17 1人1人(前編)
続きです。
カンッと金属がぶつかり合うような音がした。
昼間はずなのに薄暗い森の中に火花が散る。
テンポ良く何度も金属音が鳴り響き、その度にあたりから鳥や野生動物が逃げていく音がする。
その音を出す張本人達は、疲れた様子も見せず、撃っては避け、引き、また踏み込むことを繰り返しており、風の揺らぎ、音さえも置いて動いているように見えた。
「っく、強い、ですわね。しかも、こう数が多いとやりにくいですわ。どれくらい前から計画していましたの。」
「…………。」
「あら、こんなにいて皆黙り。これだから機械は面白くないのですわ。」
翼とその先にある爪のような引っかかりを上手く木に引っ掛け、敵の四方八方から繰り出される連携連撃を避けながらロクシーは叫ぶ。
それが聞こえているのかいないのか、人の形をした敵達は、一言も発すること無く、息の合った攻めの姿勢を続けている。
始めから何体か撃破し、地上に叩き付けたはずだが一向に数は減らない。
今までの仕事では、一体、多くて三体程度、こう多くと対することは無く、勝手が分からなかった。
力、スピードで勝っている此方も何カ所か擦り傷や切り傷が付いていて、ドレスもそこかしこが破けている。
これは、もう手直しできなさそうだ。
そう思うとため息が漏れる。
「ああ、折角お母様が買ってくださったものなのに。もう着れないですわね。どうしてくれますの。」
「……………。」
「っと、ほんとに、嫌ですわね。」
飛んできた刃を避けながら彼女らしからぬ舌打ちをする。
顔色一つ変わらず、その微笑みも讃えたままだが、心では少し焦ってもいた。
向こうは疲れもしない、人の形をした機械。
一方此方は生き物の中でも疲れにくく体力はある方だが、生身の生き物である限り、いつかは疲れるし、倒れる。
長期戦に持ち込まれたら此方が不利なのは目に見えている。
それに今まで見ていて気付いた違和感。
此奴らはわざと長くなるようにしている。
短期決着の純粋な力技では勝てないと踏んで、時間を稼いでいる。
なるほど、私が疲れるまでに何人倒れようが、壊れようが、結局は一番最後の確実な勝利を掴もうとしているわけか。
個々の意思がない機械ならではの行動だ。
だが、あまい。
私がいつまでも相手のペースで戦うことはぜったいにあり得ない。
強者が全てを決めるのだ。
ペースも勝敗も戦いの内容も、勝った者が決めるのだ。
力が強くずる賢くスピードが速く防御が硬い。
それが強者だ。
そして、強者の前では弱者が何人群がろうと、結局は弱者は弱者でしか無いのだ。
ロクシーの瞳がキラリと光る。
光の差し込まない森の中で、赤く光を放つ。
「…あなた方も、考えましたね。その内側に取り付けられた意思疎通のための内線的なもので沢山の感情を共有しあったのでしょう。でも、機械は機械。いくら語り合って足りない感情を補い合ったって………」
にっこりと笑う。
いや、嗤う。
暗い森の中で、赤く開く目と、歪んだ唇が恐ろしく浮かび上がった。
人なら呼吸を止め、野性動物なら逃げたす。
植物さえも固まってしまいそうな気迫。
これに立っていられるのは敵が虚ろな機巧であるから。
「勝てないものは勝てませんわぁ……」
紫電一閃
閃耀
そんな言葉が丁度良いのか。
一瞬、ロクシーの姿が見えなくなったと思うと、一呼吸後には敵のその殆どが手、足、胴体を切り離された状態で冷たい土の上に転がっていることになった。
「あらやだ。全部は裁ききれませんでしたのね。流石に多くて困りますわぁ。」
酔ったように艶めかしく揺れる語尾。
いつものお嬢様らしいというよりはどこか悪魔的な、戦いに、暴力に酔っているようだった。
切り裂いた爪を唇に当てて木の上から此方を見上げる者達の姿を見下げる。
楽しい。
楽しい。
仕事をこんなに楽しいと感じたのはいつぶりだろう。
父と母とやっていた以来?
こんなにも力を出して、大きく立ち回り、手をぬかずに一撃で終わること無く、楽しめているのはいつぶりだろう。
擦り傷切り傷の痛みや不快感をすらも興奮に変わる。
一方的な攻撃による興奮、ファイターズハイとでも言おうか。
とにかく、その心地よさが体を震わせ心をときめかせ、酔うと言うより溺れるような感覚でロクシーはその力を発揮していた。
「さぁて、次はどれを壊しましょうか。一番前の奴?それとも一番後ろ?どっちでもいいかしら。」
この時も、常に止まらない敵からの攻撃を避け、または受け流して嗤いながら次の標的へと目星を付けていた。
「決まった。あなたからにしましょう。私のドレスのリボンを不粋にも引き裂いてくれたあなたからね!」
木の幹を木が倒れるくらい思い切り蹴ると、狙いを絞った敵に向けて爪を立てて飛びつく。
一方的の方も、此方への攻撃と気付いたのか、あくまでも受け止める構えをとる。
「受け止めようと?あはははっ!無駄ですわぁ。」
誰しも、ノリに乗って狂ったように一つのことに集中しているときは、周りが見えてないもので、死角から飛び出してきたのもが全く見えていなく失敗することはよくある。
この時の彼女もそうだった。
敵の体を突き破り、そのネジの一本までもを打ち砕いて着地したときには、
「くっ…………えっ………あっ……」
浅くとも抉られた腹部から生暖かい血がどっさりと流れ落ち、ハイになり脳で大量に分泌されていたドーパミンやアドレナリンが作用していなかったら、痛みで気絶していたかも知れない。
人なら出血多量にもなり得る量の自らの血にロクシーは驚いていた。
背後から聞こえた自分を呼ぶ声にも気付かないほどに。
***
こんにちは。まりりあです。
疲れました。
なんだか、最近ゆったりした描写が多かったので(?)、こう、急に文字数多くなるときつい、と言うか、全然言葉が出てこないわけです。
意味となんとなーくの音は出てるのに言葉が思い出せないと言うことが何カ所かありました。
ほんと、インターネットって便利ですよね。ちゃちゃっと言葉が調べられる!!
と言うわけで、誤字脱字意味が通らない表現等、あるかもしれません。
見つけたら是非お知らせください。
では、また後編で。
後編に続きます。