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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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1話 幼馴染み

 久しぶりに昔の夢を見た。

 あの日の夢を見たのは、おそらく仮面の噂を耳にしたせいだ。

 仮面の噂……。本当に馬鹿馬鹿しい話だ。あんな噂を本気で信じる奴なんてどうかしてる。

 きっと俺もそう思っていただろう。あの日、あの人に会ってさえいなければ……。

 でも出会ってしまったのだ。だから俺にはわかる。

 仮面の噂が真実だということが。


 もう四年も前……俺がまだ小学生の頃の話だ。

 昔の俺は怖いもの知らずだった。同級生と比べて体が大きかったから、ケンカで負けたことなんてなかったし、中学生相手に勝ったこともあった。

 運動神経抜群で昔は結構モテていた気がする。

 勉強の方はまぁそれなりだ。本気でやればできるはず。

 少なくともバカではない。地頭は良いはずだ。


 俺には幼馴染みの女の子がいる。家が近所で親同士の仲が良かったから、小さい頃から自然といつも一緒にいた。

 兄妹のような関係で家族といっていいほど近い距離にいる子だった。

 けどその関係は四年生になった頃に変わり始めた。

 別に特に何かがあったわけではない。ただお互いに二人で話すことが目に見えて減っていった。同じクラスだからまったく話をしないというわけではない。だが以前に比べてどうしてもぎこちない感じになってしまう。

 そんな関係は六年生まで続いた。ある日、俺は思い切ってその子を夏祭りに誘うことにした。

 このモヤモヤしてすっきりしない関係性を何とかしたかったからだ。

 その子は始め、すごく驚いていたが喜んでいるようだった。俺は嫌われていたわけではないとわかって、ほっと胸をなでおろしたのを今でもよく覚えている。

 その日からは祭りの日までどうにも俺の心は落ち着いてくれなかった。授業になんかまったく集中できないし、気が付けばその子のことを目で追ってしまう。たまに目が合うこともあって、思わず目をそらしてしまうことも多々あった。

 おかしい。以前なら目が合っただけでこんなことにはならなかったのに。


 そんな日々を繰り返し、ついに夏祭りの日になった。

 友達との約束ならいつもギリギリ……というより、いつも遅刻している俺だがその日は三十分以上も早く着いてしまっていた。

 まだ来るはずないのに、俺は辺りをキョロキョロと見渡しては時間を見る、という無意味なことを何度も繰り返す。

 約束の十分前ぐらいになると『もしかしたら来ないかも』という不安に駆られ始めた。

 幼馴染みが来たのは約束の時間から十五分ほど過ぎたころだった。慌てた様子でやってきて、着くと同時に何回も謝ってきた。

 遅れたのは準備に手間取ったかららしい。だが遅刻してきたことなんて俺にはどうでも良かった。何度も謝る彼女の言葉もほとんど耳に入らなかった。

 俺は浴衣姿の幼馴染みに心を奪われていた。

 気の利いたセリフの一つでも言ってやりたかったが、言葉は喉につっかえて出てこない。


「……早く、行こうぜ」


 代わりに出てきた言葉はぶっきらぼうで、怒っていると思われたかもしれない。

 とりあえず屋台を回ることにしたが、俺たちの間には以前にも増した微妙なぎこちなさがついてまわった。

 話題を必死に探して振ってくる幼馴染みに、俺はいつもみたいにうまく返すことができずつまらない返答ばかりになってしまう。

 すっきりしない関係性が嫌で祭に誘ったのに逆に悪化してしまった。

 原因は考えるまでもなく俺だ。俺は幼馴染みが女の子だということを、今更ながら強く意識するようになってしまった。

 今までは男とか女とか、そんな括りを取っ払った関係性だった。物心がついた時からずっと一緒で、今も学校で毎日顔を合わせているのに今の今まで気づかなかった。

 彼女は本当に綺麗になった。なぜ気づかなかったんだろう? 

 こんなに近くにいたのに――いや、逆だ。きっと近くにいたから気づけなかったのだ。


 今日からまた昔みたいに、何でも言い合える友達に戻れると思っていた。でも、もう遅いのだ。

 俺はもうそれでは満足できない。たとえ昔の関係に戻れてもすっきりしない。

 関係を元に戻すのではダメだ。進めることでしかこのモヤモヤはきっと晴れてはくれない。


 時間はあっという間に過ぎて夏祭りは終わってしまった。

 俺と幼馴染みは一言も言葉を交わすことなく、ただ静かに帰りの道を歩いていた。

 近くには誰もいない。祭りの喧騒ももうずいぶんと遠くに感じる。

 幼馴染みはずっと下を向き暗い顔をしたままだ。


 このまま今日を終わらせたくなくて俺はその場で立ち止まった。

 突然立ち止まった俺に驚いて幼馴染みは顔を上げる。


「あのさ、俺……お前のことが……」


 そこまで言って俺は一度、口を閉じた。

 本当は今日の態度を謝るつもりだった。自分から誘っておいてまともに話をせず、自分のせいで暗い顔にさせてしまったことを謝りたかった。

 なのに口から出てきたのは、謝るための言葉ではなかった。でもきっとこれでいいのだ。

 もしかしたらこの続きを口にしたら、二人の関係は修復不可能なほどに壊れてしまうかもしれない。昔みたいな関係に戻ることはできなくなる。

 でも、それでも伝えたい。伝えなければならない。自分の本当の気持ちを。

 

 俺は覚悟を決めてもう一度口を開く。


「俺は! お前のことが――」


 だがその言葉の続きが彼女に届くことはなかった。

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