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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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15話 嘘の終わり

 金属がこすれる音とともに影の世界から現れたのは、漆黒の西洋甲冑を着た騎士だった。(ヘルム)肩当(ポールドロン)上腕当(リアブレイス)肘当(クーター)籠手(ガントレット)胸当(ブレストプレート)背当(バックプレート)腰当(フォールド)尻当(ロインガード)腿当(クウィス)膝当(ポレイン)脛当(グリーヴ)鉄靴(サバトン)、体の全ての部位を堅固な黒鉄で覆い、背中にはボロボロのマントを纏っている。

 鳴海と同じ程度の長身の人物が、全身鎧(フルプレート)に身を包んだその姿は、周りをたじろがせるほどの威圧感を放っていた。

 中世ヨーロッパの騎士が現代日本の街の中にいるという異様な光景。ファンタジー映画やゲームでしか見たことないような存在が現実にいるという異物感。日常を破壊し非日常へと誘う存在。そんな存在はただ一つ。


「仮面能力者!?」


 零は即座に拒絶の仮面を身に着けた。


(なんだ、コイツ……? 生命の波動をまったく感じない?)


 波動を抑えているというレベルではない。まったく波動がないのだ。目の前にいるのにそれでも感じ取れないなんてことはあり得ない。しかし現実にあり得ている。

 それほど波動のコントロールに長けた存在か、あるいは仮面能力によるものかは零では判断がつかない。

 騎士の顔は兜に隠されているため、素顔どころか表情すら読み取れない。

 しかし、敵か味方かは問うまでもなく、騎士の握る黒剣が語っていた。


「舞さん下がって!」


 動揺している舞の顔から、零は彼女と黒騎士が仲間ではないと判断し後ろに下がらせた。

 黒騎士はその場で剣を高く振り上げた。


(その位置から何を?)


 まだ零たちは剣の間合いの遥か外にいる。届くはずがない。それでも明確に伝わってくる死のイメージ。奇術師を前にした時に感じたものと同等、あるいはそれ以上の――。


「防壁展開!!」


 零は三重の拒絶防壁を展開させた。今の零にできる最高防御であり、一つ一つの防壁も2級との戦いより強化されている。

 初撃を確実に防いで、攻撃へと転じる。頭の中で描いた勝利のためのプラン――そのイメージは黒騎士の振り下ろした剣で簡単に切り裂かれた。

 三重の防壁はいともたやすく突破され、零は防壁もろとも切り伏せられた。鮮血を飛び散らせて地に伏す零の耳に、舞の絶叫が飛び込んでくる。

 左肩から下に向かって真っすぐ斬撃を浴びていた。かろうじて体が繋がっているのは防壁のおかげだ。なければ一刀両断され即死だっただろう。

 即死は免れたが、動くことすらできない重症を零は負った。たった一撃で勝敗は決してしまった。

 零はうつ伏せの状態でなんとか首だけ動かし、黒騎士の方を見る。そこでやっと自分に起こったことを理解した。

 視線の先、黒騎士から零の間までの地面も同様に切り裂かれている。黒騎士の剣に間合いなど関係なかったのだ。振り下ろした一撃は、飛ぶ斬撃となって零を襲っていた。

 しかし、攻撃の正体がわかったところでどうしようもない。零に立ち上がる力はもうない。精神論でどうにかなる傷ではない。仮に立ち上れたところで、黒騎士の剣を防ぐ手段もない。


「舞、さん……逃げ、て」


 意識が飛びそうになるほどの激痛に耐え、絞り出した言葉。零にできるのは舞に逃げろと伝えることだけだった。


「……ごめんね。ミユキっち」


 そう言った舞はなぜか自ら黒騎士の方へ向かって行った。


「なん……で」


 やはり舞は敵だったのだろうか。零の頭に疑念がよぎった。


「こんな終わりはさすがにあたしも予想してなかったなぁ。あの子の怒りに触れちゃったか……」


「舞……さん?」


「ミユキっち、あの人に伝えて。あなたとの出会いは嘘だけど、あなたと過ごした日々の全部が嘘だったわけじゃないって」


 舞の言っていることはよくわからない。けれど彼女を止めなければいけないということはわかる。


「舞さん、待って!」


 傷口から血が噴き出すのも無視して零は大声で叫んだ。彼女を行かせるわけにはいかない。


「ごめんねとありがとうも伝えてほしいの」


 舞は黒騎士の前に立ってそう告げた。このままでは彼女は黒騎士の剣で殺されてしまう。しかし、待っていた現実は零の予想よりも残酷なものだった。


 黒騎士は舞を殺すことはしなかった。


「ミユキっち。約束忘れないでね」


 剣を振り下ろす代わりに黒騎士がしたのは、手に持っていた仮面をつけることだった。すでに兜をつけている自分にではなく舞の顔にだ。


「神秘の……仮面?」


 黒騎士に仮面をつけられた舞は、苦しみその場に膝をつく。その際に仮面ははずれ地面に落ちて音を立てた。


「そんな……まさか」


 零は自分の目を疑った。仮面のはずれた舞の顔に別の仮面が形成されていき、再び彼女の顔を覆い隠していく。彼女は心魂の仮面を発現させようとしているのだ。

 舞は零たちと同じ力はないと言っていた。それが嘘でないのなら、これは彼女の意思で発現したものではない。黒騎士が舞に被せた仮面は強制的に心魂の仮面を形成させるものだったということだ。だが黒騎士は舞を仮面能力者にしようとしているわけではないだろう。心魂の仮面を発現させたからといって誰もが仮面能力者になれるわけではない。大半の人間はその強大な力をコントロールすることはできない。

 つまり黒騎士の狙いは、


「舞さんを凶蝕者にするつもりかっ!!」


 殺すよりも遥かにひどい仕打ちに零の怒りが爆発した。しかし、どんなに怒り叫んだところで止められない。

 零には舞の心魂の仮面が黒く染まっていくのを、ただ見ていることしかできなかった。

 黒騎士は落ちた神秘の仮面を拾うと影の世界への扉を開き、凶蝕者になり暴れる舞を拘束し影の世界へと消えていった。

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