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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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24話 七人の仮面能力者

 沙也加の仮面能力により三人の傷は癒えた。切り落とされた佳奈の左腕も元通り綺麗にくっついたが、彼女はまだ目を覚ましていない。

 黒騎士と死闘を繰り広げた佳奈の消耗は想像以上に大きかったようだ。

 佳奈は仮面使役者だが仮面の世界とは距離を置き、これまで普通の生活を送っていたのだから無理もない。まして突然襲ってきたのが復活した兄の仇ともなれば、精神的にも相当擦り減ったことだろう。

 零は眠っている佳奈を抱え、俊たちと浅葉家に向かうことになった。

 道すがら、誰一人として言葉を交わすことはなく沈黙が流れた。冷たい空気を生んでいるのは零と俊だ。沙也加もその雰囲気に飲まれ口を開くことができない。

 結果だけ見れば、零たちは黒騎士を退け勝利した。あの黒騎士に一矢報いたのだからもっと喜んでもいいはずだ。

 だが実際は零と俊に勝利の実感など全くなく、敗北の二文字が頭にこびりついて離れないまま。

 二人がかりで傷一つ付けられなかった。実質、黒騎士を返り討ちにしたのは佳奈一人の力によるもの。彼女の捨て身の覚悟に零たちは救われたのだ。

 守らなければいけないはずなのに逆に守られる――それはただ敗北するよりも耐え難い感情を生んだ。

 奇術師戦で守ろうとした美咲に逆に守られてしまったときと同じだ。零はあの時の感情を思い出し奥歯を噛み締めた。もうあんな惨めな思いなどしたくはなかったのに――。

 あれから一か月と少し。そう簡単に過去の自分とさよならというわけにはいかなかった。

 少し成長できたかと思えば、すぐにまた次の壁が立ちはだかって、前に進もうと意気込む零の邪魔をする。仮面能力者として生きる道は、なかなか気持ちよく走らせてはもらえない。


 浅葉宅で零たちを出迎えたのは、孝仁だけでなく鳴海や美咲もだった。事前に俊が連絡したことで二人は慌てて浅葉宅に駆け付けたというわけだ。

 仮面能力者と仮面使役者――合わせて七人もの仮面能力を持つ者たちが一堂に会することとなった。


「そうか、また黒騎士が……こうも立て続けに仮面能力者が狙われたとなると、やはり黒騎士は俊の言っていたようにまた仮面狩りを始める気なのか……? いや、しかし――」


 話を聞き終わった孝仁は、ぶつぶつと何やら独り言を始めた。黒騎士の狙いがいまいち掴めず頭を悩ませているようだ。


「鳴海君はどう思う? この場で黒騎士について一番わかっているのは君だ」


 自分の中で考えがまとめきれない孝仁は、鳴海に意見を求めた。

 全員が鳴海に注目し彼の言葉を待った。


「仮面狩りが目的だとするとわからないことが二つあります。舞を狙ったことと覚醒の仮面を使っていることです」


「北条さんを狙ったのは鳴海さんを動揺させるためでは? 仮面狩りをやる上で最も障害となる鳴海さんを倒すために」


 俊がすぐに意見した。


「黒騎士の考えが二年前と変わってねぇなら舞を殺すことは絶対にしない」


「なぜですか?」


「二年前、黒騎士は最後に俺に言ったんだ。仮面能力者はこの世界にとって異物、人々の平穏を脅かすこの世にあってはならない存在……だから正義のために殺さなくてはならないと、そう言ってたんだ」


「黒騎士がそんなことを……?」 


「それが二年前仮面狩りを始めた理由だったの?」


 俊と美咲の反応を見る限り二人はこの事実を知らされていなかったようだ。孝仁と沙也加も驚いた表情をしていることから、鳴海は誰にも話さず自分の中に閉まっていたのだろう。


「ああ。なんで黒騎士がそう思うようになったかまではわからないがな」


「自分だって仮面能力者なのに……」


 沙也加がポツリとそう呟いた。鳴海もそれに同意するように頷いて、


「沙也加の言う通り、黒騎士が俺に語ったのが本音なら、仮面狩りの対象には自分だって含まれるはずだ。黒騎士の言い分なら仮面を使う者は悪でそれを殺す自分は正義ってことになる。だが仮面能力者が悪だというなら、そもそも自分の存在自体も悪だと認めているようなものだ」


 正義のために始めた仮面狩りが自身の存在を悪だと認めることになるという矛盾。その矛盾を解消するには一つしかない。


「黒騎士は仮面狩りが終わったら自分も死ぬつもりだったんじゃ……」


 そう言ってみたものの、それは到底できることではないと零は頭の中で否定した。


「仮面狩りを完遂すること自体まず不可能だ。全ての仮面能力者を殺し全ての神秘の仮面を破壊する――そんなことできるはずねーだろ」


 俊にもすぐに否定された。しかし零が不可能だと思った理由とは少し違う。

 仮に俊の言うことを実行できたとしても仮面狩りをやり遂げたことにはならない。仮面能力者と神秘の仮面をこの世から葬り去ったところで、またすぐ別の仮面能力者が生まれ、特殊な力を持った仮面がどこかで作られるだろう。

