26 蛇屋敷
あちこちから視線を感じるのは、きっと気のせいでない。
壁に設置された棚から金の双眼が覗く。
気持ち悪い。
ロクシーに至っては、ガクガクと震え、今にも気を失いそうだ。
「……ようこそ我が家へぇ。」
「シュー……」
目の前に座り見てくる四つの目。
金の縦長の瞳孔が薄暗い部屋の中で光る。
「さ、飲んでぇ」
「い、いただきます。」
「ええ、いただきますわ。」
差し出されたカップの取っ手も蛇の形にかたどられ、中の液体は青色に輝いていた。
……。
もう一度言おう。
青色に 輝いていた。
「お、おい、ロクシー、お前これ……」
「だ、大丈夫だと思いますわ…。多分。」
あまりにも余りで、こそこそとロクシーと話す。
大丈夫だと主張するロクシーもがたがたとふるえていて信用できない。
とりあえず、口をつける前に女の動向を確認する。
女も同じようにカップを持ち、その青色の液体を口に流し込んだ。
よし。
飲もう。
カップに口をつけると、ままよと飲んだ。
……なんか、ジュレ状…?
でも、
「あ、あれ、美味しい?」
「あら、良かった。お口に合ったようねぇ。それ、うちで育ててるモノなの。」
「モノ?」
「………。」
なんか言ってくれ。
頼むから。
今飲み込んだモノを一気に吐き出したくなった。
しかし、気持ちと体は時に一致しないもので、考えただけで叶いはしなかった。
きっとあれだ、茶葉だ。
凄く良い茶葉だ。
体に良くて、香りが良くて。うん。きっとそうだ。そんな気がする。
ロクシーは隣でカタリとカップを置く。
一呼吸置いて、言って欲しくないことを言い出した。
「ねえ。まだ蛇の死体から生えたキノコ使ってるの。」
「ええ。美味しいでしょ。」
一瞬前に考えることを止めた秘密の答えを最悪な方向で暴露されるとはおもわなんだ。
記憶を削除する方法があるなら、是非していただきたい。
なんてモノのませてるんだ、と、殴りかかりそうになった拳を、机の下で固く結んだ。
そんなことしたら、明日からは俺の死体に生えてキノコのお茶でティータイムが過ごされることになる。
それだけはなんとか阻止したい。
「さて、私はねぇ、ミサヤって言うの。ここでこのテツと、家を守ってくれてるマキ。それから沢山の蛇たちと暮らしてるわぁ。」
「……へぇ。俺はフィロックだ。」
「知ってるわぁ」
ミサヤがティーカップを爪弾く。
その音に反応したように上から何か落ちてきた。
肩の上に重たい塊が掛かる。
何となく何が落ちてきたのか理解できた。
見たくない。
目を真っ直ぐ前に向けたまま、見ないようにした。
「その子。ツテとマキの子供のカコよ。貴方にあげるわぁ。」
「………大変嬉しいですがご遠慮願いたい。」
「だぁめ。カコは貴方のこと気に入っちゃったみたいだから。」
それに、と、ミサヤは悲しそうな顔で笑う。
「その子は貴方の両親に可愛がられたから、貴方のことお兄ちゃんだと思ってるのかもね。」
「…………。そうか。」
「詳しく聞かないのね。両親のこと。」
「別に。話さないなら話さなくて良い。興味はあるが、俺に必要ないから話さないんだろ。」
「そうね。でも、知っておくべきね。貴方に必要か必要出ないかでは無く。」
「……話してくれるのか。」
「私が知ってることならね。」
俺の首元の蛇から距離をとったロクシーが震える声でミサヤを笑う。
「貴方、だいたいのことは知ってるでしょうに。人の身で守の魔女になったのは貴方が初めてですわよ。」
「私はもう人間じゃないのかもね。」
「違いないですわ。」
よく分からないが、とにかく凄い人みたいだ。
ミサヤはふぅ、とため息をつくと、こちらをチラと見て話し出した。
「彼等が初めてここに来たのは今から十五、六年前で、その時貴方とすでに離れた後だった。森の外れ、外の世界とこちらの世界をつなぐ入り口。そこに彼らはいた。」
***
はい。こんにちは。まりりあです。
回想シーン入りそうなので、短いですが切ります。
言い訳をば、最近ですね。夜更かし癖が着いたのか、朝がほんとに起きられない。
まあ、五時まで起きてた私が悪いんですが、
そんなことはどうでも良い!
毎日投稿していけるよう精進いたします。
皆様も、出きればお付き合いお願いします。
それでは、またの機会に。