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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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15話 仮面の美少女

 あの恐ろしい化け物を目の前の女はあっさりと倒してしまった。

 仮面の美少女は化け物の崩壊を見届けるとゆっくりこちらに迫ってくる。

 敵か味方か。迫りくる仮面の美少女に零は恐怖を禁じ得ない。

 助けてくれたとはいえ目の前の女は仮面をつけている。

 まだ彼女が仮面の殺人鬼の可能性だって捨てきれない。助けてくれたわけではなく、化け物を殺すのが目的だっただけかもしれない。

 見てはいけないものを見てしまった自分は、口封じで殺すということも充分ありうる。

 彼女から目を離せないまま頭の中では嫌な考えが絶えずめぐっていた。

 そもそも戦っているうちにさっさと逃げるべきだったのだ。零は一分前の馬鹿な自分を嘆いた。


「もう大丈夫よ。ケガはない?」


 そんな零の不安をかき消すように掛けられた言葉は、やわらかで温かいものだった。


「は、はい。大丈夫です。あの助けて……くれたんですよね? ありがとうございます」


 まずは礼を言って彼女の目的を確認する。本当に自分を助けるために戦ってくれたのか、別の理由があったのかの確認。


「気にしなくていいよ。あいつらを殺すのが私の役目だから」


 彼女の目的は仮面の化け物を殺すことで、助けてくれたのはただのついでだったようだ。

 だがまだ完全に心を許すわけにはいかない。油断して背後から刺されるという間抜けな死に方は避けたい。


(まぁそんなことしなくても、この人相手に僕はどうすることもできないから油断させる意味もないか……)


 仮面の化け物を一分もかからず倒してしまった仮面の美少女。

 彼女が本気になれば零は死んだことにも気づかないほどあっさりあの世行きである。


「もしかして私のこと警戒している? すごい汗だよ」

 

 動揺、恐怖、猜疑心。彼女に向ける感情を悟られないよう努めていたが、隠しきれるものではなかった。

 表情は作れても勝手に流れ出る汗まで止めることは零にはできない。


「……あなたは仮面の殺人鬼ですか?」


 どうせ心の内を見透かされているのなら、いっそ思い切って彼女への疑念をさらけ出す。

 

「ああ……そっか。そうだよね。今は仮面の噂が流れてるし、そう思っても仕方ないよね」


(反応からすると仮面の殺人鬼ではなさそうだけど、どうだろうか?)


 少なくとも零の目には、彼女が嘘を言っているようには感じられなかった。


「うーん、考えたけど自分は違うって証明することはちょっと難しいかな。それにちょっと否定しきれない部分もあるから」


 ここで証拠もなしに自分は仮面の殺人鬼ではないと主張すれば、逆に零の疑念は増していただろう。

 最後のほうはちょっと引っかかるものがあったが、信じてもいいのかもしれない。


「私からもいくつか聞きたいことがあるんだけど。いいかな?」


「あ、はい」


 こっちはまだまだ聞きたいことが山ほどあるが、ここは相手に従っておくべきだと零は判断した。


「一応、確認なんだけど君は『仮面能力者』じゃないんだよね?」


「……仮面能力者?」


 字からなんとなく察することはできたが、零は首を傾げてわからないとアピールをした。


「わからないならいいわ。じゃあ仮面を持っていたりしない?」


「はい、持っていません。あ、でもお面なら……」


 そう言いかけて零は匠からもらったお面がないことに気が付いた。

 近くに落ちてないか周囲を見回したがお面はどこにも見当たらなかった。

 思い返せば最初に化け物に襲われて意識を失った時からなかった気がした。


「どうかしたの?」


「祭りで友達からお面をもらったんですけど、あの化け物から逃げているうちになくしちゃったみたいです」


「お面……ね。そう、残念だったね」


「まあただのお面ですし……。謝れば友達も許してくれると思うので。あの、僕も聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「そうよね。聞きたいこといっぱいあるよね。でもごめんね。たぶん全てを話すことはできないと思う。それでもいい?」


