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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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27話 作戦会議 

「ここなら少しは時間が稼げるかもねぇ」


 三香は壁に背を当て窓から外の様子を覗き見ている。

 奇術師がいないことを確認すると、窓から離れその場にゆっくりと腰を下ろした。

 

 奇術師から逃走した二人は空き家に入り、身を隠していた。

 空き家といっても、建物自体は比較的新しい。築10年以内といったところだろうか。

 生活感があり、屋内もよく清掃が行き届いている。この家に人が住んでいないことのほうが不自然なくらいである。

 それもそのはず、そもそもここは空き家ではない。本来ならここは人が暮らしているはずの住居である。

 人がいないのはここが『影の世界』だから。現実ではここにも家族がいて、今はもう夜も遅いからみんな自室で就寝していることだろう。

 現実なら隠れる場所を探すのも一苦労だが『影の世界』ならその心配はない。なにせ全てが空き家なのだから身を潜めることに苦労することはない。


「三香……さん、あなた――」


 美咲がそう話しかけたところで、二人が座る廊下の奥に明かりが差した。

 二人は同時に明かりの方を見やる。明かりがついているドアの先にあるのはトイレだ。

 トイレから漏れる明かりを警戒していると、続いて水の流れる音が静寂を破った。

 家が静かなため、やけに音が大きく感じる。やがて明かりも水の音も消え、静寂の空気を取り戻した。


 『影の世界』ではたびたびこのようなことが起こる。それはこの世界が現実の影響を受けるからだ。

 現実で誰かがトイレに立ち、明かりをつけ水を流した。だから『影の世界』でも同じようになった。

 ただそれだけだ。それだけなのだが、やはりわかっていても、実際に体験すると心霊現象のようで胸の内が少しざわついてしまう。周囲の変化に敏感になっている今ならなおのこと反応してしまうのだ。


 全て元通りになったところで美咲は先程の話の続きを始めた。


「三香さん、あなたは波動のコントロールはできるの? 隠れても生命の波動を抑えないとすぐ見つかるわ」


「あら、そうなの? あなたたちが言ってる波動ってよく知らないのよねぇ……でも問題ないわぁ。作戦会議の時間が欲しかっただけだから少し時間が稼げればそれでいいの」


「作戦?」


「そう、作戦。あたしたちと美咲ちゃんであいつに勝つためのね」


 三香が逃走を提案したのは、勝利を諦めたわけではない。ここで息を殺して潜んでいるのは全て勝つためだ。

 もちろん勝負を捨て本当に逃げてしまうという選択肢もあった。さっさと現実世界に戻れば逃げ切れる可能性は十分あった。

 だが二人はその選択をしなかった。

 彼女たちはすでに素顔を奇術師に見られてしまっている。

 三香としては、仮に逃げ切れたとしても、いつ命を狙って襲って来るかわからない相手にビクビクと怯えながら過ごす日々を送る人生などまっぴらである。


 美咲としては、これ以上犠牲者を増やさないためにも、奇術師はなんとしてでもここで倒しておきたかった。もし奇術師が仮面の殺人鬼であるなら連続殺人もそこでストップするはずである。


「……勝算はあるの?」


「あるわ。今ならまだね」


「今なら?」


「あいつが全力で殺しに来たらあたしたちに勝ち目はないわぁ。でもさっきあいつとやりあった時に確信したわぁ。あいつは全力をださない」


「どうして?」


「戦いを楽しんでるからよぉ。あいつとあたしじゃ力の差がありすぎて、全力を出されたら何もできないまま終わっちゃうわぁ。それじゃ楽しめないからあいつはたぶん全力をださない。それを証拠に信五やあたしと戦ってる時、あいつは全くと言っていいほど仮面能力を使わなかったでしょ? 能力を使えないほど消耗していたようには見えないし、温存してるって感じでもないのにね」


 美咲も言われてハッとなった。三香の言うことは一理ある。確かに自分の時には使っていた【奇術】を零が戦い始めてからはほとんど使っていない。


「でも危なくなったらさすがにあいつも【奇術】を使うでしょ?」


「そうねぇ。だからあいつが本気になる前に勝負を決めなければいけないわ。今あいつはあたしに興味津々みたいだから、少なくともあたしが能力を使うまでは全力でつぶしに来ることはないはず。だからあたしが能力を使った時が最初で最後のチャンスになると思うわぁ」


「最初で最後のチャンス……」


 チャンスは一度きり。失敗すればもう打つ手はない。だがこれまでの絶望的な状況から考えれば可能性があるだけまだマシだろう。

 美咲は三香の作戦に賭けることに決めた。


「わかったわ。作戦内容を教えて」


「いいわぁ。教えてあげる。けどその前に確認するけどここでギリギリまで休んだとして美咲ちゃんはあと何回、氷を出せるのかしらぁ?」


「たぶん無理をしても二回、あいつを仕留めるほどの大技なら一回、出せるかどうか……ごめんなさい」


「謝る必要はないわぁ。信五が時間稼ぎもせずに調子に乗って、いきなり最速で果てたのが悪いのよぉ。だから悪いのは全部、早漏野郎の信五のせい。それに二回使えるなら充分よぉ。重要なのは回数だからぁ」


「回数?」


「じゃあ時間もないしそろそろ作戦を説明するわぁ。まずあたしの能力だけど……」

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