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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第三章
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12話 大混戦モンスターファミリーズ

 夏休みも早いもので、残すは一週間となった。この夏休みで零は格段に強くなった。特訓開始時のことを思えば見違えるほどの成長だ。

 それでもまだ足りない。強くなればなるほど欲が増えてくる。自分に足りないものにあれこれ手を伸ばし、全てを掴みたいという欲だ。

 目の前に散らばっている零が求める力。それを捕まえて引き寄せるには時間が全く足りていない。残りの休みの間に、あとどれだけの力を手にできるだろうか。奇術師がいつ襲撃してくるかわからない以上、一つでも多くの力をその手に掴んでおきたい。

 意気込みは充分。今日も一日ハードな特訓に臨む覚悟ができている。しかし、力を渇望する少年がこの日に向かったのは、いつもの公園ではなくクラスメイトの森下の家だった。

 もちろん特訓のためではない。遊びに誘われたからだ。

 鳴海や美咲もこの日は予定があったのでちょうどよかった。一人でできる特訓は限られているので、思い切って休みにしたというわけだ。


「やっと来たな。遅かったからもう先に始めてるぞ」


 インターホンを押すとそんな返答があった。そのあと、ドアが開き家の中に招き入れられる。二階の奥の部屋へと案内されると、中には匠と近藤がいた。二人の手にはゲーム機のコントローラーが握られていて、テレビ画面にかじりつくようにプレイしていた。


「おー来たか、零。もう少しでこの戦い終わるから待ってろ」


「いや、まだだ。まだ終わらんよ!」


 匠と近藤は画面から目を離すことなく、コントローラーからカチャカチャと軽快に音を鳴らしながらそう言った。

 二人がそれほどまで熱中しているゲームのタイトルは、惨転堂の対戦アクションゲーム『大混戦モンスターファミリーズ』、大人気シリーズの最新作の発売が今日だったのだ。

 零も数か月前は絶対に発売日に買うと決めていたタイトルだが、最近はそんなことも忘れるほど特訓にのめり込んでいた。


「クッソー! タイマン強いな、白石は。さすが普段から帆夏ちゃんとリアルファイトしているだけある」


「それ関係なくね? まぁ確かにアイツの起き攻めはエグすぎるし、復帰も簡単には許してくれねぇから、それに比べたらこのゲームはヌルゲーだけどよ」


「お前ら普段どんなケンカしてんだよ……」


 二人のタイマンバトルが終わったので、零と森下も入れて四人で大混戦が始まった。


「そういや、零は伯母さんたちから許可取れたのか?」


「うん、取れたよ」


 許可とは森下の家に泊まる許可のことだ。今日はみんな森下の家に泊まることになっていたので、零も伯父母に許可をもらう必要があった。 

 彼女の存在を疑われて少し時間がかかったが、なんとか伯母さんたちの許しは得た。


「森下の使ってるパチモンとかいう新キャラ強くね? 暗黒進化して究極体になると動き速すぎるんだが……」


「いや、お前のモンスタートレーナーも負けそうになったら、違うヤツと交換するからズルいだろ」


 森下と近藤がお互いの使っているキャラに軽く不満を漏らした。


「しかもモンスター同士の戦いなのに、トレーナーが追い打ちかけてくるのはダメじゃね? 原作でもルール違反だろそれ」


「アニメだと主人公のヒトシがモンスター並みの身体能力発揮してるからセーフ。むしろモンスターより頑丈だからアイツ」


「いや、その言い訳だとモンスターバトルのルール破っていい理由にはなってないだろ。そんなんじゃいつまで経ってもモンスターマスターになれないだろ」


「ヒトシがモンスターマスターになれるなんてもう誰も思ってねぇよ。アニメ放送開始から20年以上経ってんだぞ。視聴者もアイツには期待してねーよ」


 このゲームはプレイヤーが熱中しすぎるあまり、言葉の応酬からケンカに発展してしまうということもしばしばある。そうなる前に零はフォローしておくことにした。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて……ヒトシも最終回にはモンスターマスターなってるよ、きっと」


 ヒトシのフォローまできっちりこなす自分に零は心の中で自画自賛する。


「つーかさ、御幸の使ってるキャラが一番チートじゃね?」


「ああ、俺も実はそう思ってた」


 二人をなだめようとしたら思わぬ火の粉が飛んできてしまった。共通の敵を見つけたことで二人のケンカは阻止できたが、今度は零が二人に責められることに。


「てか御幸の使ってるキャラ何? モンスターじゃねーじゃん」


 このゲームの登場キャラは、全て人気タイトルに出てくるモンスターである。

 森下の『パチモン』も近藤の『モンスタートレーナー』もそれぞれ別作品のキャラであり、参戦条件はモンスターであることが絶対条件だ。

 しかし零の使っているキャラは、モンスター要素が一切ない人型のキャラだった。近藤の使用するモンスタートレーナーも人ではあるものの、メインで操作するのはモンスターなのでセーフという扱いだが、零の操作キャラはモンスターを操っているわけでもない。


「いやいや、ちゃんとモンスターだよ。モンスターペアレント」


「モンスターペアレント!? 何の作品のキャラだよ!」


「無自覚犯罪組織PTA」


「タイトル聞いてもまったくわからねぇ……どんなゲームなんだよ?」


 参戦作品の中ではかなりマイナーな作品のため零以外は誰も知らなかった。


「確か……表と裏、二つのPTAがあってプレイヤーは裏の悪いPTA会員なんだよ。それで気に入らない教師をクレームで退職に追い込んだり、付き合いの悪いママ友に嫌がらせしたりするの。あと子供が定期的に罪を犯すから、上手く隠蔽して卒業させなきゃいけない。卒業までに親か子供のどちらかが警察に捕まったらバッドエンド。逃げきれたらゲームクリアでハッピーエンドになる」


「バッドエンドとハッピーエンド逆だろそれ……つーかよく発売したなそんなゲーム」


「結構売れたから続編も作る予定だったみたいだけど、批判もすごかったから結局続編の話はなくなったみたいだよ。なんか親御さんがビックリしちゃうからダメなんだってさ」


 零はこのゲームを割と気に入っていただけに、続編が永久に制作されないことは残念でならない。


「そんなゲーム参戦させるなよ……とにかく、さっきから使ってるそのモンスターペアレントの必殺技、いくら何でも強すぎないか?」


「これは必殺技じゃなくて通常技の悪質クレームって技だよ。必殺技は上級国民の夫を召喚するやつ」


「通常技だったのかよ! 威力が高い上に範囲も広い。おまけに技の出が早くて連発もできるとかゲームバランス崩壊してるだろ!」


「原作再現のためだから仕方ないんじゃないかな。それにクレームって理不尽なものだからね」


「納得できないっ!!」


 あまりにも理不尽すぎるキャラのため、モンスターペアレントはすぐに使用禁止となった。

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