24 俺の知らないこと
「お前………今……」
「だから、知ってますの。貴方の両親が誰なのか。」
「!!」
俺は俺の知らないところで人生の大部分が操られていると思っていた。
何と無情な世界だろうと。
自分には身に余る困難ばかり突きつけてくる。
でもまさか、ここまで俺の知らないところで俺の人生に関わったものがいるとは思わなかった。
作り込まれた物語の一部のように難しく絡み合い交差する俺とロクシーの人生。
偶然か将又必然か。今の俺は判断しかねていた。
「誰……何だよ…」
「………知らないと思いますわよ。貴方は。そして後悔するかも。」
「……!でも、それでも知りたい。」
すっ、と椅子を引いてロクシーは立ち上がる。
いつも礼儀正しいロクシーにしては珍しく紅茶を立って一気飲みした。
「行きましょう。会いたいのでしょ。」
「お、おう。」
急いで立ち上がる。
ここ最近一緒に過ごして分かったことがある。
こいつは優しい奴だが、それをけして表には見せない。
人を待つような人じゃない。
人を引き連れて歩く吸血鬼だった。
「いやああああ!!!!」
薄暗い森の中に吸血鬼の悲鳴が響く。
骨が折れそうなほどきつくだきつかれた腕を気にしながら、俺はため息をついた。
「痛いんだが。何びびってるんだよ。吸血鬼さまが。」
「怖い!怖いものは怖いの!もう無理帰る!」
なんだこの生き物は。
いつもより青白くて、疲れた顔でどこから湧き出るのか大声で叫びながらギリギリと人の腕を絞り上げている。
「痛い痛い!」
「ひやぁあああ!!こっち来ないでょ!!」
ロクシーはそう言うと目の前のそいつに向かって手を振り回す。
勿論何の威嚇にもならないが。
地をはい進むそいつはロクシーの足下まで来ると、くるくるととぐろを巻いた。
「ほらもうそれ止めてくださいませ!怖いから怖いからぁ!!」
「ただの蛇だろ、何怖がってるんだよ。」
「聞こえるのです。此奴らの声。気持ち悪い!!いらないから、お腹空いてないから!!」
ほんとに蛇の声が聞こえているのか、蛇が口にくわえて差し出したネズミの死骸に思い切り首を振っている。
お嬢様言葉も剥がれ心の底から怯えている。
機械の敵相手にあれだけ狂ったように戦いながら、自分より小さい生き物相手にここまでびびれるとは……
「あ!今失礼なこと考えたでしょ!I can't take it anymore!!」
「な?なんて?」
「もう帰る!!家帰る!蛇嫌い!!」
「ちょっと待て、俺の両親に会わせてくれるんだろ。」
「もう止めよ。帰ろ。」
「駄目だ。ここまで来たら、連れて行け。」
「ひえ!!いじめる!!こう言うのあれでしょ。プレッシャー!」
「違う。」
こっそり後ずさり始めるロクシーを蛇のキラキラとした瞳が見つめる。
片や死んだような目、片やキラキラとしたおめめ。
なんだこれ。
何見せられてるんだ。
少しーしずつ下がると同時に腕も少しずつうしろにひっぱられていく。
苦笑いで妥協した。
「………うふふ……ロクシーちゃん。来てくれて嬉しい………匂いかいでも良い?」
「フぎゃゃゃ!!!…………。」
後ろに下がりつづけたロクシーの肩を誰かがそっと掴んだ。
急に出てきて驚いたのか、耳元で囁かれた言葉に驚いたのか。
今にも気絶しそうという涙目で口をパクパクさせていた。
これでも意識があるのは、戦闘種族、吸血鬼故か。
「あらあら、そんなに感じてくれて………私嬉しい……」
「あ……あ………止めて……その舌見せないで………」
後ろから来た女性がチラリと出した舌は真ん中で二つに分かれていた。
たしか……スプリットタンとか……?
村の怖いおじさんが言っていた。
「ええ……私の天然物良いでしょ………可愛いでしょ。可愛いこの子達と一緒なの……」
「シューーー」
「う、う……………ん…、」
彼女の首から掛かっていた蛇が細い舌を振るわせなく。
あまりの恐怖によってついにロクシーは反応が弱くなってきている。
「あは♪ロクシーちゃん可愛い……巣の中に連れてっちゃ駄目?テツ。」
「シュー…」
「あ…………………、」
茶色いフードの下から可愛らしい笑みが見える。
此方からは見えない顔がロクシーからは見えているのか、絶望と恐怖で顔が引きつっていた。
「あの………」
「ん?……男?ロクシーちゃんの彼氏?」
「あ、いや、そういうことじゃ……」
じろりと見られた。
フードの下でも分かるぎょロとした金の目に汗が噴き出した。
なるほど怖い。
「両親に……会いに来たんだ。」
「ふーーん。君。名前は?」
「フィロック。」
「あっそ。………うん。付いてきなよ。」
頷くと女はモソモソと歩き出す。
嫌だというように立ち止まっていたロクシーも後ろから蛇にどつかれたら渋々歩き出した。
しかし、さっきからこうしてチラチラと見てくる蛇たちは何なのか。
先頭を進む彼女は誰なのか。
そんな疑問は尽きないまま、進むほど暗くジメジメとしていく森をあるきだした。
***
こんにちは。まりりあです。
寝ていたら、肩が痛い!なんてことありませんか?
自分はよくそうなるので、日々、恐る恐る枕と頭の当たる位置を調節しながら寝ています。
良い睡眠は良い枕から!
そして、良い文章は皆さんの誤字脱字察知能力から!
見つけた!と言う方、ぜひぜひ教えてくださいね。
それでは、またの機会に。