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ゼロの仮面  作者: 赤羽景
第一章
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13話 苦い記憶

 あれは確か僕がまだ小学生の頃の話だ。

 僕がまだヒーローのことを嫌いじゃなかったころの話。

 今と同じで体は他の同級生と比べてもひと際小さかった。

 あの頃から女の子に間違えられることも多くて、昔からかわいい、かわいいと、出会う人達みんなに言われてきた。 

 クラスの男子からも女子の中で一番かわいい、なんてよくからかわれた。


 思えばこの頃から僕のことを『かっこいい』と言ってくれる人は誰一人いなかった。


 今と違って性格はもっとずっと明るくて元気で、なにより純粋だった気がする。

 昔からアニメや映画に出てくるヒーローが大好きで憧れていた。

 そう、僕はなりたかったのだ。ヒーローのようにみんなを守れるかっこいい男に。

 正しいことを続けていけば、誰かを助ければ、自分もいつかそんなヒーローたちのようになれると本気で信じていた。

 でもそんな日はやって来なかった。


 ある日僕は帰りを急いでいた。その日は毎週楽しみにしているレインボー仮面の放送日だったからだ。

 一週間が長くて嫌で嫌で、続きを見るのが楽しみで楽しみで仕方がなかった。そんな幸福な気持ちだった。あの瞬間までは――。


 帰り道の途中コンビニの近くで隣のクラスの子を見つけた。たしか中谷くんだ。

 いつも大人しくて友達もいない。休み時間も一人で過ごしているような奴だ。僕も話したことはなかった。

 そんな中谷くんの周りに他に三人の男の子がいた。三人とも中谷くんのクラスメイトだ。

 この三人とは話したことがあったが正直、嫌いだった。自分勝手で乱暴でよく問題を起こすから先生に怒られているところをよく見かけた。

 三人はなぜか僕を気に入ってたみたいなので僕には友好的な態度だった。

 だがあの三人は気に入らない人間にはとことん冷たくなる。

 ひどいいじめもしていると他の友達から聞いたこともあった。

 だからそんな三人と中谷くんがコンビニの近くで何か話している、それだけで嫌な予感がした。


 遠くから隠れて見ていると、背中を押された中谷くんがコンビニに入って行くのが見えた。

 他の三人はコンビニから少し離れたところでニヤニヤと笑いながら待っている。

 その光景を目の当たりにして僕はすべてを理解した。

 中谷くんはあの三人にいじめられている。そしてコンビニに中谷くんだけ入って行ったのは、万引きをさせるためだろうと。


 しばらくして中谷くんがコンビニから出てきた。

 手には何も持っていないから、ポケットかランドセルの中に盗んだ物を入れているのだろう。

 中谷くんはゆっくりとした足取りで三人の前に戻ってきた。彼は顔面蒼白で口を開いてなにかを訴えている。

 それを聞くと三人のうちの一人が激昂し、中谷くんを殴りつけた。

 他の二人も加わって地面に倒れこんだ中谷くんをリンチする。加減をしらない容赦のない暴力に中谷くんは、体を丸くして必死に耐えていた。


 中谷くんはきっと何も盗まなかった。脅されてコンビニに入ったが思い留まったのだ。


 僕は飛び出して助けようとした。だがその瞬間、頭の中で嫌な声が聞こえた。

 

 ――自分に何ができる?

 

 相手は三人、しかも三人とも自分より体が大きい。それに仮に一人だったとしても勝つことはできないだろう。

 逃げるわけじゃない。三人相手に立ち向かうのが間違いなんだ。

 ここは堪えて助けを呼びに行くのが最善の選択なんだ。


 その場を離れるときチラッと四人のほうを見ると中谷くんと目が合った気がした。

 僕は顔をそむけると急いで走り出した。

 誰でもいい、誰か助けてくれそうな人を探さなければ……。

 そう考えながら走っているとまた頭の中で嫌な声が聞こえた。

 

 ――もし助けを呼んだのが僕だとバレたらあの三人はどうするだろうか? 


 気が付くと僕は玄関のドアを開けていた。家に入り自分の部屋に鍵をかけて閉じこもる。

 その日は体調が悪いと嘘をついて夕飯を食べなかった。

 僕は悪くない。そもそも僕は関係のない部外者だ。助ける理由もなかったのだ。自分と無関係の人間にいちいち手を差し伸べていたらキリがないのだ。

 僕は自分にそう言い聞かせた。

 ベッドの上で布団を頭までかぶって今日のこと忘れようと必死になった。

 だがいくら目をつぶっても、あの時の中谷くんの顔が頭にこびりついて消えてくれない。

 あの時、僕は中谷くんと目が合った。痛みに堪えながら彼は僕に訴えていた。


「助けて……」


 確かに彼は僕へそう訴えていた。僕はそれに気づかないフリをした。


 僕はこの日からレインボー仮面を見なくなった。

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