16 stey
続きです。
暗い寝室の中でもぞもぞと動いた。
眠たい。
吸血鬼だって眠たい。
と言うか、吸血鬼だから朝は苦手だ。
まだ暗いとはいえ、夜に寝て、起きたら、それはもう朝だ。
たとえ、急ぎの仕事だからとはいえ、こんな朝から働かされるのは全くもって不満だ。
吸血鬼なんだ、私は。
皆、忘れてないか?
私は、吸血鬼なんだ。
血だって飲むし、翼もある、日の光と流水と聖水とニンニクと十字架が苦手で、心臓に杭を打たれたら死ぬ、そんな吸血鬼だ。
まあ、ニンニクは嫌いな人もいるし、心臓に杭を打たれたら、そりゃあ、生き物全般死にますわ。
吸血鬼に限ったことじゃないのに、何でそんな殺し方しか伝わらない?
と言うか、化け物とはいえ、心臓一突きで殺されるのは普通に怖い。
出来れば毒殺とか、そういう穏やかな方向でお願いしたい。
いや、老衰が1番だけれども。
などと、下らないことを考える寝ぼけた頭を一つ振った。
金の髪が耳元でサラと流れる。
今日はまとめていこう。
久しぶりに忙しそうな仕事だ。
ベットから這い出ると、カーディガンを羽織って部屋から出る。
まだ暗い廊下、夜はこの時期冷える。
ホットミルクとパンでも食べようか。
しかし、次いつ落ち着いて食事が出来るか分からないから、体が重くならない程度に胃袋に詰め込んでおきたい。
ここは、無難に血を飲もう。
たしか、まだ保存があったはずだ。
暖めて飲めば、飲めるだろう。
人の食事は重い。
血は液体だから、ある程度詰め込める。
欠伸をかみ殺した。
しかし眠たい。
今日からしなくてはいけないことを考えると体が重い。
どれくらい重いかというと、某有名漫画に出てくる1000tと書かれた鎚くらい重い。
…………失礼。話が逸れた。
閑話休題
ロクシーは重い足を引きずってキッチンを目指した。
廊下の窓のカーテンを一つずつ開けながら。
「人にとっては、太陽は救いの光、らしいですわねぇ。」
まだ、寝室で眠りこけているであろう彼は、起きたらどう動くだろうか。
彼のことだから、盛って私を殺しに来るだろう。
私がもうその頃には、この屋敷にいないと知らずに。
屋敷獣を探し回るだろうか、
そうしたら私の部屋や、地下室も見られてしまうだろうか。
……私の秘密にしていたことも、全部知ってしまうだろうか。
「それはなんだか、嫌ですわ。」
ふっ、笑みがこぼれた。
でも鍵を閉めないところ、私は彼に見つけて欲しがっている。
自分の口から言うのが嫌だから、彼に問い詰めて欲しがっている。
卑怯かな。
でも、それも大切なプロセスである。
「さて、早く支度をして、日が出る前に森に入りましょう、日傘を持って戦うのはごめんですわね。」
コツ、となる足音も気持ち抑え、
密かに彼女は死地へ向かう。
でも、それが仕事なのだ。
与えられた役割なのだ。
誰かに呼ばれた気がした。
耳に残る嫌な声と心に残る後悔の声。
それらに強く呼ばれた気がした。
はっ、と、目を覚まして、部屋の中にいることに気付く。
白い壁紙に朝の光が反射している。
少しの間、何も考えずに天上を眺めていた。
あれ……何があったんだ…
昨日は…、
ふと帰ってくる途中のことを思い出す。
激昂した俺は、ロクシーの一撃によってあっさり鎮静され、その後ここに運ばれたのだろう。
考えてみれば、なんとも小っ恥ずかしくて、情けなくて、
「くっそ……、ロクシー!!今日こそは!」
部屋の中で叫んだ。
窓の外で鳥が飛んだ。
ドスドスと床を鳴らしながらキッチンに向かって進む。
胸の中でぐるぐると回る復讐心、しかし、頭は冷静で、自分の恥ずかしさを怒気で包み隠していることは分かっている。
でも、少なくとも俺にはそうできるだけの理由付けが出来た。
理由無く暴力を振るほど愚かではないが、正当な理由がある今、この独りよがりな怒りを一人で押し殺そうとするほど、落ち着いた人間では無かった。
昨晩よりは冷静であったが、それでもカッカとするこの感情はたしかに俺を盲目的にさせていた。
いつもなら気付くことに気付かないほどには、
いつもと変わらない、赤い絨毯の延びる廊下。
いつもと違う明るい廊下。
なぜか、
窓から、光が差し込んでいたから。
明るく暖かい朝の日差しを受け入れていたから。
吸血鬼は、日光が苦手。
それは前もって知っていたし、共に生活する中でたしかに分かっていたことで、
でもその時は特に気にすること無く歩いていた。
ロクシーに何があったのかと、心配するのはもう少し後の話だ。
***
はい、どうも。まりりあです。
ちわぁ!
お洒落に英語の題名にしてみたり……。恥ずかしい…、
いや、英語とか、すっごく苦手なので、もう一生やらないです。
本文は、ロクシーちゃんの書きたかった。
もう悔いは無い。
さて、誤字脱字ありましたら、是非お知らせください。
それでは、またの機会に。
続きます。