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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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8話 射的

「二人ともどうかしましたか?」


 二人の様子が少しおかしい事に逸早く気づいた佳奈が声を掛けた。


「なんでもない」


 怪訝そうな顔をする佳奈に匠と帆夏は同じ返答をした。


「匠、早く射的やろ!」


 零は祭りに心を奪われているため、二人の違和感には気づいていない。


「おう。じゃあどっちがすごいの獲れるか勝負しようぜ」


「こんばんは。君たちもやっぱり来ていましたか」


 射的勝負が始まろうとするところで四人に声が掛かった。


「あっ! アカちゃん」


「藤原さん。成人男性にそのあだ名はやめてほしいですね。というより先生と呼びなさい」


 話しかけてきたのは零たちの担任の赤坂だった。苗字がアカサカだからアカちゃんという愛称で一部の人から親しみを込めてそう呼ばれている。


「なら下の名前がトオルだからトーちゃんってのはどうよ?」


 匠が新しいあだ名を提案した。


「白石君。君の父親になった覚えはありませんよ。というより先生と呼びなさい」


「アカちゃん先生はお独りですか?」


「早瀬さんはアカちゃん派なようですね。まあ先生と呼んでくれたのでこの辺で妥協しましょう。今日はHRでも話しましたが見回りで来ています」


「へえー大変だね。あっ、アカちゃんこの浴衣どう? 似合うでしょ?」


「はい。二人ともよく似合ってますよ」


「えー! それだけ? もっと褒めてよ」


 帆夏は不満そうに口を尖らせた。


「あまり口がうまいほうではないので、これくらいで勘弁してもらえると助かります」


「他の先生も来てたりしますか?」


 別に教師が何人来ていても特に問題はない。だが例外が一人いる。その一人が来ているかどうかは確認しておかなくてはならない。


「御幸君もHRを聞いていなかったようですね。小布施先生も来ていますよ」


 嫌な予感が的中して零は表情を曇らせた。


「げっ! マジかよ! 小布施が来てんのかよ」


 匠は顔を歪ませて心底嫌そうな声を上げた。


「先生をつけなさい。先生を。まあ君たちが嫌がる気持ちもわかりますが」


「アカちゃん、わかるんだ?」


「怖いですからね。あの先生……。ただ厳しい方ですが生徒のことを第一に考える立派な方ですよ。私も尊敬しています」


「それはわかるけど理不尽にキレられるし、ちょっと厳しすぎだぜ。あの婆さん」


「白石君の場合は自業自得なケースが多いのでフォローできませんね。小布施先生でなくても怒ることが多いと思いますよ。とにかく小布施先生に怒られないよう注意してください。私まで怒られてしまいますから」


「へーい」


 匠は気の抜けた返事をした。


「では私はそろそろ行きます」


「もう行っちゃうの?」


「一応、見回りなので一つの場所に留まっているわけにはいきませんよ。四人とも羽目を外し過ぎないよう注意してください。帰りも絶対に一人にならないこと。白石君と御幸君は藤原さんと早瀬さんを必ず家まで送っていきなさい。必要なら親御さんに迎えに来てもらうこと。最悪、私に連絡してもらっても構いません。車で送っていきます。殺人鬼以外にも怖い人間はたくさんいます。トラブルに巻き込まれないようできるだけ早く帰宅するように。いいですね?」


「ト-ちゃん。心配はいらないぜ。佳奈ちゃんは俺が守るからな」


 匠は親指を立ててキメ顔を披露した。


「ちょっと! 誰か忘れてない?」


「ん? ああ、そうだな。スマン忘れてた。零もちゃんと守るから安心しろ」


「じゃなくて! もういいわよバカ」


 帆夏は怒ってプイっとそっぽを向いた。


「なに怒ってんだ? まあいいや、佳奈ちゃーん。そういうことだから安心して」


「私は零くんと帰るので大丈夫ですよ」


「えっ僕?」


「はい」


「……うん、わかった。一緒に帰ろう」


 正直なところ、零は仮面の殺人鬼と出くわしても、佳奈を守り切る自身などまったくない。

 しかし、帰り道で仮面の殺人鬼に遭遇することなどまずないだろうと高を括り、堂々と首を縦にふった。


「安心してくださいね。もしもの時は私が零くんを守りますから。私こう見えて結構強いんですよ」


(えっ、僕が守られる立場なの?)


 佳奈は冗談ではなく本気で言っている気がして、零は自分の頼りなさにショックを受けた。


「とにかく一人にならないで気をつけて帰るように」


「うん、じゃーねーアカちゃん」


 四人は赤坂に手を振ると、赤坂も軽く手を振り返してそれに応えた。


 赤坂が去った後、零と匠は中断していた射的勝負を再開。勝敗は大当たりのゲーム機をゲットしたほうの勝ちということになった。


 先攻は匠。


「佳奈ちゃん、見ていてくれ。必ずこの銃でアレを……そして君のハートも打ち抜いてみせるよ」


 匠は目標に狙いを定めた。どっちが本命かは言うまでもない。


「白石くん。銃で人を狙うのは危ないからダメですよ」


「あっ、はい。そうですね」


 残念ながら匠の弾は目標に届くどころか不発に終わったようだ。


 次は後攻、零の番だ。


 おもちゃの銃を抱えた零は、銃口にコルクの弾を詰め終わると目標に狙いを定めた。

 引き金を引くとお目当てゲーム機に見事命中。だが少し位置がずれただけだ。

 二発目も同様に命中するも目標が倒れることはなかった。

 最後の三発目は別の目標に当たり射的勝負は終了。


「おしかったですね。零くん」


「うん。大当たりはさすがに簡単には獲れないみたいだね。早瀬さん、よかったらこれ……」


 そう言って零は小さな犬のぬいぐるみを佳奈にプレゼントした。ゲーム機は獲れなかったが最後の弾でこれだけはゲットできていた。


「零くん、ありがとう。すごくかわいいです」


 喜んでくれる佳奈を見るとなんだかゲームよりもいい物が獲れた気がしてくる。

 結果的にはこれでよかったのかもしれない。そう満足した気持ちで射的を終えようとすると匠がある提案をしてきた。


「零、大当たりをゲットする方法を思いついたから協力してくれ」


「どうするの?」


「普通にやってもあれを棚から落とすのは無理だ」


「だからどうするの?」


「まあ焦るな。これには帆夏と佳奈ちゃんの協力も必要だ。少し待ってろ」


 匠はそう言い残すと、射的屋のおじさんとなにやら交渉をはじめた。

 しばらくすると匠は四人分の銃を手に入れて戻ってきた。それを見た零はすぐに匠の考えを把握した。

 つまり匠は四人全員で一つの景品を狙い撃つつもりなのだ。


「これって反則なんじゃ?」


「問題ない。許可は取った。特別に一回だけならいいってさ」


 匠は帆夏と佳奈に作戦を伝え、二人に銃を渡した。


「面白そうですね」


 佳奈は意外と乗り気である。


「いいか? チャンスは一回。俺たちの仲良しパワーを見せてやろうぜ!」


 一人ハイテンションの男を無視して三人は無言で銃口にコルクの弾を詰める。


「よ、よーしチームワークはばっちりだな」


 匠も慌てて弾をこめ四人とも準備完了。四人並んで同じ目標に狙いをつけた。


「準備はいいか?」


 匠が合図の確認をすると三人は無言でうなずいた。


「せーの!!」


 掛け声と同時に四人は引き金を引いた。果たして結果は――。

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