバーに告ぐ、確認。」
「……内部コミュニティ……、そうか……つながっているのか。」
此奴らの言い方からして、俺達を殺すことはないだろう。
創造主。
そう言っていた。
父は青ざめた顔で立ち上がる。
赤ちゃんを抱く妻の手を力強く取った。
「行くぞ!」
「は……え……?」
何所に。
どうやって。
なんて考えてもいなかっただろう。
彼はロボットよりも、まだ多くいる人間がこの瞬間自分たちの敵となったと分かったから。
こんな殺戮兵器を作った殺人鬼として告発されても可笑しくない。
敵を殺す機械を作っているときは喜び褒め称えておいて、その刃が自分たちに剥いた途端罪人扱いとはなんとも自分勝手だが、それが人間だった。
エゴの塊。
それでいいじゃ無いか。
皆自分が一番可愛いのだ。
だが、彼にとって今一番愛おしいものは、ともに研究をしていたパートナーでもある妻と、彼女との間に生まれた幼い息子だった。
「吸血鬼伯爵殿が住まう村の近くに森がある。そこにミサヤが住んでいる。彼女に助けてもらおう。」
「……!!で、でも。」
「大丈夫。彼女は人には殺せない。」
「……そ、そうね。」
この時赤ちゃんはぐっすりと寝ていた。
周りの大きな音にも反応せず、眠りこけていた。
それが、三人がこの町から逃げ出すのに何より都合が良かったことは言うまでもない。
「……はぁ。」
爪弾いたカップがコツンと鳴る。
うるさい。
うるさい。
うるさい。
「テツゥ~。町で誰かが暴れてるよぉ。うるさくて耳が死にそう。」
「シューーシュー」
「耐えろって?もう、君という奴はぁ。」
小さな相棒の頭をくりくりと撫でると、嬉しそうに金の目を細めた。
可愛いなぁ。
体、冷たいけど。
よぉ~しよしよし、と、撫で繰り回していると、ピクリと震えて、ばっとドアの方を見る。
家の中の蛇たちも一様にそうしていた。
「……うん?誰かきたのぉ?」
「…………。」
甘えたように鳴きもしたい。
じっと見ている。
これは…。
「面倒なお客さんかな。」
ことりと椅子から立ち上がると、手を叩く。
「ほら、おしごとだよぉ。血が沸くねぇ。」
「……しゅ、」
「違うって?もう、折角戦えると思ったのにぃ。」
ざんね~ん。と言った彼女は、扉を開く。そして漂う香りをかいだ。
「………!!」
目を見開く。
この感時知ってる。
これは、
「……パパ……マァマ…」
走り出していた。
蛇が後ろから着いてくる。
テツは遅いが他の子達が先導と道標を請け負ってくれた。
だから、迷うことはなかった。
血だらけで倒れ込む二人。
互いを抱きながら息を引き取っていた。
私はそれを見て。
ただ茫然としていた。
***
はい。こんにちは。まりりあです。
皆さんはご存じか分からないですが、シティハンターの番外編?みたいな奴でエンジェルハートというのがあるのですが、そこでママ、パパ、と呼んでいるのが可愛くて、パパ、ママ呼びにしました。
自分はお父さんお母さんだったのでね。
それでは、誤字脱字ありましたらお教えください。
またの機会に~。