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10 お仕事。

カチ、カチッと時計が鳴る。

針は進む。時とともに。

俺は、心臓の音さえ潜めて、そっとそっと…

いつも彼奴が居る場所。

キッチンに入って、

「ロクシー!!今日までだ!!」

思いっきり、散弾を撃ち込んだ。


「って、居ない!!」

舞う埃が収まった後、部屋を覗いてわかった。

壊れた家具と壁、しかしそこには、彼女の姿はおろか、血の一滴さえ落ちてない。

「くっそ!また……しくじった!」

壁を勢いよく殴る。

そして、思い出す。


「ぁ………この部屋、どうやってなおそう。」



「は、はくしょん!!」

ロクシーは思い切りくしゃみをした。

「なんだぁ、嬢ちゃん、風邪かね?」

「いいえ、誰かに噂されてでもいるのでしょう。気にしなくても大丈夫ですわ。」

「そうかい。」

目の前に置かれたカップに自分の顔が映る。

コーヒーの黒で、黒い髪の自分が見えた。

そのまま、コーヒーの中の自分の目に映るコーヒーを眺める自分を見ながら、今回の依頼者に話し掛ける。

「さて、今回は、どうしたのかしら。」

「はい。二日前ほど、森の近くを歩いていた青年が、くまを見たとの情報気はいりまして。」

「……くま?この時期にこんな近くまで。」

顔を上げ、眉根を寄せる。

目の前に座る、妙齢の男が目に入る。

「ええ、ですので、調査をしていただきたくて。」

「それは、かまいませんわ。しかし、その青年は大丈夫でしたの?」

「はい。幸い、あちらが逃げていったそうで。」

「そう。」

コーヒーを一口。

苦い香が口と鼻腔に広がった。

カップの隙間から、チラリと男を見る。

隙も無く、作り笑いを常に此方へ向けている。

こいつは、面白くない人間ね。

いえ、

「ふぅ、わかりましたわ。今夜にでも。」

「助かります。度々ありがとうございます。」

男は立ち上がり。此方に握手を求めてきた。

同じように立ち上がると、差し出された手を握り返す。

思ったよりしっかりとした手が強く握ってくる。

吸血鬼故、痛くはないが、何となくぞっとした。

「あなた。若いのに素晴らしいのですね。吸血鬼相手に、怯みもしない。」

「あはは、そりゃ嬢ちゃん、こいつがおかしいからさ。こいつは、何所でもにこにこ、にこにこ。嬢ちゃんと対等に話せるのは、人間じゃ、こいつとフィロックだけだろうな~。彼奴は馬鹿で、こいつは、肝が据わってるッテだけだがな。あははは」

「フィロックさんに失礼ですよ、おじさん。」

「いやしかし、確かに彼奴は馬鹿だ。」


「はっくしょん!………。なんだ?」

床をふきながら、フィロックは大きなくしゃみをした。


「しかし、吸血鬼さま、代々我ら人間を守ってくださり、本当に感謝しても仕切れません。」

「いいえ。此方も、きちんと報酬はいただいていますから。対等な契約ですわ。」

「そう言っていただけると有り難いです。」

あはは、と、困ったように笑った。

「いや、吸血鬼さま大きな力をお持ちで、私は少々怖いと思っておりましたが。こんな可憐なお姿とは。」

こいつ……いまいち掴めないわ。

こういう奴ほど、鼻がきくものだ。

見えないとき、未来、これらをよく変えることが出来る人だ。

そう言う奴は、気持ち悪い。

「あら、随分とお口がお上手ね。まあ、知らなくても、嫌な気はしませんわ。」

椅子を引いて立ち上がる。おべっか使いは気に食わない。

ここに長居する必要も無いのだし、早く屋敷に帰って今夜のために昼寝でもしよう。

「おじさん、お代ここに置いておきます。それでは、お暇させていただきますわ。」

「はい。今回はありがとうございました。」

ぴっちり頭を下げてくる男。それを横目に日傘を開いた。

幸い、今日は曇りだから、晴れの日より幾分か外に出やすい。

扉を閉じ、歩き出す。


「全く、面倒くさいことですわ。しかしながら、これも仕事、なのでしょう。」

雨が降る前に帰ろう。

流水もまた、私には毒なのだから。




…………。

「なに……これ……」

「げっ、ロクシー。………、あ、えっと、その……」

紅茶でも飲もうと入ったキッチン。

しかし、そこはいつもとは様変わりしていて、

割れたテーブル、食器、壁。

硝子の破片陶器の破片、気のくずや木片。

これは……

「台風でも、来ましたの?」

「……。すまん。」

いや、自分でも壊すことはある。

イライラして、机叩いたら割れちゃったとかあるが、これは……。

ここまで来ると逆に清々しいというか、これはこれで……

って、

「フィロック!!あなたという人は、何てことを!あなたがなおしてくださいね!!」

「わかってる!………その……今回ばかりは、悪かった。」

しおらしく謝ってくる彼。

しかし、このキッチンには、多くのものがあり、中には大切なものもあったわけで、

まあ、防御力の魔術的な何かを掛けておいてはいるのだが。

破片散らばる中から見つけ出すのはそれは骨が折れることなので。

「はぁ、まあ、良いですわ。やった理由も想像が付くことですし。しかし、この片付けの中で壊れていないものがあったらきちんと分けておいてくださいませ。大切なものですから。」

片付けと同時に見つけてもらうことにした。

「では、私はもう寝ますわ。」

「ああ、」

寝る前にホットミルクの一杯でも飲もうと思っていたのに。

彼がきてからと言うもの、何か、上手くいきませんわ。


「まあ、そこが面白いのですけどね。」

ふふっ、と笑った声は、薄暗い廊下に暫く漂った。



***

こんにちは、まりりあです。

もうすぐ春!花粉凄いし!と思って暖房付けなかったら足先の感覚が無くなってきました。

皆様、まだまだ気を緩ませないようにお気を付けください。

それでは、ご自愛ください。

またの機会に。

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