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22  今できることを探して

う~ん、と唸った。

「ぐっ、ゲホッ、ゲホゲホ、」

「まぁ~た咽せてる。アレルギーッぽいんだから止めなよここくるの。」

「うるせえ。俺は大丈夫だよ。」

「はいはい。」

呆れたように肩をすくめながらミツキはお茶を置いていく。

ハーブの香り高いお茶はここのうちの母親が好きなものだ。

母さんからだよ。と積まれた本の上にケーキが置かれる。感謝しかない。そう思った。

身寄りのない俺にここまで世話を焼いてくれるのはここの人達くらいだ。

昨日ロクシーから聞いた話で俺の両親だと思っていた人々は本当はそうでは無く、ただ、俺を食べようと、主に献上しようとかっていたに過ぎないことが知れた。

俺は、両親を殺されたあの日までただの家畜だったのだ。

そしてあの日。

ロクシーによって飼い主を殺され、ここの人たちに助けられた日から、俺は、人間として扱われるようになった。

それに気付かず、俺はロクシーを憎み続けてきたわけだ。

「あぅ~!!!」

思わず頭を抱える。

恩知らずも甚だしいじゃないか。

助けてもらった。いや、あの夜俺は食われるはずだったのだから、命の恩人とさえ言える人を、吸血鬼を殺そうとしていたなんて!

「うるさい~。図書室内おしゃべり禁止。突然来て営業妨害っすかにいさん。」

「すまん。吸血鬼の館の本持ってきてやったからいいだろ。」

「たしかにね。」

俺が持ってきた本のページをペラペラとめくる。

保存状態はあんな状態で開かれていたにしては悪くなく(ロクシーの言う魔術的な何かによって)内容も聞いたことがないようなことが多い。

新しい物好きのミツキはふむふむと読み込んでいた。

「どうだ?俺のお代として見合うか?」

「十分だよ。貴重な本なのかなぁ、この村では見たこと無い。でもさ、これ……」

嫌そうに顔をしかめるとわざとらしく鼻をつまんだ。

「すっごいニンニク臭い。」

「ああ、すまない、俺のせいなんだ。」

「ふぅーん。本を傷付けるとはいい度胸ね。」

においなんて気にしないと思っていたが、じとーとこっちを睨んでくる。

ロクシーのはつらつとした睨みではなく、じっとり嬲るような睨み。

俺は、こっちの方が怖いと思う。

周りに積まれた本の山を見る。

これでもちゃんと湿度や日光の管理されて部屋になっているし、本によっては直された形跡がある。

ほんとに貴重なモノはしっかりと保管するなど、先にも話したとおりこいつは本のことだけは真面目で、きめ細やかな仕事をする。

俺もそれで助けられたのだから。

「そんなことより、この前の本、助かった。ありがとな。」

素直に感謝するとぱちくりと目をしばたかせる。

「あれ、気付いたの?」

「表紙裏だろ。」

「うん。」

「ラインから聞いた。でもさぁ……。」

俺は、立ち上がるとミツキの頭をボールよろしく掴んで左右に振った。

うわっ、おお~。と、ミツキが声を上げる。

「お前、知ってたなら言えよ。」

「えぇ~。フィロック困ってる顔が一番面白いからぁ~、にゃぁ~やめろ~。馬鹿になるぅ。」

「もう、ずいぶんばかだろう。」

「なんだとぉ!私ほどの才女はこの村広といえど、ロクシー嬢くらいだぞぉ!」

「この村そんな広くねぇよ。」

こうして東部をわしづかみにしてじゃれ合えるのもこいつだからだ。

男勝り、と言うか、全く女らしくない性格が何となく関わりやすい。

あと、共に生活していたこともあり、何でも互いに分かっていた。

「フィロックゥ~。何にか困ってたんじゃぁ、なかったのぉ~。おお~。酔ってきた~。」

「あ、そうだったわ。」

ガシガシと振り回していた頭を止めると、しっかりとミツキに向き直った。

しばらく瞬きしていたが、自分の分のお茶を飲んで、落ち着いたように息を吐いた。

「んで、どうしたのさ、フィロック。らしくない。」

「ああ、あいつを殺すために生きてきただろ。だからさ、これからどうすれば良いか分からなくて。」

人に話、声に出すと、自分が何に困っているのがはっきり分かった。

自分の身の振り方、これからの進み方に迷っていたんだ。

とりあえず日々を生き、ロクシーをいつか殺す。そのために生きていた少し前までの俺は、そう遠い未来のことを考える余裕などなく、こんなふうに悩むこともなかった。

すべてを自分を高めるために行動していた。

しかし、今は何所に向かえば良いか分からない。

「それは困ったねぇ。この際、ロクシー嬢から手を引いて、村で仕事するとか?私みたいに天職見つかるかもよ。」

「どうだろう。俺多分ここに戻ってきたら、前みたいにその日暮らしをしそうだ。今は、仕事のこととか気にしなくていい唯一の時間だから、しっかり考えたいんだ。」

「そうだね。」

困ったねぇ。と笑いながらミツキはお茶を一口啜った。

俺もカップを持って一口飲む。

口腔から鼻腔へと香しい香りが広がる。

落ち着く。

毎週水曜はお茶の時間があって、午前の暖かい時間に家族みんなでお茶を飲んでいた。

密やかで穏やかな優しい時間だった。

その時間を過ごしていた頃、俺は、ただ、働くことしか考えてなかった。

働かなくちゃ生きていけない。

特に俺みたいな身寄りのない子供はとっくに餓死していても可笑しくない。

ここまで育ててくれた義理の両親に恩返しもしたい。

そう考えるほかなかった。

夢なんてなかったから。ただ、ロクシーを殺し、敵を討つという野望のみ。

そんな頃がなつかしい。

「まあ、どんなことしてもいいけどさ、体だけは大切にしなよ。母さんと父さんにも顔見せてきなよ。」

「……おじさんとおばさん。元気か?」

「そりぁもう。まだまだ新婚気取りだよあの馬鹿夫婦は」

疲れたようにいう。それでも彼らのことをよく思っているから言えることだ。

どこか羨ましいというように微笑む。

それを見ていたミツキがにやりとした。

「夢、格好いい旦那さんになるでいいんじゃない?」

お茶吹き出すかと思った。

「はぁ?誰のだよ。」

「しぃらなぁ~い。でもぉ、フィロックさん意外と村だとモテモテなんですよぉ~。」

「まじで?」

「いや、うそでぇ~っていつっったぁ!!止め、アイアンクローはだめだよぉ!!」

結局こいつはこいつだ。

指先に力を籠めながら、俺は静かにため息をついた。




***

こんにちは。まりりあです。

夜更かしをしたら、眠くてたまりません。

助けてください。

さて、皆さんは早寝早起きを心がけて、よりよい生活習慣を身につけてくださいね。

また、誤字脱字ありましたら、お知らせください。

それではまたの機会に。

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