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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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23話 半覚醒

 意識が朦朧(もうろう)としている。体が焼けるように熱い。傷のせいかとも思ったが違う。

 心が何か巨大な力に塗りつぶされそうになる。

 いま気を抜けば自分がなくなってしまう。そんな気がした。

 だが悪いことばかりではない。さっきまで言う事をきかなかった体が今は動かせる。

 それにいつもより体が軽い。


 あの人を助けなければ、そう思ったときには零は彼女の前に立っていた。


「御幸……くん?」


 美咲から零の顔は見えない。だが彼の体に起きている異常はすぐに気がついた。

 零の発する生命の波動がさっきまでと明らかに違っていたからだ。

 この強い波動は常人のそれではない。つまり、それは――。


「おめでとう! 少年。そしてようこそ仮面能力者の世界へ! と、言いたいところですがどうやらまだ完全覚醒には至っていないようですね。仮面の形成もせいぜい2割か3割程度。半覚醒といったところですかね」


 奇術師に言われてようやく零も気がついた。自分の左頬の辺りに何かがあることを、自分の周りにある光の玉の存在を。

 最後の光の玉が零の仮面に触れ、そして消える。そこまでだった。それで仮面の形成は終わってしまった。

 零の仮面は完全な形になることはなかった。


「残念。仮面の形成はここでストップですか。しかし不完全とはいえこの土壇場で仮面を発現させるとは驚きました。ですがどうやら私が相手をするには、まだまだ力不足は否めないようです。最適な相手を用意しましょう」


 奇術師はシルクハットを脱いで、中に何も入っていないことを零たちに見せつけたあと足元に置く。

 さらに奇術師はステッキでシルクハットをトントンと二回叩く。

 すると中に何もいないはずのシルクハットがもぞもぞと動き出した。

 シルクハットは右へ左へと揺れ続ける。

 次第に揺れが大きくなり、地面とシルクハットのわずかに空いた隙間から、黒い影が飛び出した。

 飛び出した黒い影はみるみるうちに巨大化していく。


「実は私、面白いものを見つけると、ついつい帽子の中にしまってしまう癖がありまして……これは最近拾ったばかりのお気に入りです」


「イカれてるわ……」


 零と美咲は奇術師の奇行に呆気にとられていた。シルクハットの中から飛び出した黒い影の正体は仮面凶蝕者だった。

 3メートルはあろう凶蝕者はおぞましいうめき声をあげると、いきなり奇術師に向かって巨大な腕で攻撃した。


「おやおや、獲物はあっちですよ。おバカさん」


 奇術師はカウンターパンチをお見舞いし、凶蝕者の進行方向を無理やり零たちの方へと向ける。

 凶蝕者は新たなターゲットに零を選ぶと大木のような腕を振り下ろした。

 後ろにいる美咲をかばい、零は避けることなくその場で凶蝕者の一撃を受け止めた。

 衝撃で地面は割れ、押しつぶされそうになるのを必死でこらえる。

 半覚醒とはいえ仮面を発現させていなければ、今の一撃で零はペシャンコだっただろう。

 

 初撃は何とか耐えたが、凶蝕者は第二撃のためにもう片方の腕を振り上げていた。

 零は腕を振り下ろされる前に、凶蝕者の足を目がけて体当たりする。

 凶蝕者がバランスを崩した隙に、零は弱点である仮面を狙って拳を叩きこむ。

 攻撃はヒットし凶蝕者の仮面にはヒビが入る。

 だがヒビが入っただけで破壊には至らなかった。

 怒りでさらに凶暴性を増した凶蝕者は、零の伸ばした腕を掴んで振り回し地面に叩きつけた。

 すさまじい衝撃の後に零の全身に激痛が走り、口の中いっぱいに鉄の味が広がった。


(……まずい。早く立た……ないと――)


「御幸くん、立って! 御幸くん!!」


 美咲の叫びも零にはやけに遠くに感じた。視界も霞んでいる。

 やっとの思いで立ち上がるも、続く凶蝕者の攻撃で零はサッカーボールのように蹴り飛ばされた。

 壁に激突するまで飛ばされてようやく止まる。

 息はまだあるがもう一撃食らったらおしまいの状況。

 さらにまずいことに今の一撃で零は仮面が消失してしまった。


(僕は……もうダメ……だ。頼む。誰でもいい。誰か……美咲さんを――)


 今の状況をひっくり返してくれる誰かなど都合よくいるはずがない。(わら)にもすがる思いだった。


――仕方ないッスね


 返答があった。零は願いを口にはしていない。心の声だったはずだ。

 それでも零には確かに聞こえた。はっきりと。

 零の意識はそこで途切れ、声の正体を確かめることはできなかった。

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