「構いません。話せることだけで」


「そう。じゃあまず何が聞きたいの?」


 聞きたいことはいろいろあった。仮面の事、あの氷を作り出す力の事、化け物の事などなど。あげたらキリがない。

 だがまずその前に零にははっきりとさせておきたいことがあった。

 今、目の前にいる人が着ている浴衣。近くで見るとはっきりわかる。祭りの時にあの人が着ていたものと同じものだと。


「あの……あなたは倉科先輩ですよね?」


「え!? 君、虹陽の生徒だったの!? てっきり中学生かと……」


「やっぱり倉科先輩だったんですね」


 仮面の美少女はしまったという表情を浮かべた。零からの問いに思わず素直に反応してしまったため、ごまかすこともできなくなってしまった。


「……はあ、失敗したわ。まずは仮面やあの化け物のことを聞いてくると思ってたのに。まあいっか。君の想像通り、私は虹陽高校二年の倉科美咲です」


 美咲はそう言うと右手で仮面に触れた。すると仮面は手品のように消え、美咲の素顔があらわになった。

 素顔をさらしたのは仮面で隠す必要がなくなったためだろう。

 仮面の下に隠れていた、思わず見とれてしまうほどの美しい容姿に零は息をのんだ。

 零は祭りですでに遠目ではあるが彼女の素顔を見ていた。

 だが目の前で改めて彼女を見ると破壊力満点である。

 近くで見ても欠点の一つも浮かばない。彼女に少し微笑まれただけでも大抵の男は落ちてしまうだろう。


「え、えーと僕は一年の御幸零っていいます」


「御幸くんね。よろしく、他に聞きたいことは?」


「仮面のことについて知りたいです。さっき仮面能力者って言っていましたよね? それは先輩やあの化け物みたいな仮面をつけた人のことですか?」


 零はとりあえず一番重要そうなキーワードである仮面について聞くことにした。


「私は仮面能力者だけどあの化け物は『仮面凶蝕者』、別の存在よ。仮面能力者は簡単にいえば仮面を発現させて特殊な力を手にした人のこと。私は『氷の仮面』を発現させた氷を操る仮面能力者なの」


「氷の仮面能力者……。先輩みたいな人は他にもいっぱいいるんですか?」


「いっぱいってわけじゃないけど、私みたいに仮面を発現させられる人はこの街にも何人かいるわ。仮面能力は人それぞれね」


「じゃあ次にあの化け物、仮面キョウショクシャっていうのは何ですか?」


「……仮面凶蝕者は一言でいうと暴走した仮面能力者。私たち仮面能力者が発現させる仮面っていうのはそもそも己の精神の具現化、内にある本当の自分……心が形になったものなの。心あるものなら誰でも仮面を発現させられる可能性はある。けれど仮面の力はとても強大でコントロールがすごく難しいの。だから誰でも簡単に扱えるわけじゃない。何かのきっかけで仮面が発現しても、制御できなければその強すぎる力に心と体が蝕まれていく。そしてやがては心をなくし、さっきの化け物みたいになってしまうの。破壊と殺戮を繰り返す化け物にね」


「……じゃあやっぱりあの化け物も僕たちと同じ人間だったんですね」


「ええ、ああなってしまったら仮面を破壊する以外に道はないわ。それで元の姿に戻る人もいる。だけどさっき私が倒した凶蝕者みたいに人の心を完全に失っていれば、もう元には戻らない。仮面を破壊すればあとは塵となって消えるだけよ」


「人としての心も形も残らないなんて……。そんなの――」


「……辛いよね。でも誰かが終わらせなければ仮面凶蝕者になった人はずっと苦しみ続けることになる。大切な人も傷つけてしまうかもしれない。そのほうがもっと辛いでしょ?」


「……そうですね」


「質問はこのくらいでいい? まだ何かある?」


「あの実はさっき先輩と会う前に別の仮面凶蝕者に襲われたんですけど……」


 最初に零を襲ってきた仮面凶蝕者。意識を失っている間にどこかに消えてしまったがあれを放置することはできない。


「たぶん、だれかが倒したわ。一瞬だけだったけど強い波動を感じた後、凶蝕者の波動が消えたから……。そういえば君、変わった波動だね」


「は、波動ですか?」


 また聞き慣れない単語が出てきて零は聞き返した。


「波動っていうのは……うーん、やっぱり長くなりそうだし続きは帰りながら説明するね。もう遅いしそろそろ帰りましょ。……そういえば君はどうやってこの世界に来たの?」


「この世界? どういう意味ですか?」


「周りの様子、何かおかしいって感じなかった?」


 零は辺りを見回した。


「そういえばさっきから人の気配がまったくしないです」


 そもそもいくら真夜中とはいえ、あれだけ派手な戦闘があったのに誰も気が付かないというのがもうおかしい。


「ここはね、『影の世界』っていう私たちのいる世界とよく似たもう一つの世界なの」

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