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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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30話 仇

 黒騎士は斬首され死んだ。鳴海は舞の仇をとったのだ。

 これで全て終わったのだろうか。それともまだ裏で死神が動いているのだろうか。謎は一つも解決しないまま決着はついてしまった。

 鬼化を解いた鳴海は、地に横たわる首のなくなった鎧と少し離れたところに転がっている生首を呆然と眺めていた。

 彼の心中は零には窺い知れない。勝利で得たものは特にない。仇を討ったところで舞が戻ってくることもない。

 復讐はむなしいだけだとフィクションではよく言う。それでも少しでも彼の心が晴れてくれることを零は願った。


「零くーん! 鳴海さーん!」


 大声を上げながら佳奈が校舎から飛び出してきた。


「早瀬さん! 良かった……」


 彼女も無事に目を覚ましたようで零は安堵した。

 佳奈は慌てて二人に駆け寄った。


「大丈夫、ですか? すごい衝撃で、私びっくり……しちゃって……」


 佳奈は息を絶え絶えにそう言い、胸に手を当てながら呼吸を整えている。


「ああ、悪いな。ちと派手にやりすぎた」


「戦いは――」


「ああ、終わったよ」


 佳奈と鳴海は黒騎士の亡骸に目をやりながら短く言葉を交わした。

 黒騎士は佳奈にとっても兄を殺した仇だ。これで彼女も満足できたのだろうか。


「チカラさん、美咲さんを探しに行きませんか?」


「ん? ああ、そうだな。でも先に死体を少し調べていいか?」


 鳴海たちは復讐相手の顔ぐらい確認しておきたいだろう。それに覚醒の仮面も回収しなければならない。持っているようには見えないが。

 鳴海と佳奈は黒騎士の生首の方へ向かった。やはり兜の下にある素顔が気になるのだろう。零も二人の後に続こうと一歩踏み出す。

 そこで零は妙な違和感を覚えた。黒騎士の素顔を確認するためには兜を外さなければならない。しかし、そもそもの問題として、


(何でまだ黒騎士の鎧が残っているんだ?)


 黒騎士の鎧は仮面能力で作られた物のはずだ。あの異常な防御性能からして実物の鎧でないことは疑いようがない。

 黒騎士は死んだのだから普通なら仮面能力である鎧も消えるはずだ。死んでも仮面能力が継続する場合もあるらしいが黒騎士もそうなのだろうか。


「チカラさん!」


 零は鳴海を呼び止め、自分の中の引っかかりをすぐに伝えようとする。

 呼ばれて鳴海は振り返る。その表情が険しいものに変わり、また鬼になるところを零は見た。

 そして次の瞬間には、矢のように飛んできた鳴海に零は突き飛ばされていた。

 一瞬のことで零の頭では何が起こったのかついていけなかった。


「――――ッ」


 地面に倒れ顔を上げた零は、目に映ったものが信じられなかった。それを見た零は全身から血の気が引くのを感じた。

 鳴海が零を突き飛ばしたのは、零を守るためだった。彼の腹には黒騎士の剣が突き刺さっていた。そしてその剣を持っているのは、信じられないことに首を失っている黒騎士の鎧だ。


