20 真実はまだ
暗い空の元、足を引きずって歩く姿があった。
力なく垂れ下がった羽。
骨が折れているのか、左手を首から吊っている。
いつもは完璧に編み込まれて、美しくしてある髪も、今日はボロボロで汚れていた。
「ほんっとに、最悪ですわ。こんな姿を誰かに見られるなど、屈辱ですわ。」
「はいはい、早く帰って風呂入ろうぜ。」
「分かってますわ。ところで貴方。服は?なぜ着てないのです?」
ぷい、と顔を背けながらロクシーは問う。
フィロックは上半身に何も衣服を纏っていなかったのだ。
「いや、お前のそれ、手、吊ってる奴だろ。」
「はあ、だとしても下着は?」
「下着?そんなもんいらねえよ。」
「……………。後で、仕立ててもらわなくてはね。と言うかこれ!」
ロクシーは撮られて腕を持ち上げる。
そして、痛みに顔をしかめる。
「おいおい、痛いならやめとけよ。」
「うるさいですわ!何でこんなになってますの?」
「いや、怪我してるし。」
「治りますわ。」
「正しい位置で吊っておかないと、骨が変なふうに付くかも知れないからな。」
「……何ですの。その情報は。」
「まあ、ちょっとした雑学だ。」
昔バイトしてたとこの治療師のおっさんが言ってた。
彼奴、性格クソだったけど、腕は確かな医者だった。
俺も、そのクズに馬鹿扱いされて、仲良く、それはもう仲良くした。
互いの血を啜り合うくらいには。
殴り合うくらいには。
結局そこの長さんに、治療師が喧嘩で怪我とか笑えるね。と言う一言で二人ともクビになった。
結局次の日までに新しい仕事を探すはめになった。
思い出すとまたふつふつと怒りが湧いてくる。
おそらくこの世で二番目に嫌いだった奴だ。
一番目の誤解が解けかかった今、繰り上げで一位になりつつあるのだが。
閑話休題、
何か、自分に関係するところで自分が知らないことがある今、プライドもあり、すべて知っておきたかった。
そして、それにはこいつから聞き出すのが一番いい。
けが人を拷問するわけにはいかなかった。
「……早く怪我なんて治せよ。」
「………。」
珍しく言った気遣いの言葉に我ながら恥ずかしく照れ隠しで頬をかいた。
聞こえていたのかいないのか、ロクシーからは返事もなく、チラとそちらを見る。
…………。
いやいやいや、
分かるよ。我ながら柄にもないとこ言ったって分かってるよ。
でもさあ。
「何だよ。その顔。」
何か、この世の者では無いものを見たみたいな顔していた。
怖っ…………
むかつくを通り越して怖い。
「えっ、なにそれ。気持ち悪。」
おい、
お嬢様言葉とれてるぞ、と。
体中怪我だらけで歩くのも一苦労だったのに、勢いよく引けるってどういうことだよ。
「……だぁ!!!お前、じつはもう元気だろぅ!!」
「あら、よく分かりましたね。もう治りました。完治ですわ。」
「よっしゃ。じゃあ、拷問かけ放題だな。」
「やっぱり。そんなものだと思いましたわ。」
「銀のナイフ……ニンニク……十字架ぁ……杭…、」
「ニンニクだけは止めてくださいます?アレはもうトラウマですの。」
「………俺も。」
なんだかんだ仲いいじゃねぇか!けっ!!byナレーション
「で?」
「……ええ。何が言いたいのかは分かりますわ……分かりますから……。」
体に付いた汚れもすっかりと洗い落とし、ボロボロだった服は着替え、いつものお嬢さまぁ~に戻ったロクシーは分かりやすく頭を抱えていた。
目の前に座る男。
そいつの視線に晒されなんとも言えない居心地の悪さだった。
やめろよ。
見るなよ。
なんか言えよお!
ってな感じである。
「そのぉ……貴方のご両親について、ですわよね。」
「………それだけじゃねえが……まあ、とりあえずそうだな。なぜ、この館の地下室に居たか、そして、どうしてあんなにも綺麗な状態だったか。だ。」
「………。」
フィロックは見ていた。
地下室の両親を。
立ち入ってはいけないと言われていた地下室はその割には鍵も付いていなく、簡単に入ることが出来た。
まるでわざとそうであるかのように。
これが罠か策略か知らないが、ここまで入っては、後戻りできなかった。
怪しさ満点だったが、ええい、ままよ。と室内に入った。
白い、部屋の中。中には二つの棺。
木目の美しい木の棺が二つ、ぽつんと置いてあった。
息を詰まらせた。
開けるか、開けないか。
棺を開けるのは、なんだか罰当たりであるが、ここまで来て、中身も確認せずに出るのは後々後悔しそうだ。
中身が気になりすぎて夜しか眠れん!!と言う状況が容易に想像できる。
困った。
「ぅしぃ!!」
フィロックは自分の頬を両手で叩くと、ツカツカと部屋中央へ行き、左の棺の蓋に手を掛けた。
簡単に持ち上がる。
普通死体の納められた棺は封がされるはずだ。
では、中身はないのか。
そう少し期待した。
出来れば、死体など見たくない者である。
そう……と隙間から覗き込む。
俺の少しの期待は簡単に打ち砕かれた。
「なんか………眠ってるょ……」
明らかに人の影が見えた。
たしかに誰かがそこにいる。
ロクシーの親か、其れとも殺した人か。
どちらでもいやだ。
一回、蓋をし、深く息を吸った。
落ち着け、落ち着け。
慣れない十字を切ると、心で謝りながら蓋を開けた。
中に居た者に絶句する。
見紛うはずもない。
幼い頃ともに過ごした大切な人。
もう二度と会えないと何度も涙を流した人。
「な……んで………ここに…………父さん……」
***
春爛漫!と言う言葉を日常会話で使ってみたい。
こんにちは、まりりあです。
今日はいつもより早く起きて、よしやろう!と、意気込んでいたら、Twitterとかに全力阻止されました。
アレは、怖い……。
さて、誤字脱字ありましたら、お知らせください。
其れでは、またの機会に。