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13 一歩

わらわらと村中の人が集まってくる。

お椀やお酒を自身している人もいる。

村で一番大きい広場、中央広場のさらに中央。

まだ日も暮れぬうちに日傘を差したロクシーが舞い降りた。

フィロックと一緒に。

「ちっ、なんで俺が。」

「黙りなさい。四の五の言わないでくださいませ。言い出したのはそっちですもの。」

「そりゃそうだけどよ。ああ、全く、吸血鬼さまは人使いが荒いぜ!!」

「使えるものは使う主義なのですわ。」

大鍋を抱えたフィロックは文句を言いながらもそれを地面に置いた。

「さあ、皆様。今日は熊鍋ですわ。皆さんで美味しくいただいて、自然に感謝いたしましょう!」

どこからともなく陽気なおっさん達のかんぱーーい!の声が聞こえる。

見れば、それぞれに持ってきた酒を飲んだり、飯を食べたり、ロクシーを呼んで話をしたりと大変賑やかにやっている。

変わらずこの町の人々はお祭り騒ぎが好きなのだ。

誰かが持ってきた蝋燭やたいまつの明かりが、ついさっき日暮れとともに訪れた夜の闇を照らす。

男も女も大人は皆、酒に頬を赤らめる。

子供は夜なのに楽しげに走り回る。

いつもは、日暮れとともに家に入り、夜は静かに過ごす皆が、今日はどんちゃん騒ぎ立て、夜の更けるのをともに笑い合っている。

こういう空気は、フィロックも嫌いではない。

ほんのり頬を染めて、いつもは見せない緩い微笑みを見せる。


「こんにちは。」

「んぁ?何だ、ラインか。」

「はい。久しぶりですね。フィロック。」

「ああ、相変わらず、きもちわりいなお前。」

「え?酷い!」

少し酒も入っているのか、どこかうつろな目で此方を見据えながら目の前に座ってくる。

妙齢のこの男はいつもなんだかんだ言って絡んでくるのだ。

「フィロック。元気でしたか。吸血鬼さまについて行ったと聞いたときは、君の肉を肴に酒を飲む日も近いと思ってましたが。」

「は、縁起でもねぇ。やめてくれ。」

「むぅ、私は君が心配なんですよ。これでもこの村の村長です。」

「はーいはい。」

ひらひら、と手を振って酒を一口啜る。

こんな苦いもの、よく飲めると思う。

ラインも、ぐいっと杯を傾けた。

相変わらずの酒豪だ。

涼しい顔して樽空けるこいつは、酔うと厄介だ。

「私をそんなぞんざいに扱って!フィロック!怒りますよ。」

「はいはい、怒れ怒れ、俺はお前は嫌いだから別にかまわねぇ。」

「またそう言って!!」

「ほんとのことだ。」

怒って寄ってこようとするラインを片手で押さえつつ、熊鍋を啜る。

うん。少し臭い。

でも美味しい。

ハーブや香辛料なんかが入っていて、臭みやえぐみは随分と抑えられている。

是が、彼女の料理の腕だ。

「あー!!フィロック、料理に夢中で私のこと忘れてます?」

「うっせぇ。」

「ぐすん……フィロックには嫌われるし、ロクシーのお嬢さんにも嫌われるし、私は嫌われ者……」

あー、面倒くさい泣き上戸タイム突入だ。

慰めないと怒るしで、くっっっそ面倒くさい。

仕方なくポンポンと自分より高い位置にある頭を撫でる。

「はいはい、村の奴らはあんたのこと好きですよ~………って、お前ロクシーと話したこととかあるのかよ。」

「そりゃありますよぉ~。こうして祭りの時とかぁ、仕事の話とかぁ?」

是は祭りじゃねぇ、なんて、不粋なツッコミは飲み込んで、気になる一言に耳が行く。

仕事……

こいつとロクシーは仕事上の付き合いにあるのか。

「なぁ、仕事って、お前とロクシーは仕事を同じくしたことあるのか?」

「えぇ…こんなところで仕事のはなしぃ?えっとですねぇ私が村の人たちから寄せられた今回の熊みたいな害獣の情報をロクシーさんに教えてぇ、退治してもらうんですよ。お代は、お金だったり、ものだったり…」

「熊……退治?」

「そうですよぉ~。エラ~い吸血鬼さんとお仕事してるなんて凄いでしょぉ~」

「うっせぇ。絡むな。」

にへらと笑って絡んでくるライン。

こいつに限っては、中性的な顔つきと妙齢な見た目の年増じじいなので、騙されてはいけない。

寄って頬を赤くして何ていると、艶やかな女性や格好いい男性に見えるがよく考えろ。

こいつは俺が子供の頃からこの見た目だ。

つまり、こいつはとっくにじじいだ。

「酷~い。」

「ガキか、じじいのくせに。」

「え~。暴言悲しぃ…」

「はいはい。」

俺は立ち上がった。

こいつに面倒くさかったからと、ロクシーに疑問をぶつけるため。

ロクシーは今鍋の横、喫茶のおじさんとお話し中だ。

一歩踏み出した俺の手をラインが掴む。

また絡み酒かと振り払おうとしてもとれない。

酔っているにしてはきちんと力が籠もっていた。

「放せ、絡みならごめんだ。」

「違うよ。君に、良いことを教えてかげようかと思ってね。」

覚醒した声に後頭部が痺れる。

こいつの声は気持ち悪い。

きっちりしていてでもどこかつかみ所がなくて裏が見えなくて。

「吸血鬼、特にロクシーについて知りたいなら、図書館へ行くと良い。ミツキのいるところな。」

「はぁ?」

「それだけ……んじゃあ……吞もう!! 」

「最悪!」

つい一寸前までの緊張感はどこへやら、

急にお馬鹿な雰囲気に戻ると、俺に無理矢理杯を咥えさせて、

「はい。いきま~す!そ~れ!!」

「ん?んん!!んんん!!!」

思いっきり酒を流し込んだのだ。

是で俺が潰れたのは言うまでもない。



***

眠い。

車や電車、バスの揺れってどうしてあんなに眠くなるのでしょうか。やめて欲しい。

それでは、またの機会に

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