「テメー、何でまだ動ける……!?」


 鳴海は口からその言葉と共に血を吐き出した。両手は腹に刺さった刀身を握り震えている。


「早瀬さん! チカラさんをッ!」


 拒絶の仮面を失った零では鳴海を助けられない。零は佳奈に助けを求めた。


「……援護します」


 零に言われるまでもなく彼女はもうすでに救援に向かっていた。

 鳴海は負傷したが、黒騎士を一度退けた佳奈が加勢すれば勝てるはずだ。

 蠍の尾が獲物を捉えて真っ直ぐ伸びた。


「――――えっ?」


 零の頭の中で疑問符が乱舞した。


「お前……何を……」


 鳴海がそう言いながら後ろを振り返った。


「……この瞬間を私がどれだけ待ち望んでいたか、あなたにはきっとわからないですよね」


 鳴海の後ろには黒騎士の首を両手で大事そうに抱えた佳奈が立っている。そしてその背後から伸びる蠍の尾は、黒騎士ではなく鳴海の背中を刺していた。


「二年分の私の想いがこもった毒です。しっかり味わってくださいね」


 彼女は今まで見たことないような邪悪な笑みを浮かべていた。


「クソッ!」


 鳴海は強引に暴れて黒騎士と佳奈を自分から遠ざけた。佳奈と黒騎士は二人そろって後退する。

 膝をつく鳴海に零は急いで駆け寄った。


「毒をもらってもまだまだ元気ですね。さすが赤鬼といったところでしょうか」


「早瀬さん……どうして――」


「零くん、あなたには本当に感謝しています。おかげでやっと兄さんの仇が討てます」


「何を……一体何を言ってるんだ。だって早瀬さんの仇は隣にいる黒騎士じゃ……お兄さんは仮面狩りで殺されたって、そう言ってたじゃないか!」


「仮面狩りの時に殺されたとは言いましたけど、仮面狩りで殺されたとは一言も言ってませんよ。そもそも零くんは一つ大きな勘違いをしています」


「勘、違い……?」


「二年前に仮面狩りをしていたのは私の兄です。私は黒騎士の妹なんですよ」


 零の頭が真っ白になった。それでも必死に頭を働かせて言葉を紡ぎ出す。


「そんな……じゃあ、お兄さんを殺した化け物って……」


「そこで苦しんでいる赤鬼のことですよ」


 零は自分の心を支えていた大事な何かが大きく揺らいでいくのを感じた。


「でも……仇なんておかしいよ! だって黒騎士は生きているじゃないか!」


 佳奈の言っていることは、全部デタラメだと否定したかった。今からでも嘘だと彼女に言って欲しかった。


「零くんには兄さんが生きているように見えますか? 首をはねられても仮面能力者なら生きていられると?」


「だって現に黒騎士は動いて――」


「兄を動かしているのは私の力です」


 佳奈はそう言うと蠍の仮面を外した。仮面を外して現れたのは、彼女の素顔ではなく彼女のもう一つの顔だった。


「仮面の下にもう一つの仮面!?」


 佳奈は蠍の仮面の下にもう一つの仮面をつけていたのだ。


「私は『蠍の仮面使役者』でありながら、死者を操る『死霊術師の仮面能力者』でもあるんです」


「死者を、操る……?」

 

「波動を……感じ、なかったのは、死体っ……だったからか」


 腹部の刺し傷と毒の苦しみに耐えながら鳴海が言った。

 死んでいるのなら生命エネルギーは生産されないので生命の波動を発することも当然ない。

 黒騎士の生命の波動を感知できるわけがなかった。抑えているわけでも何かの能力で隠しているわけでもなく、そもそも最初から波動を発していなかったのだから。


「ええ、その通りです。二年前のあなたとの戦いで致命傷を負っていた兄さんは、私の目の前で命を落としました。兄の死を受け入れられなかった私は、その時に初めて仮面能力者として覚醒しました」


 二年前にすでに黒騎士は息絶えていたのだ。そして妹の佳奈が兄を殺した赤鬼に復讐を誓った。


「全部嘘だったのか、僕を騙していたのか?」


 零は辛い現実を受け止めきれず、自分を騙していたという怒りとして吐き出した。そうしなければ重さで心が潰れてしまいそうだったから。


「零くんに嘘は一回も言っていませんよ。ただ黙っていたことはたくさんあります」


「そんなの……騙していたのと変わらないだろ!」


「ごめんなさい、零くん。これからは全てちゃんとお話ししますね」


 佳奈のつける死霊術師の仮面が怪しく発光した。その光を求めるように近くに潜んでいた影が姿を現す。

 影の数は全部で四つ。黒騎士と同様に生命の波動は誰一人として感じとれない。


「全部死体か! それも仮面能力者のっ!」


 集まった彼女の味方は全員が仮面をつけていた。


「まだ大事なことを言っていませんでしたね、零くん」


 彼女は悪辣に笑って告げる。


「いま世間を騒がせている連続殺人犯――仮面の殺人鬼の正体は私です」

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