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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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14話 舞の言葉

 日が昇るまでプレイして、なんとか全キャラを解放した零たちは、謎の達成感のあとに襲ってきた睡魔に逆らえず、ようやく眠りについた。

 昼が過ぎても眠り続け、日も落ち始めた頃になってやっと四人のうちの一人がゆっくりと目を覚ました。一人がもぞもぞと動いていると残りも続いて目を覚ましていった。

 零は最後まで眠っていて、起きてもまだ頭がボーっとしてすっきりしない。まぶたもまだ重い。快眠とはいかなかったようだ。


(最近は結構ぐっすり眠れてたんだけどなぁ)


 以前の零は睡眠の質が非常に悪く、いくら寝ても眠気が取れないといったことがしばしばあった。しかし、特訓が始まった頃からそれもなくなり、零の眠りは深くなった。これを零は、特訓による程よい疲労が睡眠の質を向上させた結果だと思っていたが、それは間違いである。

 零は気づいていないが、眠りの質が悪かったのは別人格のせいだった。別人格たちは零が眠りに入った後、交代で体を奪って好き勝手していたのだ。

 過去の失敗から別人格たちは、零本人と周囲の人たちにバレないように、交代するのは夜のみで時間は三時間だけという制限を設けていた。だがその代償として零は慢性的な睡眠不足になっていたというわけである。

 最近になって眠りの質が良くなったのは、零が特訓に集中して臨めるように、三香が夜中の人格交代を禁止にしたからというのが真相である。

 なので今回快眠できなかった理由は、自宅のベッドではなく、狭い部屋で雑魚寝だったから、ただそれだけの話だ。

 目覚めた後も少しゲームをしたが、匠が帰ると言い始めたので零も一緒に帰ることに。近藤はまだ残っていくようだった。


「ん? あの車ってもしかしてアカちゃん先生じゃね?」


 アカちゃんとは零たちの担任の赤坂のことだ。別に同じ街に住んでいるので、帰り道で会ったとしてもおかしくないのだが、車が出てきた場所が気にかかった。赤坂の車が出てきたのは病院の駐車場からだ。


「誰かのお見舞いか? それともまさかアカちゃんがどっか悪いのか?」


「車を運転出来てるから、大丈夫じゃないかな?」


 心配ではあるが、少なくとも入院するほどでもないということだ。そもそも本人の体調が悪いと決まったわけでもない。


 それから少し歩き、匠とも別れて家に向かっていると、零は偶然にも鳴海の恋人の舞とまた出会した。


「あっれ~、ミユキっちじゃん!」


「……偶然ですね」


「うんうん! これはもう運命だね。ミユキっちとあたしは赤い糸でつながっていた! 的な?」


「まだ酔ってます?」


 恋人がいるのに何を言っているのだろうと、零は苦笑いしながら舞の冗談を流した。


「ううん、酔いはね……もう醒めちゃった。ミユキっちのおかげでね」


「……? それはどういう――」


「ねぇ、ミユキっち家まで送ってよ。あの人バイト行っちゃったからさ」


 零の質問を遮るように舞はそんなことを言ってきた。そろそろ日も完全に沈む。仮面の殺人鬼のこともあるので、夜に女性を一人で帰らせることは絶対にできない。断ることはできなかった。


「いいですけど……家ってこの辺ですか?」


「ううん、ずっと遠く」


「なんでこんなところに? この辺は何もお店とかないですけど?」


 この辺りは住宅街がずっと続いている。さっきの話からすると鳴海と一緒にいたようだが、鳴海の家がこの辺りではないことを零は知っている。デートでわざわざ来る場所でもない上に、舞の家もずっと遠くにあるということなら、彼女はこんなところで何をしていたのだろうか。


「さぁ、なんでだろ? どうでもいいじゃん、そんなこと」


 舞は理由を教えてはくれなかった。

 普通に考えれば、この近辺に住んでいる誰かに会いに来たと予想できる。鳴海と舞の二人はどこかの家を訪ねたあと、舞を残して鳴海はバイトに向かったと考えるのが自然だ。

 舞をこんなところに一人残して行ってしまう鳴海に違和感はあるが、別におかしいというほどではない。急にバイトに入ってくれと頼まれてしまい、送っていく余裕がなかったのかもしれない。


「さぁさぁ、出発進行―!」


 後ろから背中を押してくる舞の勢いに逆らえず、自宅を目前にして零は反対方向に進むことになった。


「あの……北条さん――」


「舞でいいって。あたしとミユキっちの仲じゃん」


「……舞さん、昨日言ってたことなんですけど――」


「あー、ごめん、ごめん。昨日はあたしもう、べろんべろんになるまで飲んじゃってたから……だからあんまり気にしないで」


 さっきからどうにも質問の答えを曖昧な返事ではぐらかされてしまう。言いたくない理由は何なのだろうか。その話題に触れられたくないなら、なぜ昨日は零にあんな事を言ったのか。


「舞さん……僕に何か隠してます?」


「女の子は隠し事が多い生き物だよ、ミユキっち」


「今日僕と会ったのは本当に偶然ですか? それとも――」


「もう、ミユキっち。偶然じゃなくてあたしたちの運命だってさっき言ったじゃーん!」


 しつこく質問しても舞の態度は変わらない。笑顔を崩さず軽い感じで躱されてしまう。


「何か話したいことがあったんじゃないですか?」


 それでも零は質問をやめなかった。もはや質問というより彼女の本心を引き出すための尋問と言った感じだ。


「ミユキっち、そんなに質問ばっかりじゃモテないよ。ちゃんと女の子の話も聞かないと……」


「なら話してください。それとも話せない理由があるんですか?」


「ええっと……」


「チカラさんにもそんな感じなんですか?」


 その質問で舞の偽りの仮面は剝がれ落ちた。彼女の目の色が変わる瞬間を零は見逃さなかった。作り笑いをする余裕もなくなり、上がりっぱなしだった口角も今はもう下がっている。


「……うん。そうだよ。あの人にも言えないこといっぱいあるよ」


 今の舞の顔は、コンビニで零に最後に見せた時の彼女と同じ顔だった。人懐っこくて明るく笑顔を絶やさない彼女は消えた。真剣な表情で暗く悲しげな眼差し、消えてしまいそうなくらい儚げな雰囲気の今の彼女こそが本当の舞なのだろう。


「あなたがあそこにいたのは、僕に会うためですか?」


「うん、正解」


「最近僕に近づいて来る人間は僕を殺そうとしてきます。あなたもそうですか?」


「ううん。あたしはキミたちみたいな力は持ってないから」


「なら何の用ですか?」


「それは――」


 突如、二人の背後の空間が切り裂かれた。影の世界の扉を誰かが開いたのだ。

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