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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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31話 全てはこの日のために

 世界中の人間を善人と悪人で分けたら悪人の方が圧倒的に多いと零は思っている。零だって自分が善人であるとはまったく思っていない。善人か悪人かでいえば悪人に分類されるだろう。

 もし自分のことを善人だと思っている人がいたら、そう見えるのは周りの人たちのおかげだと零は答える。周りに恵まれ優しい人たちに囲まれているからこそ、零は道を踏み外すことなく正しい道を歩めている。

 早瀬佳奈も優しい人たちの中の一人だと思っていた。悪人ばかりの世界で自分を正しい方へ導いてくれる人間の一人だと、そう思っていたのだ。

 彼女は普通の人よりもずっと優しい人間だと信じて疑わなかった。

 でも違った。彼女は人殺しだった。普通の人よりもずっと悪い人間だったのだ。


「サード、兄さんの首を治しなさい」


 佳奈の命令に従い死体の一人が動いた。サードと呼ばれた死体は女性だった。死体と言っても朽ちているわけではなく、肌を見る限り生きている時とそう変わらないように見える。  

 サードは佳奈から黒騎士の首を受け取ると胴の上に置いた。そして両手の指先から白い糸を出すと、瞬く間に黒騎士の首を縫合してしまった。


「サードは優秀な仮面能力者で私のお気に入りです。糸の仮面能力でバラバラになったドールもすぐに元通りにできますから」


「自分の手駒にするためだけにその人たちを……」


「復讐をより盤石とするために必要な犠牲でした。でも心を痛める必要はありません。私が殺したのは悪い人ばかりですから」


 零は会話をしながら、なんとかこの状況を打開する策を考えているが何もいい案が浮かばない。

 佳奈は死霊術師の仮面で五人の仮面能力者を同時に操り、本人も蠍の仮面で戦える。

 それに対しこちらは零が仮面を失い、鳴海は黒騎士の不意打ちで重傷、さらに蠍の毒で立つこともままならない。二人ともほぼ戦闘不能状態で勝ち目はまずない。逃げるにしてもこの人数が相手では至難の業。誰かの助けも期待できる状況ではない。


「何をしても無駄ですよ。逆転なんてさせません。全ての希望を断つためにいろいろと積み重ねてきましたから」


 零の思考も佳奈には筒抜けだった。

 彼女の言う通り完全に詰んでいた。突破口が一つもない。彼女は全てこの日のために準備してきたのだ。


「お前は逃げろ、零」


 鳴海が膝に手を突きながらゆっくりと立ち上がった。


「チカラさん……」


「……まだ立ち上がれるとは思いませんでした。ですがそんな体で零くんを守りながら私のドールを相手にできるでしょうか」


「早くしろ、零。そんなに、長くは……持ちそうにねぇからよ」


 二人が助かる道はもうない。佳奈の目的は兄の敵討ちなのだから零は見逃してくれる可能性がある。鳴海はそう判断したのだろう。

 零も選択する他なかった。鳴海の命を諦めるという選択肢を。美咲以外は全て捨てると誓った。鳴海のことも例外ではない。

 逃げようとする零の足が何かに掴まれた。下を見ると地面から生えた手に両足を掴まれていた。


「地面から!?」


 佳奈はまだ死体を隠していたのだ。


「避けちゃダメですよ。零くんに当たってしまいますから」


 鳴海は身動きの取れない零の壁になるように立ち塞がり、死体の軍団の攻撃にさらされた。耐え難い光景だった。ボロボロになっていく鳴海は見ていられなかった。


「しぶといですね……。そうだ! 死ぬ前に一ついい事を教えてあげます」


 佳奈は何を言うつもりだろうか。零はもう何一つ彼女の言葉を聞きたくなかった。「やめてくれ」と懇願したが小さすぎて彼女の耳には届かなかった。


「北条舞は兄さんの恋人でした」


「――なッ!?」


「あなたに近付いたのも全部復讐のためです。だからあなたの事を愛していたわけではありません。舞さんも辛かったでしょうね~。殺したい男との恋人ごっこなんて……」


 佳奈はただ命を奪うだけで満足しない。鳴海の魂を踏みにじり心まで完全に殺すつもりだ。

 ここまで必死に耐え忍んでいた鳴海だが一気に崩れ始めた。


「動揺しましたね? ダメですよ、仮面能力者は心を強く持たないと」


 仮面を破壊され鬼化が解けようとも終わらない。容赦ない残虐な攻撃は鳴海が倒れるまで続いた。


(ああ……まただ。いつも守られてばかり。僕のせいでまた――)


 倒れた鳴海からはもう生命の波動を感じなかった。

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