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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第二章
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1話 誤解

「レーイ! 帰ろうぜ」


 だらだらと帰りの準備をしている零に匠が声をかけた。

 本日は月曜日。いつもと変わらない学校生活。

 平穏で退屈な時間が今日も何事もなく終わった。


 学校の授業は退屈だが夏祭りの夜にあったことを思えば、少しはこの退屈な時間にもありがたみが感じられた。

 なぜかといえば零が今ここに居られるということ、それ自体が奇跡だからだ。


 土曜日の夏祭りの夜、零は仮面能力者たちの世界に足を踏み入れ、命のやり取りの末になんとか命を拾うことができた。

 平穏な日常に帰還することができたが、残念ながら問題は何一つ解決していない。

 生き延びたと言っても寿命がわずかに延長されただけ。

 強くならなければそう遠くないうちにせっかく拾った命を落とすことになるだろう。


「あーごめん、先に帰ってて」


「なんか用事か?」


「えーと、まあ、うん」


 零は匠から目をそらし曖昧な返事をした。


(美咲さんに用事があるなんて言ったらめんどうなことになりそうだしなぁ)


 夏祭りの夜に零は倉科美咲と出会い、仮面能力者として覚醒した。

 だが覚醒したといっても仮面は完全な状態には程遠い半覚醒状態。完全覚醒には至っていない。

 その上、今は自分の意思で仮面を発現させることもできない。

 零は戦うためのスタートラインにすら立てていなかった。


 現状は最悪としか言いようがないがそれでも希望がないわけではない。

 この絶望的な状況を打破するために美咲ともう一人、鳴海力という男が力を貸してくれるらしい。

 美咲への用事はそれだ。


「御幸くん、先輩が呼んでるよ」


 匠から逃れるためなんといってごまかそうかと考えていると、クラスの女子から声が掛かった。


「え?」


 教室の出入り口を確認すると美咲が立っていた。

 美咲と目が合うと彼女は微笑み軽く手を振ってくる。

 クラスメイトたちも徐々に美咲の存在に気がつき教室内がざわつき始めた。


 零は急いで美咲に駆け寄った。


「美咲さん、どうして――」


「ごめんね、いきなり。例の件、さっそく今日から始めようと思って。でも考えてみたら私たち連絡先も交換してなかったでしょ? だから教室まで来ちゃった。連絡先教えてくれる?」


「それは構いませんけど……美咲さん良かったんですか? 僕たちが知り合いだってこと、みんなに知られないほうが良かったんじゃ?」


 零はみんなに聞こえないように小声で美咲に囁いた。


「これから学校で話す機会も増えると思うしコソコソ会ってると逆に詮索されちゃうかなって。大丈夫、仮面能力者関連のことがバレなければ問題ないから」


(まぁ確かに美咲さんは目立つし学校で隠れて会うのは難しいか……祭りの夜に知り合って親しくなったってだけなら問題ないよな)


「わかりました。そういうことなら……」


 零は美咲と連絡先を交換するためにスマホを取り出した。

 スマホを操作していると匠が後ろからきて会話に入ってきた。


「初めまして、倉科先輩。私、零君の友達の白石匠と申します」


 匠は美咲にバカだと悟られないよう話し方がいつもより丁寧だが、それが逆にバカっぽかった。


「私は二年の倉科です。よろしくね」


「つかぬことをお伺いしますが、お二人はどういった御関係で?」


 クラスがまた少しざわついた。クラス中のみんなが気になっていることを匠が訊いたからだ。

「ナイス、バカ」「よくやった、バカ」「さすがバカ、俺たちが訊けないことを……」などという声がチラホラ聞こえてきた。


「私と零くんの関係?」


「み、美咲さん、こいつのことは無視していいですから」


「ふむ。二人は既に下の名前で呼び合うほど仲がよろしいようで。ですが私の記憶では零はあなたのことを一昨日の祭りの時まで名前すら知らなかったはず。一体いつ知り合ったのですかな?」


「祭りの日よ」


「これはおかしなことを。零は祭りでは私たちと行動を共にし、祭りが終わったあとはゴリラに警護されて家に帰ったはず」


「おかしくないわ。零くんと会ったのはたぶんあなたたちと別れた後だから。ゴリラがなんのことかわからないけど零くんは一人で道に迷っていたわ。でもそうね。祭りの日といったのは間違いだったわ。たぶん零くんとあった時には日付がかわっていたから、それからいろいろあって朝まで一緒に過ごして家に帰ったわ」


「朝まで!? 本当なのか零」


「え、うーん。まあ。朝帰りしたから伯父さんと伯母さんにすごく怒られて……」


 零も美咲に話を合わせた。

 仮面能力者関連の話を除くと美咲が言ったことぐらいしかしゃべれない。

 あの日、いろんな意味で道に迷っていた零は美咲のおかげで家に帰ることができた。

 話せるのはそれくらいだ。


「ごめんなさい。あの日にあったことは私たちだけの秘密でここで言えるようなことじゃないわ」


「人に言えないようなことをしたんですか!?」


「そうね、私、あの夜は少し怖い思いをしたの。それにいろいろ初めてのことが多くて……。でも零くんが優しいおかげで怖いのは最初だけだったわ。あの夜の零くん……とても素敵だったわ」


「零いいいいいいいい!! どういうことだあああああ!!」


 匠の嫉妬の雄叫びがこだました。


「ちょっと待って! 匠、何か勘違いしてる」


(あの言い方じゃ誤解されても仕方ないけど……ていうか美咲さんわかっててやってないか?)


「匠の想像していることはなかったから! 僕と美咲さんはただの友達」


「あんな話をされてただの友達で納得できるか! ん? いや待て。友達ってまさかセフ――」


 匠が最低なことを言いきる前に帆夏が頭を叩いて止めた。


「二人がどういう関係だろうとアンタに関係ないでしょ。バカ。ごめんね、零ちゃん邪魔しちゃって」


「ありがとう。帆夏ちゃん」


「あれ? 零、お前こいつのこと下の名前で呼んでたっけ?」


「ナイショだよね~零ちゃん」


「うん、ナイショ、ナイショ」


「また秘密か。祭りのあと一体何があったんだ。ハッ! まさか三人で!?」


 匠がまた最低な想像をして帆夏に殴られた。


「あの、美咲さん場所変えませんか?」


「そうね。続きは帰りながらにしよっか」

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