 人がいる限り仮面狩りは終わらない。仮面狩りを完遂させたいなら人類全てを抹殺するしかないのだ。


「ともかく黒騎士が当時からかなり歪んでいるヤツだったってのは間違いない……」


「歪ん、でる……」


 佳奈の小さな言葉は、隣にいた零の耳にだけ入った。

 彼女は零の隣でここまでずっと黙って話を聞いていた。その表情は暗く顔色も悪くなる一方の彼女を気遣い、零は声を掛けた。


「早瀬さん大丈夫?」


「……はい。ただどんな理由があってもやっぱり許せないなって……」


 佳奈の怒りはもっともだ。黒騎士の歪んだ思想など到底納得できるものではない。世界のため、正義のためにと、突然そんな理由で兄を奪われて許せるはずがない。


「黒騎士は歪んでた。だが俺が言いたいのは、そこまで歪んではいても黒騎士は仮面を持つ者以外に手を出すようなヤツじゃなかったってことだ」


 鳴海の言うように一般人に手を出すことがなかったのなら、当時の黒騎士には人類を滅ぼすという考えまではなかったようだ。


「なるほど。だから舞ちゃんを狙ったことが引っかかるわけだね?」


 当時の黒騎士なら仮面の力を持たない舞を傷つけることは絶対にしないはず。むしろ守るべき対象だ。そうなるとやはり今の黒騎士は二年前とは違う考えを持っていることになる。


「はい。それに覚醒の仮面もです。昔の黒騎士なら心魂の仮面を引き出す仮面なんて真っ先に破壊していたはずです」


 仮面狩りが目的なら自分で殺すターゲットを増やすのはやはりおかしい。


「黒騎士が変わったのは死神のせいかもしれない。まだこの件に関わっているか確定したわけじゃないが……」


「死神って何ですか?」


「昔、触れるだけで命を奪う仮面能力者がいた。それが死神だ。強さで言えば黒騎士と同等以上の化け物だ」


 死神のことを知らされていなかった零に鳴海が説明した。


「死神は覚醒の仮面を使って仮面能力者を何人も生み出した。その過程で凶蝕者も大量に生まれたから俺たちは戦ってそれを阻止した」


「死神はなんでそんなことを?」


「それは……」


 仮面能力者は個人が持つにはあまりにも大きすぎる力を抱えている。その力を誰もが正しいことに使えるわけもない。むしろ突然超常の力を手にしたら悪用する人間の方が多いだろう。

 黒騎士の仮面狩りに賛同するわけではないが、零も仮面能力者はいない方がいいと考えている。

 それは世界のためでもあるが、何より本人のためだ。未熟な心で力を手にすれば、人は道を簡単に踏み外す。悪人は言うに及ばず、善人だって力を手にした瞬間、普通ではいられなくなる。仮面の力のことなんて知らずに普通の人生を歩んだほうが絶対に幸せだ。知ってしまったら、本人がどれだけ望もうと普通を手放さなければならなくなる。

 死神にどんな目的があるにしろそれは正しいことではないだろう。


「……『ゼロの仮面』を探すためだ」


「なんですかそれ?」


「さあな、『ゼロの仮面』が結局なんなのかは今でもわからねぇ。死神がそれを使って何をしたかったのかもな」


 無理やり人を仮面能力者にしてまで欲した仮面なのだからよっぽどのものだろう。


「鳴海君、死神が関わっている可能性があるなら、やはり波多野さんの力を借りるべきじゃないか?」


 孝仁が戦力の増強を提案した。黒騎士と死神が肩を並べているなら、今ここにいる仮面能力者だけでは太刀打ちできない。その判断には零も賛成だった。

 波多野という人物は風我山に籠っているらしいが、話を聞く限り相当な実力者であるようなので、助力を得られるのならそうするべきだ。


「でもあの爺さんは簡単には見つからないですよ?」


「ダメ元でやってみるよ。あの方は子供に甘かったから沙也加も連れて行けばもしかしたら会えるかもしれない」


「ならオレも行く。人探しならオレもいたほうがいい」


 俊もついて行くことが決まり、波多野を探すため浅葉家全員で風我山に行くことになった。


「リキさん、ダメ元なら春ちゃんにも頼んでみない?」


 今度は美咲が提案した。

 春とは以前、鳴海たちが話していた少女のことだ。鳴海に「天才」と言わしめるほどなので、高い実力を持つ仮面能力者なのは間違いない。


「アイツ既読スルーしやがったから今回動く気はないぞ、たぶん」


「それはわかってる、私も昨日連絡してたから。私のメッセージには既読すらつかなかったけど……」


 美咲が少し悲しそうにそう言った。

 美咲の連絡を無視して悲しませた春は、零の中で奇術師、クソ犬、黒騎士と同じ嫌いな人間の枠組みにカテゴライズされた。


「直接会いに行くのか? あんまりしつこいとアイツも敵になるぞ」


「さすがにそれは……ないとは言い切れないけど」


 敵になる可能性があるというだけで、もう零の中で春は信用できそうにない。


「しょうがねぇ、やるだけやってみるか。お前の出番だぞ、零!」


「え、僕ですか?」


 きょとんとしている零に鳴海は笑って重大な役目を授けた。


「春の協力を得られるかどうかはお前次第だ」


 押し付けられたと言い換えてもいいかもしれない。

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